ホワイトクリスマス
ギリギリセーフ!
「なかなかにいい夜景だな」
「·····ん」
短い言葉だが、その短さに最大の気持ちが乗っている。
場所は異世界、王都の外れ。前にサナが捉えられた丘である。
一緒に来ているのはユウキだ。
「にしても、珍しいな。二人だけの時間ってよは」
「ん」
アマサやサナと一緒に出かけはしていたが、二人きりというのは久しぶりである。
というのも、恥ずかしがって、二人きりにしてくれないのだ。
しかし、今宵は違う。何故か、俺だけを誘ってここまで来た次第である。
「ユウキ?」
いつも以上に言葉を紡ごうとしないユウキに不自然さを覚え、顔色を除くと、顔が真っ赤になっていた。
「·····寒いのか?」
「んーん」
そして、ギュッと俺の手を握ってくる。
なんなんだろうか?
「·····カエデ」
また訪れていた静寂をユウキが破る。
自然と目線があった。
「なんだ?」
「·····ん、これ」
そう言って手渡してきたのは包装された細長いケースだった。
「迷った。サナとアマサと相談して、決めた。見て」
渡されたのを丁寧に破り、中身を見ると·····。
「これは·····ネックレスか?」
「ん。十字架、カッコイイ」
銀色のネックレス。十字架の装飾が施されており、紐は鎖状になっている。なかなかにゴツイ見た目のネックレスである。
「気に入らなかった?」
「そんなことは無い」
もちろん即答だ。
気に入らなかったことはない。
そういう風に上目遣いで見てこなくても気に入ってるし、めちゃくちゃ大切にする。
だが──
「なんで今日なんだ?」
「·····」
何故かめっちゃ呆れられた。
無言の目線と圧が凄い。痛いからやめて欲しい。
「·····クリスマス」
「あぁ」
そう言われてようやくハッと分かった。
そう言えばクリスマスだった。道理でパーティはするわ。皆予定があるのに、頑張って俺に合わせるわで不思議だったんだ。
「覚えてなかった?」
「·····まぁな」
ユウキには悪いが、完全に忘れていた。
俺としたことが失態だった。
だが、ユウキの反応は俺の予想と反していて──
「なら、同じ」
「どういうことだ?」
「私も、知らなかった」
そう語るユウキは伏し目がちだった。
「この世界にはクリスマスはない」
そうだ。地球独自の文化である聖夜祭──クリスマスは、確かにこの世界には存在しない。
そもそも、特別な日でもなんでもないからな。
「でも、クリスマスが無くても。私の人生に色はなかった」
「·····」
ユウキはポツリポツリと話し出した。
「村が滅ぼされて、私は魔族に魔眼を埋め込まれた。まーちゃんとは仲良くやってるし、大切な友達」
そう言って、ユウキは自身の右目に手を当てた。
「でも、魔眼を埋め込まれたことで、私の人生は変わった。その日を境に私の目から色が消えた」
魔眼。寄生型で、パッと見は分からないものの。魔族であることに変わりないし、豹変するユウキを不思議な目、もしくは奇怪な目で見る者は多かったのだろう。
「それはカエデも同じ?」
「·····そうだな」
俺の目は死んでいた。カエデじゃなくて、エヴァンだった時はな。
あれはまだ俺が盗みで生計を立てていた時だ。
毎日、毎日、盗みを繰り返しては時には捕まり、暴力を振られてきた。
俺のやった事を正当化するつもりはないが、それでも俺はやらなければ死んでいた。
俺は生きながらに死んでいたのだ。
それが地球に転生したらどうだ?
誕生日で、俺は祝われた。クリスマスでケーキを食べたし、プレゼントも貰った。正月はお年玉を貰い、数多くの祝日が俺を彩ってくれた。
「俺も生きているようで死んでいたが、こういう特別な日を過ごす内に人生が楽しくなって行ったよ」
「私も同じ。だから、今日は二人だけで楽しみたかったの」
·····そうか。
ユウキなりに考えて、プレゼントを買ってくれたり、こうして連れ出してくれたのか。
なら、俺もお返しをしなくちゃな。
「今日は星が綺麗だ」
「·····ん?」
ユウキが唐突な俺の発言に小首を傾げる。
「こういう特別な日は空だけじゃなくて、大地も綺麗にしなくちゃな」
そう言って、俺は指を高らかに鳴らした。
瞬間、白銀の魔法陣が空一面に映し出された。それは、どんどん巨大化し、やがてこの世界そのものを包み込んだ。
「──<白銀の世界>」
俺の言葉がトリガーとなり、魔法陣からふわりと雪が舞い始めた。
最初は少量だった雪も次第に量は増していった。
「空も大地も雪化粧で綺麗にした。これなら、もっと特別な日になって、もっと楽しめるだろ?」
「ん!」
やがて俺たちが座る丘も雪に包まれる。
雪が降ったことにより、気温が下がり、俺らの体温を奪っていくが、依然暖かいままである。
何故ならば──
「·····」
「·····んふ」
ユウキの手を握っているからだ。
──あぁ、綺麗だ。
俺は声にならない言葉で最後にそう言った。




