22話 少しの贅沢
食べ歩き回。
シカの血飛沫を被ってから数日。軽い依頼をこなして日々の生活にも余裕が出てきた。
私はこの国の騎士団に追われている身だが、まだこの街には捜索の手が回ってきていない。理由はわからないが、もしかしたらまだ王都に居ると思っているのだろう。
私といえば、そんなことも忘れて今は色々な商店が並んでいる通りに来ている。そう、食べ歩きだ。
実を言うと、ここは通る度にお腹が空く匂いが漂ってきて私を誘惑してくる魔の地帯なのだ。だが今日は思う存分に楽しむことに決めたのだ!
すでに手には中々の大きさがあるお肉の串焼きが備わっている。かりかりに焼かれた表面と、その後に付けられたであろう濃い目のソースが口の中に広がって幸福感でいっぱいである。
ふらふらと店を見て歩いていると何やらキラキラと光る小さい宝石のようなものが売っていた。
「お!お嬢ちゃん。お守りとかいかがかな」
私は食べ終えた串を空間にしまい、平台に目を移す。
「これは一体なんのお守りなんですか?」
「おや、知らないのかい?色んな種類があるけど、身に着けると色々な効果が発動するんだよ」
書かれた文字を読んでいくと、様々な効果が書かれている。中には髪がさらさらになるとか、肌の保湿だとか… 本当に効果が出るのか謎なものもある。
「お嬢ちゃんは冒険者だろ?それならこの守護か、属性の効果はどうかな」
「風と土の魔法強化か… 二つ一緒に使えるのかしら?」
「ん?いや無理だぞ。身に着けられるのは必ず一つだけだ。じゃないと魔力欠乏症になるからな」
それならば、私の得意な風魔法を強化するか、それとも生命力強化の守護にするかかなり迷う。
攻撃的ではない私の戦闘スタイルなら守護の方があっているかもしれない。
「それじゃあ、守護にします。これは… どこに身に着けるんですか?」
「それはお嬢ちゃんが選ぶんだよ。こっちにあるネックレスタイプか腕輪、指輪の内から選んでくれ」
ネックレスタイプに惹かれるが、すでにギルド員証が首から掛かっているので腕輪型にする。腕輪と言っても太い訳ではなく、とても細い輪っかで身に着けているのも忘れてしまいそうなぐらい目立たない物だ。
店主のおじいさんは守護の宝石を手早くはめ込む。私はその間に銀貨30枚を支払う。
「ほい、出来たぞ。腕にはめる時に折れないように注意してな」
「わあ!ありがとうございます!」
私の髪の色と同じ金色の腕輪、そこにきらりと輝く赤色の宝石。これはかなり気に入った物が手に入った。
それからまたふらふらとおいしそうな食べ物を探して歩きだす。
今度は食料品を売っている店があった。私は料理をしたことがないので、この素材たちをどう使えばいいのか全くわからない。
そもそも、この素材たちは見たことすらもない。一体どこから来たのだろうか。
「あの、これって何ですか?」
「それは、トマトだよ。そっちにあるのはパプリカだよ。ここら辺じゃ見ないでしょ?一緒に煮るとおいしいのよ」
そうお姉さんが答えてくれる。かなり元気のありそうな人である。
「どこから来たんです?」
「西の森を抜けて北に行ったところよ。クロプ町って言うの。この国の食料庫とも言われているわ」
「へえ~。このつぼみのついた草はなんです?」
「それは、パセリよ。お料理の上にかけるとおしゃれになるわよ」
クロプ町について一通り聞いた後、私はトマトを一つ買ってその場を後にする。
そして次は何を食べようかと考えながら街を散策したのだった。




