70話 ピンチ!
動いていた荷台が急に止まり、慌てふためく声と威嚇するような声が混じり合う。
「こ、殺さないでくれえ!」
「おらぁ!死にたくねぇならさっさと逃げやがれ!」
「ひいいいいいいぃぃ!」
二人の盗賊がどこからともなく現れ、短剣を引き抜き脅す。
情けない声を出しながら若い男の人が走り去っていくのが聞こえる。ここまでは作戦通りだ。後はこの荷台を持って行ってもらうだけだ。
「小麦か、銀貨数枚分になるか」
「しけてやがるぜ。これじゃあ割に合いませんぜ」
「売れる商品なだけマシだろ。それとも自分たちで刈り取るか?」
「んな、盗んで楽をするのが目的なのに労働なんてするわけ無いでっせ」
盗賊たちが愚痴をこぼしながら荷台を引いていく。これで何事もなければ、無事に奇襲ができるはずだ。
「にしても、これを盗んでどうするんです?明日には大量の獲物が入るってのに」
「ばか、盗んだ物を入れる台が必要だろが?少しは考えろ」
「ああー。だから全員に荷台を盗めって命令が出てるんっすね」
やはりそういうことだったのか。各地で盗賊の動きが活発になっていたのは、荷が目当てではなく荷台が目当てだったということだ。
そして、その荷台を使って町にある物を根こそぎ奪おうという計画だ。
「しっかし、この荷台重いな…」
「あっしのは軽いでっせ。きっと小麦以外の野菜も入ってるんじゃないですかい」
重さの話になってヒヤっとする。マリンの体重を加味して、入れる小麦の量を調整するべきだったか。それでも中身を確認されていないのが唯一の救いか。
今頃彼女は体重のことを言われてご立腹かもしれないが…その怒りは後の事に取っておいてほしいものだ。
荷台が盗賊にゴトゴト引かれていく。赤い空はもうすでに暗くなって深い青色のように見えてくる。
きらきら光る星々と松明の煌煌と燃える様が夜の空にとても合っている。って思っている場合ではない、ようやく盗賊のアジトに到着だ。
木を荒く削った棒がいくつも地面に刺さり囲いを作っている。その中に木でできた住居と見れる家に、倉庫らしき建物もある。中央のかがり火の周りで数人の盗賊が話しているのと、奪われたであろう荷台があちこちに置かれている。
盗賊に引かれていた荷台はかがり火の近くに置かれる。後はこのまま全員が寝静まるのを待つだけだ。
荷台を引いていた男が偉そうな男に報告しに行く。あれが盗賊の首領だろう。服と付けている装飾品が他の奴らとは段違いにいいものだ。
何かこそこそと話した後、首領と荷台を引いていた男が荷台に近づいていく。なんかやばい気がするのだが…
「おい、お前ら!荷台も集まったことだ!それに今日はいい獲物が手に入ったそうだぞ!みんなで楽しもうじゃないか!」
「おお!これは楽しみだ!」
「お前ら早く集まれ!」
盗賊たちが首領を囲んで集まり始める。まるで何が始まるか分かっているかのようだ。
つまり、これは非常にマズイ!
「さあ、出てこい、お楽しみさんよ!せいっ!」
「そりゃ!」
男の手が小麦の山に勢いよく突っ込まれる。そして首領の顔が何かいい物を探し当てたかのように卑劣な笑みを浮かべる。
勢いよく腕を引き抜いて上に持ち上げる。その手の先には可憐な青髪の少女の首が掴まれていた。
「は、離しなさいっ!」
「ちぇ、一人だけだったか。こっちにも入っていると思ったんだが」
超が付く可憐な少女が出てきたことにより盗賊たちが大歓喜している。なんて分かりやすい男共だろうか。今すぐに全員を処したいがまずはマリンを助けるのが先だ。
「は、はな…して…」
「さあて!まずは何処で遊んでやろうか?気絶状態でもいいよなぁ?」
「起きた時の絶望した顔が見てみたいぜ!」
「さあ!始めるぞ!」
次の瞬間、首領の頭と胴体が切り離される。首からは赤く新鮮な血がドロドロと流れ出て、首を掴まれていた女の子が地面に落とされる。
首領の体が前に倒れると、その後ろからは血がついた剣を持った少女の姿がゆっくりと現れた。
「そうですね。あなた達の顔が恐怖で染まる時間を始めましょうか…」
げきおこアリスちゃんの登場です。




