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ニーナ、子爵に出会う

予告なく修正することがあります。

Sep-20-2020、一部変更。

 ニーナ達の前に貧相な柵に囲まれた、掘立小屋の集まりが見えてきた。柵の傍らにギルフォード子爵領と書かれていた。


「以前、来たときには、此処に貴族領はなかったはずだが。」

「五年程前に侯爵家の次男が、王都の貧民街を見て心を打たれ、何とかしようと此処に領地を貰ったらしいのです。まあ、今じゃ子どもを捨てて行くわ、奴隷が逃げ込んでくるわ。大変らしいですわ。」


 トロンの説明を聞きながら、ニーナ達は新たに出来た子爵領に入った。

 其処は老人と子ども達しかいない変わった領地だった。すべての家は手作りか、今にも倒れそうなものばかり。何をするともなく座り込んでいる老人達、充分に食べていないのか痩せ細った子ども達。街並みに店は無く露店も出ていない、多くの人が虚ろにいる静かな街だった。


「何やら思惑とは違った様なのじゃ。」


 ニーナ達を見つけたティムが、相変わらず張り付けたような笑顔で近づいて来た。後ろには無表情に付いて来るティアがいた。


「ギルフォード卿がお待ちです。一緒に屋敷へ来て下さい。指名クエストと言うより、相談ですね。」

「ギルフォード卿とは、騎士団総団長殿の血縁なのじゃ。」

「弟君です。本家の方は兄であるヴァルボルト様が継がれ、ヴァンゼルト様は此処に子爵領を。しかし、若かったのでしょう。領地さえあれば、子ども達を搾取する者達から守れる。そう思ったのです。これ以上はご本人から聞いてください。」

「うにゅにゅにゅ、何やら事情が有りそうなのじゃ。」


 ニーナがゼンを見ると、俯いて馬上で揺れていた。キキを見ると人差し指を口に当てて、ニーナに微笑を返した。


「行くのじゃ。」


 ニーナ達は子爵の屋敷いう建物に案内され、屋敷を見て驚いた様に口を開けて立ち尽くした。


「何とも子爵の屋敷にしては粗末じゃな。」


 ニーナの言う通り、子爵が住むには粗末な屋敷だった。木造三階建ての古アパートと言った方が、正しいと思えるような代物だった。実際、アパートの様に小さな部屋が有るのだろう。窓から様々なサイズ様々の、様々な色の服が干されていた。


「おお、エルノワールの姫か。よく来てくれた。」


 庭で土いじりをしていた男が、ニーナ達に気付き手を振りながら近づいて来た。

 二十代半ばだろうか、ブラウンの髪を後ろで束ねた涼しげな目元が印象的な、優男と言う表現がぴったり男だった。


「お嬢、あの子爵様。相当、出来るぞ。」

「ギルスより強い。」


 歩いてくる子爵に何を感じ取ったか、ギルスとエレンは少し警戒したようだった。


「私がヴァンゼルト・レオン・ギルフォードだ。ティムから聞いたのだ。途中の村で君たちのやってきたことを聞いたのだ。頼む、私を助け欲しい。」

「村の様に仕事を教えると言うことなのじゃ?」

「そうだ。儲けは必要ない。いや、あればそれは助かるが、皆が食べることが出来ればいい。見ての通り、ここに住んでいるのは子どもと老人だけだ。狩りをするにも、農作業をするにも、力と体力が足りん。畑が無いため主食が無い。狩りは私の騎士達がやるが、子どもと老人ばかりとはいえ、三百人近い住人を食べさせるには足りぬ。集めて貴族の庇護の元に置けば、幸せになれると思ったのだが、それだけでは駄目だった。」


 ヴァンゼルト子爵の切実な頼みだった。

 搾取から子ども達を救うことは出来た。しかし、搾取されていても、最低限の食事を得ることは出来ていた。しかし、ここでは搾取はされることはないが、僅かな食事すら得ることが出来なくなった。

 事情を聴いたニーナ達がゼンを見ると、溜息を吐いてキキに頷いた。


「判った。」

「手を貸しましょう。子ども達は年齢別に、老人達は元の職業別に並ばせて。」

「聞いたか。並ぶのじゃ、愚民ども。」

「お嬢。」


 老人達と子ども達はゆらゆらと立ち上がると、ゾンビの様に移動し並び始めた。

 ティムとティアはゼンと話した後、何処かへと消えて行った。二人の後ろをニヤニヤしたトロンが付いて行った。


「赤ん坊までいるのか。それに成人した者もいるな。」


 成人しても弟や妹がいるので残る者。赤ん坊と一緒に捨てられた若い母親もいた。

 一番多いのは十歳から十三歳で、次が九歳と十四歳、後は似たような数だったは


「ギルスとエレン、ララ、ロロは老人たちの元の職業を聞いておいて。何人かは魔法が使えそうね。すぐに選ぶわね。そして、先ずは食事からね。」


 魔法特性のある子ども達を選別し終えたキキが、大きな寸胴に水を入れミリアンと二人で野菜を入れて煮込み始めた。ゼンは大きな鉄板を出し、大量の焼き飯を作った。

 出来た焼き飯は年齢順にニーナが皿に盛ってやると、二時間ほどで全員が食べることが出来たようだった。全員が食べ終える頃、ティム達が戻って来た。


「ティムとティアは解体の出来る老人達と、年齢の上から数人を連れて解体をさせて。」

「判りました。老人達に指導させ、子ども達にさせるのですね。」

「ギルスとロロは農業をしていた老人達と、十歳以上の半分を連れて川辺の平地へ行って。」

「畑を作るのだな。適当な場所を見つけよう。」

「エレンとララは漁業をしていた老人達と、後の半分を連れて川に行って。」

「承知した。さあ、貴方達。移動しよう。」

「さて、君達は私と一緒に魔法の勉強をしましょう。」


 キキは年齢はバラバラの五十人ほどを木陰に連れて、地面に座らせて魔法の講義を始めた。二時間もすると才能を開花させた子ども達が出始めた。


「妾は何をするのじゃ。」


 目を輝かせたニーナがゼンの袖をひぱった。

 袖にニーナを着けたままゼンは少し歩き、地面に手を当てると魔法陣のスクロールを置いた。魔力を込めると大人の拳程度の穴が出来上がった。更に、何度かスクロールを置き、穴の強度と穴の周りの強度を上げていった。


「何じゃ、それは。」

「井戸だ。」

「ん、必要。」

「うにゅ、何時の間に現れたのじゃ。うにゅにゅにゅ、短文暗号ペアの登場なのじゃ。」

「ん?」


 蛸口になって難しい顔になったニーナは、腕を組んで唸った。魔法の講義を終えたキキと狩から帰ったティムとトロンが合流した。 


「あれは遺跡で見つけたものよ。これをこの穴に取り付けて固定して、このレバーを上下させれば、水が汲めるの。ここは井戸ね。」


 ゼンは手押しポンプを取り付け、上から呼び水を入れてレバーを操作した。すぐに吐出し口から水が出て来た。


「小さい子達に食器と使った道具を洗わせてね。」


 ゼンはエレン達の元へ向かった。其処では老人達が子ども達に漁の方法を教えていた。


「しかし、網が有ればもっと楽になるのにな。」


 ゼンが網を出すと老人達は器用に、骨組みを作り網を色々な型に変えていった。そして、老人達は作った様々な仕掛けの使い方を、子ども達に教えた。

 教えられた子ども達は川に入り、器用に仕掛けを使い始めた。時々、老人達がアドバイスをして何度か場所や角度、置く方向を修正した。暫くして引き揚げた網の中には、多くはないが魚が入っていた。


「獲れた。獲れたよ。」


 子ども達は網に入った魚や蟹を見て喜んだ。


「夕暮れに仕掛けを沈めて待てば、朝には仕掛けに魚が獲れとるというのも作ることが出来るぞ。」

「エレンとララは彼等に材料を聞いて集めてね。ゼン、次はギルスよ。」


 エレン達から少し離れた平坦な場所にギルス達はいた。


「ここなら水も近いし畑が出来るぞ。道具が有ればすぐに耕せるが、収穫までは時間がかかる。」

「種まきから収穫までを子ども達に教えて。その間に、ゼンが錬成術で畑を作る。後で私が収穫まで出来るようにするわ。作るのは米と小麦、大豆、ジャガイモに数種類の野菜ね。」


 ゼンが地面に手を置くと、地面が泡立ち始めた。ゼンの前から徐々に広範囲に泡立つ地面。


「錬成陣なしとは恐れ入ったの。儂も錬成術を使えるが、この速度でこの範囲は無理じゃ。おお、充分に作れるぞ。米なら年に四回は収穫出来るぞ。この広さならここにいる全員が腹一杯食える。」


 子ども達は老人達に教えて貰いながら、種を蒔いて行った。キキが魔法で成長を早めると、みるみる茎が伸び実をつけた。


「やはり、フェアリーブレス。精霊王の加護をキキ様がどうして。」

「うにゅにゅにゅ、お婆様から聞いた事があるのじゃ。魔法陣の発動が要らぬ精霊の力。」

「一体、キキ様は何者なのでしょう。」


 ニーナとミリアンの会話を横目で聞きながら、キキは小麦、大豆、ジャガイモ、野菜を収穫まで成長させた。

 老人達は刈取りから精米までを、ゼンの出した道具の使い方と一緒に、子ども達に教えた。その横で、ゼンは大きな魔法陣の描かれた布を広げ、刈り取られた稲を積み上げ、錬成術で一気に精米していった。


「今日はこれくらいにしておきましょ。収穫した米と獲った魚と狩って来た牛で晩御飯をお願いね。さっ、みんなも手伝ってね。」


 数人の十四、五の女の子が集まって、ゼンの料理を手伝った。炊き上がった米と焼き肉に魚の天婦羅が並んだ。テーブルにはヴァンゼルト子爵も座っていた。


「頂きますなのじゃ。」

キ♀:変わった侯爵様がいたものね。

空♂:貴族も色々だからね。選民意識と自尊心の塊から、畑を耕す貴族まで。

キ♀:面白いのね。

空♂:農場経営を始めた頃があるから、自分でも働いた小貴族もいたでしょう。

キ♀:そうかもしれないわね。

空♂:しばらく町造りが続きます。

キ♀:最近、アクションが少ないと思うけど。

空♂:ありますよ。きっと。多分。

ゼ♂:(-_-メ)ピッキィィィィィィン!

空♂:ε=ε=ε=(ノ^∇^)ノ

キ♀:また、このオチなのね。

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