初めての食事
予告なく修正することがあります。
Sep-19-2020、一部変更。
話が一区切りした頃、ゼンが戻って来た。無言で袋から大きめの寸胴と、数個のコンロを出して設置し、料理をし始めた。
「マジックバック!」
ニーナ達は一斉に驚いた様に声を上げた。
「それにあれは魔道具か。」
「魔道コンロ。研究の成果よ。私が研究している時は、彼が料理を作ってくれていたの。私も手伝ったけどね。」
高価なアイテムを見て、驚きの声をあげるニーナ達へ、キキは説明しながら魔法を発動した。寸胴に魔法で水を入れ、小さな火の玉を作り沈めるとすぐに沸騰した。コンロにも火を入れ、調整の魔石に権限を移し終えると、キキはゼンに料理を任せた。
「火と水は相克なのじゃ。」
「その通りです。しかも、魔力の制御が、あれほど細かく調整出来るなんて。」
魔法が使えるニーナとミリアンは、魔力制御がいかに難しいかを知っていたようだ。
驚く二人を横目に、ゼンはバッグから大きな生肉を取り出し、食べやすい大きさに切って焼き始めた。寸胴に出汁の元を入れ、人参などの数種類の野菜と、一口大に切った肉を入れて塩と胡椒で簡単に味を整えた。
「最初に入れたのはなんだろうな。」
「調味料だろうな。」
「まさか、鰹出汁の元とは言えんな。」
「調味料ということにしておいたら。それとも、錬成魔法の成果にする。」
小声で話すゼンとキキはどのように、ニーナ達の目に映ったのだろうか。
ニーナと護衛達は興味津々でゼンの調理を眺めていた。焼けた肉の匂いと寸胴から立ち上る出汁の香りが、ニーナ達の食欲を誘った。
普段、野営では乾燥パンと干し肉程度の保存食を、簡単に手に入る自生しているハーブで作る、味気の無いスープと一緒に齧る程度。出来るだけ荷物を削るため、どうしても質素な味気の無いものになる。
「その干し肉、鍋に入れろ。」
ゼンの一言に全員が手にしていた、干し肉を鍋に入れた。そして、料理が出来上がり、野営での食事が始まった。
「美味しいのじゃ。」
「野営で温かい食事ができるなんて。」
「至福だ。」
「うめー。」
「本当にうまい。」
「このタレは一体、なんだ?」
食事を終えたギルス達はゼンとキキに現在の国の様子を説明した。ニーナ達は現在、ヴァルファルニア王国の北辺境地区にいることや、現国王が少々変わり者であることを二人に説明した。二人は王国の情勢など聞くと、満足したのかニーナ達の種族について聞いて来た。
「俺は狼人族、氏族はグレイウルフ。エレンは猫人族で、氏族はフィアリンクス。ベンは熊人族でズンターは猿人族。みんな獣人族だ。」
ギルスが護衛騎士の種族を説明した。頭に獣の耳が有るが、ズンターの耳は横にあり、純人族と見分けがつかないが、裸になると判るらしい。
「脱がなくても何となくわか、グホッ!」
ゼンの呟きはキキの肘鉄に遮られた。
「妾のお母様はミリアンと同じ、ハーフエルフなのじゃ。お婆様から幼少時より、魔法を教わっておっての、ミリアンは妾の姉弟子にあたるのじゃ。」
「今も幼少だと思うが・・・」
ゼンは脱力したように呟く。キキが結婚のことを尋ねると、ニーナは立ち上がった。
「変態伯爵に嫁ぐのは絶対に嫌じゃ!」
「だろうな。」
「なので、婚約を断りに行くのじゃ。ついでに、廃嫡してもらうのじゃ。そして、妾は冒険者になる!」
ニーナは鼻を膨らませながら、胸を張り宣言するように言った。
「そうなるのね。貴方達はいいのかしら?」
「勿論だ。お嬢を弄ばせる気はない。強引に結婚させられたら、攫ってでも逃げるつもりだ。」
「冒険者になるかどうかは、置いといてね。」
ギルスとエレンは苦笑しながらニーナを見詰めた。二人はニーナが赤ん坊の頃、見習い騎士として護衛に着いたらしい。十年の歳月は二人を上級騎士へと成長させた。ギルスとエレンにとってニーナは妹のような、特別な存在なのだということが、ゼンとキキにも判ったのだろう。
「眠たいのじゃ。おやすみなさいなのじゃ。」
キ♀:美味しそうに食べてくれたね。
ゼ♂:食べられる獣でよかった。
キ♀:最初の森の獣も、肉だけなら見せても問題ないわね。