初めての不寝番
予告なく加筆修正することがあります。
Sep-19-2020、一部変更。
ギルス達は手分けして、寝床を作った。寝床と言っても地面の石を取り除き、布を敷いただけの簡素なものだった。ゼンが地面に両手を置くと、魔法陣が出現し範囲内の石が砕けた。
「錬成魔法か。石が全て砕けたのじゃ。便利なものじゃ。」
「ゼン様は錬成魔法が使えるのですね。あんな簡単な錬成陣で発動させるなんて。」
「効果範囲を指定しただけよ。彼は本来、錬成陣なんて必要ないの。」
「そんな事が出来るのですか。詠唱無しで魔法を使うようなものですよ。」
「昼間、キキは詠唱しなかったのじゃ。ゼンが錬成陣無しでも不思議はないのじゃ。」
「まあ、その、研究の成果よ。」
木の根元にゼンが厚手の布を敷き、木に背中を預けて座った。ギルス達もゼンの錬成魔法で平らになった場所に移動して布を敷いた。
「トルエル子爵は暗殺者ギルドに、すでに依頼を出している。恐らく、男爵領に跨っている鉱山を独占したいのだろう。」
「暗殺者ギルド?」
ギルスによると、暗殺者ギルドは他のギルドと異なり、数人の仲間だけで組織される。傭兵ギルドの様に国に申請する必要も無く、勝手に名乗るだけでよかった。傭兵ギルドも暗殺者ギルドも、組合と言うよりは集団と言った方が正しかった。合法な傭兵ギルドに対し、暗殺者ギルドは非合法な集団だった。
「そうだったのね。私達は冒険者ギルドって聞いた事はあるけど、よく知らないの。」
この世界で最大級の規模と情報網を持っているのが、冒険者組合と商人組合だった。同じように、魔法師組合と盗賊組合も独自の情報網を持っていて、魔法師ギルドは魔法や魔道具の開発、盗賊ギルドはダンジョンや遺跡調査に同行し、罠の発見と解除、斥候として索敵を担当する。
「冒険者が環境状況、商人が経済状況を収集、蓄積しているわけね。」
「そうなるな。四つのギルドは国を越えて情報の収集と共有をしている。上層部はお互いつながっているらしい。」
ギルスは知る限りの情報をキキに語り終えると、夜の帳が辺りを包み込んだ。
「お嬢様、そろそろお休みになられた方がよろしいのでわ。」
「うにゅ、話しが聞きたいのじゃ。」
ミリアンとニーナのやり取りを見ながら、ギルスがゼンに近づいた。
「不寝番の順番を決めたいが、二人も入ってもらえないか?」
「必要ない。」
「大丈夫よ。ゼンがいるから。」
「ゼン殿一人に任せるわけにはいかないよ。」
「大丈夫よ。そういうことで、おやすみなさい。」
木に背を預けて目を閉じたゼンの横で、キキはゼンにもたれて目を閉じた。
「寝た!?」
四人の護衛は仕方なく魔物除けの魔道具を起動させて、不寝番の順番を決めた。弱い魔物は寄り付かなくなり、耐性を持った魔物でも結界を避けることが多いい。しかし、人間には全く効果が無いため、夜明けまでの時間を交代で見張る必要がある。四人なら二時間程度、六人なら一時間半となり、負担が軽くなるための勧誘だったようだ。最初の見張り役のズンターと交代して、燻らせる程度に小枝を追加しながら、ギルスが警戒に当たっていた。
「用を足してくる。」
ギルスに短く声を掛け、ゼンは街道へと向かった。野営地が見えなくなったところで立ち止まり、静かに森を見詰めた。
「いつもは狩る側だったろうが、今夜は狩られる側だ。さて、狩の時間だ。」
草原と森の境界を器用に移動する黒装束の三人を、ゼンはすぐに見つけ先回りした。黒装束達はゼンの目の前を通るが、気付いた気配がなかった。
「気付かんか。」
最後尾の黒装束にだけ聞こえるように言った。驚いて辺りを警戒するが、ゼンに気付くことが出来ないのか、キョロキョロと辺りを見渡すばかりだった。
後ろから伸びた手が、首に当てたナイフをゆっくりと引いた。ゼンは前の黒装束にすぐに追い付き音も無く仕留めた。野営地のそばで後続を待っていた黒装束に、ゼンがゆっくりと足音を立てて近づいた。
「遅いぞ!」
「そりゃ、悪かった。」
「何?」
黒装束が振り向くと同時に、ゼンのナイフが顔に突き刺さった。
「腹具合でも悪いのか?」
「問題ない。」
野営地に戻るとギルスが、帰りの遅いゼンに声を掛けると、短い返事が返って来た。
「また、寝たか。」
翌朝、馬車の荷台に増えた黒い装備品を見て、護衛達は首を傾げた。
「昨日は無かったのじゃ。」
キ♀:暗殺は無理よね。
ゼ♂:当然。
キ♀:最高のハンターは最高の忍びで暗殺者ね。
空♂:小出しにする予定です。




