クエスト 後半
討伐をし終えたウルフの牙を採集する。討伐クエストのクリア条件というのは、討伐したという証拠を提示しなくてはならない。
ゴブリンなら耳、ウルフなら牙、オーガなら角などと、そのモンスターの象徴となる部位を採集するのだ。
「これで終わりだな」
「そうですね」
採集用のナイフを借り、牙を採集し終えたので、本命である千病草の採集のために歩みを進める。
クリアの森というのは、他の森とくらべ、視界が良いというのが由来となっている。その由来通りに、霧も発生していなく、順調に進んでいくことができた。
途中、モンスターともエンカウントしてしまったが、やはりさすがだ。若くても引き際と攻め時は分かっているものだ。時には俺も応戦したが、ほとんどは彼らが倒していた。
そうして奥へ、奥へと進んでいく·····。
「滝ってあれじゃないか?」
エレンの言葉に、目線を転じれば、奥に見えるのは一つの滝だった。透明度の高い水が流れていて、森に差し込む太陽光を反射し、実に幻想的な光景を生み出していた。
「千病草は清い水の近くに生えているって言うからな、みんな探せぇ!」
「「押忍 (はい) 」」
俺も負けじと、目を凝らせば千病草を見つけた。千病草の目印と言っても過言では無いのが、この葉の数である。
千病草とは千の病を治すための薬草だ。それ故にそれぞれ効果の異なる葉が一枚一枚ある。葉の枚数は全部で八つ、見るとこれも八つで千病草で間違いない。
「見つけましたぁ」
ラナや、エレンもどうやら同じく見つけたようだ。·····。あれ? そう言えばシードは――
「吾輩はシードである、千病草はまだな、い」
そうか、無かったか。どうせ、お前らに言っても分からないだろうが、シードには言いたいことがある。
夏目漱石に謝れ
何故か、シードが言うと若干馬鹿にしているように聞こえる。まぁ、彼の様子を見るに故意ではないので俺もこの気持ちはそっと胸にしまい込んでおく。
「まぁ、カエデも見つけたし、三枚あれば十分だろう」
エレンの言葉でシードも涙目ながらも、探すのを止め、帰路にへとつく。
空を仰ぎみれば太陽は傾き始め、時は夕刻。オレンジ色の光が森から出た俺らを優しく出迎えた。
◆
「はい、しっかりと確認させて頂きました。ウルフの牙が五つ。クエスト完了ですね。では、皆さんお疲れ様でした」
俺らがギルドにへと着き、ウルフの牙を提出した時には既に日は隠れ、月が顔を出していた。
「いやぁ、カエデがいなかったらこんなに簡単に千病草を手に入れるなんて無理だったわ」
「そうですね、是非私たちのパーティに入ってもらいたいです」
「吾輩も賛成でござる」
クエストが終わった記念としてギルドで飯を食いながら、三人がそんなことを言ってくる。
「それは良かったよ」
「なぁ、カエデ。俺らと一緒にこないか?」
その申し出はありがたいがな、今回は断っておこう。理由もあるが·····。いや、これは別に話さなくてもいいか。とりあえず断っておこう。
「悪いな、でもたまにこういう風に冒険するのはいいぞ」
「そうか·····。分かった、じゃあカエデありがとう会を始めようじゃねぇか!」
「「おぉー!!」」
木のコップに注ぎ込まれた飲み物を飲みながら、楽しいひと時を過ごした。
シードのこのような話し方になったわけを長々と話されたり、エレンの冒険譚を話され、ラナの愚痴に付き合ったりと本当に楽しかった。
が·····。
「悪い、少し用が出来た。先に失礼するよ」
「そうかぁ、ヒック! またなぁ」
「カエデしゃぁーん。まってぇ」
「吾輩はシードである、ヒック、ぷはぁ、酒はもうない」
楽しかった飲み会に水を差す、馬鹿なやろうもいたもんだ。
ギルドを出て、気配を感知した相手を見る。
「よぉ、どうした? クレア」
月夜に照らされ、殺気だったクレアがそこには立っていた。
一応謝罪を·····。夏目漱石の『吾輩は猫である』を良かれと思い、シードの話し方にしたのですが、やはり前もって謝っておこうかと·····。
誠に申し訳ございません。
今後も、シード君は出てくるのですが、その時は生暖かい目で見てくださると嬉しいです。