初めての襲撃
予告なく修正することがあります。
Aug-31-2020、一部変更。
Sep-19-2020、一部変更。
そろそろ、昼になろうかという時に、ニーナ達の行く手を馬のいない馬車が道を塞いでいた。
「ゼン。」
「ああ、十六人。馬に乗っているな。」
「認識阻害。この感じは魔道具ね。」
ゼンとキキは馬車の屋根で小声で会話を交わした。
「なんだ、野盗にでも襲われたか。ズンター、見てきてくれ。」
護衛の騎士からズンターと呼ばれた一騎が馬車へと向かった。馬車までもう少しというタイミングで、後ろの街道脇の草むらから、十六人の武装した集団が馬に乗って現れた。
「認識阻害の術か、魔道具か。」
「隊長!」
集団は半分が止まり、半分がゆっくりと近づいてきた。先行する八騎からさらに四騎が駆け出して馬車へと迫った。
「装備がきれいだな。それに隊列の組み方、先行してくる四騎。実力は同じ程度か。」
「ゼン、どうするの。このテンプレ展開。」
「助ける?野盗のような恰好だが、フルフェイスの兜に重鎧か。騎士だろうな。」
「どうして、疑問形なのよ。もう、人助けの時間よ。」
冷静に観察するゼンにキキが聞くとやる気のない返事が返って来た。
馬車から降りた二人は小声で言葉を交わした。襲われているというのに、二人には恐怖どころか、緊張している様子すらなかった。
「隊長!」
緊張に耐えかねて一人が上ずった声で叫んだ。
「止むを得ない。皆、腹を括れ。お嬢だけは、何としても守らねば。」
ギルスは馬車の中を覗き込み、声をかけた。
「お嬢、何とか道は切り開く。逃げてくれ。ミリアン、その時はお嬢を頼む。」
「ギルス、死んではならんのじゃ。降伏してもよいのじゃ。」
ミリアンが無言で頷き、ニーナは降伏を覚悟する。降伏すれば命は助かるが、奴隷として弄ばれるか売られる末路しかない。
静かに剣を抜いたギルスにゼンが声を掛けた。
「助太刀は?」
馬上の野盗が剣を振りかぶって、ギルスに襲い掛かった。
「頼めるか!」
相手の剣を左腕に着けたバックラーで受け止めながら、歯を食いしばったギルスが叫んだ。
「承知。」
ゼンは腰の後ろに回した手を戻した。手にはナックルガードにも刃がついた、刃渡り三十センチぐらいの反りのついた黒い幅広のナイフが握られていた。
ナイフを振るって、ギルスを相手にしていた野盗の足を切り落とした。突然の痛みに体勢を崩したところを、ギルスの剣に命を奪われた。
「馬車を。」
ゼンは近づいてきた騎馬に飛び上がると、ナイフを兜の隙間に突き入れながらキキに声を掛けた。
「了解。」
素早く腰のレイピアを抜き馬の後ろに飛び上がると、護衛と剣を交えた野盗にレイピアを突き立てた。
ゼンはマントを翻して近くの騎馬に飛び移った。
大きな影に気づいた野盗が見上げると、兜にナイフが吸い込まれ、ビクンと振るえて馬から崩れ落ちた。
騎手が替わった事に、馬は気付いていないのかゼンを乗せ反転し、後ろの四騎に向かって駆けて行った。
僅か数秒で四人が殺された、その事実が理解できないのか、戸惑っているところにゼンが迫った。我に返ったのか、四人は剣を構え迎撃を試みた。
ゼンがマントを翻して馬上より飛び上がり、右端の野盗を蹴り落とし、隣の野盗の兜にナイフを突き入れた。
突き入れたナイフを手掛かりに体を引き寄せ、左側の野盗へ蹴りを放った。落馬した野盗を確かめることも無く、左の野盗に顔を向けた。
更に左側の野盗が絶叫とともに振り下ろす剣の下に入り、ゼンは左手で腕ごと剣を止めて見せた。遅れた右手のナイフが、野盗の首を一閃し血飛沫をあげた。
落馬した二人の野盗はギルスと仲間の騎士が近づき倒していった。
ゼンは更に馬を走らせ、後ろの八騎に猛然と迫った。
前の八人で決着が着くと思っていたようで、後ろの八騎は剣すら抜いていなかった。
黒衣の戦士が一瞬で六人を倒し、マントを靡かせながら後ろの八騎に向かって行った。
「抜剣!」
リーダーらしき男が慌てて叫び、剣を抜いて構えた。
突如、男の視界が暗くなった。見上げると黒い広がりが落ちて来た。ゼンが一人の頭に着地すると、ゴキッと音がして野盗が、馬上から崩れ落ちた。
右側の野盗の後ろに飛び移り、手を兜に掛けて首を捻る。首を折られた男が馬から落ちる間に、右の野盗の頭に手を置き、側転しながら首をナイフで一閃。
右へ飛び移り、二人の間をすり抜け様に首を切りつけた。首を折られた男が地面に落ちた時、二人の首から噴水のように血が噴き出した。
いつ抜いたのか、左手にも同じ形の黒いナイフが握られていた。
流れるような動きで、あっという間に五人が倒された。しかも、左にいた三騎に、鞍にあった予備の剣を投げつけながらやってのけたのだ。
左にいた三騎は首元に剣を受け死んだ者、足に受け落馬した二人。作業するかのような無表情で十人を殺したゼンが、ゆっくりと最後の二人に近づいた。
まるで、死の神でも見たかのように、ガチガチと歯を鳴らしながら、首を嫌がるように振りながら、必死に足を動かして後ろへ下がる。
ゆっくりとした歩みから数歩駆け出し、空中で一回転すると同時に、二人の延髄をナイフが貫いた。二人が倒れ、戦闘は終了した。
「怖かったのじゃ。」
キ♀:あの位は出来る人間もいるでしょう。
ゼ♂:恐らくな。
キ♀:まだ、大丈夫ね。
空♂:・・・・・