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63話 パンケーキ!

せんせーい。パンケーキは料理に入りますかー?

 翌日。


 私とマリンはそれぞれエプロンを身に着け調理台の前に立っていた。サヤさんも同様にエプロンを身に着け道具の準備をしている。


「さて、パンケーキを作る前に料理の基本を教えるわ。材料を切る、炒める、味付けをする、盛り付ける、以上よ」

「そ、そんなに簡単なものなんですか」

「そうよ。如何に手間を掛けないかが重要よ。炒めるだけじゃなくて、蒸したり煮たりもできるわよ」


 まるで簡単にできるような言い方をしているが、料理をしたことがない私にはどれも難しいように聞こえる。


「まあ、今日は何も難しいことはないパンケーキを作るから問題ないわ。材料を量って混ぜて、焼くだけよ!」


 どんっと小麦の入った袋が目の前に置かれる。ついでに横に小さいカップが置かれる。


「さあ量りますよ!このカップで300グラム分の小麦粉を取っておいてください!」


 カップを手に取ってよく見ると線が引いてあり文字が書かれている。どうやらこのカップ一杯で丁度よくなるようになっているみたいだ。


「今度はこのボウルに卵を一個割り入れますよ」


 サヤさんはそう言って卵を手に取り、机の角にコンコンとぶつけきれいに割っていく。

 私も卵を手に取り観察する。白くて硬い殻に覆われているが、とても壊れやすそうな印象を受ける。


 コンッ コンッ


 初めて割るので怖くて力が入れられない。サヤさんは軽々と割っていたが、私がやると全然割れない。それどころかヒビすら入らない。

 少しずつ力を強めていくと突然ヒビが入り、持っている殻が壊れそうになる。

 慌ててボウルの中に卵の中身を落とすが、落とす際に殻の一部が入りそうになってパニックになる。


「あっはっは。小さい時の私を見ているようだわ」

「マリンさん!からかわないで下さいよ!これでも手一杯なんですから!」


「はいはい。焦らない焦らない。料理は落ち着いてやらないと失敗しますからね。あとボウルに入った殻は手に持っている殻で取るといいですよ」


 初めての卵割りはまずまずの結果であった。だがこれで終わりではない。割った卵を今度はヘラでほぐしていく。


「はーい、卵を綺麗にとけたら、ここに準備してある牛乳を少しずつ入れていきながら混ぜますよー」


 全部を一気に入れてはいけないのだろうか…?少しずついれるのは私の根気を試されている気がする。


「そうそう、そうですよ。何事も根気です。火を使うときも強火ではなく、じっくり焼くことも必要な時がありますよ」


 今度はサヤさんがカップに入った小麦粉を震わせながら少しずつ振り入れている。また少しずつらしい。料理って繊細さが必要なのか?

 片手で粉を入れながら片手で混ぜる。ボウルを抑える手が足りていないのは気のせいだろうか。


「はい、アリスさん。ボウルの下には布を引きましょうね。そうすればボウルが動き回らなくなりますよ」


 やはり気のせいではなかったらしい。というかした方が良い事は最初に言ってくれればいいのに。

 そう文句を心の中で呟きつつ、粉を全て混ぜ終わる。次は焼きの工程のようだ。


「それじゃあ、火打石を使って火を付けましょうか。もちろん火打石は使えますよね?」

「えーと…魔法じゃだめですか?」

「アリスちゃん、火魔法が使えるからってずるいわよ。付けるなら私のにも付けなさいよ」

「やはり魔法使いは便利でいいですねぇ。もしかしたら火の大きさも変えられたりして…いいなぁ」


 サヤさんのぼやきを聞き流して火を薪につける。ちょうど台の上に置いてあるフライパンの底に火が付く感じになった。


「火が付きましたね。普通の料理なら油を引いてから炒めますが、今日は何も引きません。その代わり温まったフライパンを一旦水で濡らした布で冷ましましょう」


 既に準備してある布にフライパンを押し付ける。ジューとフライパンの底から湯気が立ち上る。これはいつまで布につけていればいいのだろうか?


「フライパンは160℃が目安ですよ。なんて言っても温度は見えないので感覚で覚えるしかないんですけどね」


 感覚ですか。温度の感覚なんて覚えられるものなのだろうか?火魔法を極めればいいのかもしれないが、あいにくそこまで火を扱おうとも思わない。


「温度が下がりましたね!それではオタマに先ほど作ったタネを満たして、フライパンの中心に流し込みましょう!丸くしようとして円状に流し込んではいけませんよ」


 言われたように真ん中めがけて流し込む。最初は大丈夫か不安であったが流し込むにつれ自然と丸く広がっていく。不思議なものである。


 じーっと待ち続けること数分。焼いている物の表面に穴が開き始めた。


「穴が開き始めましたね。これがひっくり返す合図です。すぐにひっくり返しましょう!でもフライパンだけで返そうとか思わないでくださいよ」


 洗って水気を拭き取った木のヘラを使って返そうとするがうまくいかない。返せそうだが失敗しないか怖いのだ。


「こういうのは勢いが大事よ。勢い余って吹き飛んだりもするけど…」


 えい!と持ち上げて返す。一瞬だけ宙に浮いた半焼けパンケーキが半回転し、フライパンに吸い付くように戻っていく。


「やった!できた!」

「うんうん。いい色じゃない。一枚目だから少し色が薄いけど二枚目からはもっといいキツネ色になるわ。でもまだ終わりではないわ!気を抜かずに裏面もしっかり焼くのよ」


 あとは簡単であった。適度に裏面が焼けているかを確認して、いい色になってきたら皿に移すだけだった。


「じゃじゃーん!初めてのパンケーキかんせーい!」


 合計で三枚ほど焼いて、いい色順に皿に盛りつけられている。サヤさんはご褒美として四角いバターをその上に乗せてくれた。

 マリンのは私よりきれいに焼けている。見比べていたらお腹が空いてきた。


 エプロンを外して、用意された席に座る。三人で出来たてのパンケーキを口に放り込み、幸福に浸る。

 これで私も料理ができない人ではなくなったのだ。

おいしいよね。パンケーキ。

綺麗に焼けない人が多いらしいね。なんでだろうね。


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