ニーナ、冒険者に登録する
予告なく修正することがあります。
Sep-19-2020、一部変更。
王国からニーナ廃嫡の返事が来るまで、ゼンの姿は見えなかった。
「何処へ行っておったのじゃ?」
「野暮用だ。」
「うにゅ、用を足しにとは言わなかったのじゃ。」
それ以上は話す事はないとばかりに、ゼンは朝食のベーコンを少し切ってモモにやった。ギルスとエレンは微笑んだキキを見て、少し青ざめたように見えた。
ニーナはベーコンエッグをフォークでつつきながら、何かを考えている様に見えた。そんなニーナの横でミリアンは静かにお茶を飲んでいた。
「妾は冒険者になるのじゃ。」
ニーナは突然、立ち上がって拳を突き挙げて宣言した。ギルスとエレンが溜息を吐き、ララとロロは目を輝かせてニーナを見た。ミリアンだけが静かにお茶を飲んでいた。
キキはそんなニーナを微笑ながら眺めていた。ゼンはマジックバッグに手を入れ一振りのレイピアを取り出した。
「キキのお古だ。」
「中々に優れものよ。斬撃の精霊が剣になった神話級の逸品よ。大した効果はついていないけど、そのレイピアは持ち主に合わせて大きさを変えるの。そして、持ち主の技量に合わせて、切れ味も変わる。もちろん、不壊属性は備わっているわ。」
「おお、凄いのじゃ。」
ニーナは嬉しそうにレイピアを振り回して、エレンとミリアンに怒られた。
ギルスはそんなやり取りを見ながら、長く息を吐いた。
「俺はお嬢の護衛騎士だ。お嬢が冒険者になってもそれは変わらん。俺も冒険者に登録する。」
「ミリアンとエレンはどうするの。のじゃ姫が平民落ちすれば、収入も無くなるでしょ。」
ニーナには僅かだったが、バイマン男爵より生活費やミリアン達の給金が出ていた。
「うにゅにゅにゅ。」
「冒険者に登録します。私はお嬢様のメイドですから。」
「ギルスとも話していた。当然、私も冒険者になる。お嬢は放っておけないからな。」
ミリアンは当然だと言い、エレンもニーナに微笑んで頷いた。
「あたい達も冒険者になります。」
ララとロロまで冒険者になると言い出した。
「ロロは百五十センチを超えたか。これを使え。」
ゼンは一振りの刀を取り出して、ロロに渡した。ロロはゆっくりと抜いて刀身を真っ直ぐに立てて持った。
「あら、いいの。備前長船影兼、九字斬り丸でしょ。裏の業物でしょ。」
「問題ない。」
領都モカリタイには出張所しかなったため、ニーナ達は馬車で三日の距離にある、商業都市ロメロルを目指すことにした。
途中の休憩時に年少組は薬草を採取し、ゼンはギルスと一緒にハンターウルフを探しては討伐して行った。ゼンは食糧になる数体のアングリーブルも狩って来た。
三日目の夕暮れに、商業都市に着いたニーナ達は、宿を探して休むことにした。
「早く登録に行くのじゃ。」
ニーナは夜明けから起きだし、皆を起こして回った。いつもの訓練を済ませ、人気のない食堂に向かった。ニーナの様子を見ていた仕込み中の主人が、気を利かして朝食を準備してくれ、ニーナは急いで口に入れて咽ていた。
スキップするニーナを先頭に、全員で冒険者ギルドに向かった。
「ぬっはっはっは、妾の剣が唸るのじゃ。」
ゼンから貰ったレイピアを抜いて、スキップから阿波踊りに変わったニーナは、ミリアンとエレンに叱られて大人しくなった。
ギルドに着くとニーナは飛びこむように扉をくぐり、受付の前に腰に手を当てて立った。
「冒険者に登録したいのじゃ。」
ニーナが受付にいた初老の女性にまるで、宣言でもするかのように声を掛けた。
「登録は皆さんかね?」
「いや、妾達六人なのじゃ。」
「説明は必要かね。」
「無用なのじゃ。二人に教えてもらったのじゃ。」
ゼンとキキのプレートを見て頷いて、登録用の紙を出してニーナから聞いた情報を記入して行った。
「魔法師が二人、剣士が二人、戦士が二人と。」
「スキップ登録はお願いするのじゃ。」
「判ったよ。でも、成人していれば上限はないが、一三歳以上の未成年はアイアンまで、以下はブロンズまでだよ。」
「うにゅにゅにゅ。」
冒険者には八歳からなることが出来きた。貧困層の子どもは冒険者になり、安全な近場での採取で、僅かな収入を得る。十二歳から荷物運びや雑用をするサポーターとして、パーティーに入れてもらうこともある。未成年がいるパーティーは、危険なクエストを受けることが出来なくなるが、ダンジョン探索や遺跡調査は可能だった。
「お嬢、試験はパーティーで受けるから、戦闘には参加できるぞ。」
ギルスの言葉にニーナは顔を上げた。蛸口のままなので、完全に機嫌が直った訳ではなさそうだった。
全員で最初に筆記試験を受けた。年少組は日頃から、採取の為にキキから図鑑を借りて勉強していて、旅の休憩時に採取もしていた。ギルスとエレンより成績が良かった年少組は、少し得意気に裏に回って戦闘試験に向かった。
「さて、戦闘の時間なのじゃ。」
空♂:新章スタート。
キ♀:のじゃ姫のレイピア、忘れていたのよね。
空♂:ここまで来て渡していないことに気が付いて、慌てて付け足した。
キ♀:気付いてよかったわね。




