恐怖
緊張がたちこめる中、唾を飲み込む音が鮮明に響く。静寂が訪れた頃、それを破ったのは菜乃花だった。
「先手必勝! せいやッ!!」
邪剣が禍々しく煌き、一閃が放たれる。妖刀を超える呪いは当たれば必勝であるが、当たればであり、クロクルに〝たられば〟など通用するはずもなく、避けられる。
だが、成長した菜乃花に初撃で仕留めるという思考回路は存在しない、矢継ぎ早に第二の剣を放つ。それをクロクルは魔法で覆った手で掴み、至近距離から魔法を放った。
「<火球>」
初級魔法と侮るなかれ、込められた魔力はカエデを超え、魔法陣の改変度は最上級に勝るとも劣らない。それを即座に解析できるはずもなく、直撃した。
だが、同時発動が使用できないクロクルに魔法の連発は不可能。菜乃花の治療をネロに頼み、クレア、アマサ、ユウキが攻める。
「摸倣──<魔道・一閃>」
ユウキの摸倣がカエデの幻影を見せるが如く、魔道・一閃を放つ。それは<魔神ノ領域>を破壊せんと広大な魔法陣のもとへ飛来するが、弾けれる。
「素手で!?」
右手で魔道・一閃を弾き飛ばしたクロクルはすかさず、ユウキに攻撃。既のところをクレアが押さえ込む。
「アマサちゃん! 今っす」
「<白龍ノ咆哮>」
人型であろうとそれなりの威力が出る<白龍ノ咆哮>はクロクルのもとへ一直線と向かう。レーザーのような白き閃光はクロクルを貫くはずだった……。
「竜系統冥級魔法──<龍神ノ息吹>」
アマサの咆哮がレーザーであれば、クロクルのそれは広範囲の炎。真っ赤な炎は辺り一帯を焼き尽くすがクレアたちに直接的なダメージはなかった。何故ならばそれは<白龍ノ咆哮>に向けたモノだったからだ。そう<龍神ノ息吹>は魔法を焼いたのである。
「そんなはず、いやッ」
アマサは失いかけた自信を取り戻す。今まで幾度となく失ってきたプライド。しかし、これだけは決して失わない。カエデと紡いできた努力と成長で得た力だけは唯一のモノ。
「サナッ」
「任せてください──エンチャント」
己の腕や足に強化魔法を施し、握りこぶしを作る。
「<陥没拳>」
「甘い」
放たれた拳をさらりと躱し、蹴りを入れてくるが王族武術はなにも拳だけでない。すぐさま、右足を軸に回し蹴りで迎え撃つ。ぶつかり合う足、王族武術の柔とは違う、クロクルの剛の蹴りはサナの顔を歪ませた。そして──
「きゃッ」
短い悲鳴の後吹き飛ぶ。<魔神ノ領域>の範囲内でクロクルに接近戦では勝てない。そう判断したクルムは、クロクルの背後に回り込んだ。
「背後ならばやれると思うたか?」
しかし、まるで後ろにも目があるかのように超反応してきたクロクルに、にやっと笑う。
「そんなハズないじゃない──<終末の日>」
触れた右手がクロクルに魔力を通す。存在ごと滅する魔法が発動された。
跡形もなく消えたクロクルに、安堵したのも束の間、光の粒子が急速に集まり、クロクルの姿を現世に留めた。
「やっぱり、貴方にも通用しないのね」
「<蘇生>を使えば復活できるからな」
「でも、魔力は有限じゃない。<蘇生>に使用する魔力量も尋常じゃない。時間の問題ね」
「それはそうだが、魔力が切れる前に倒せばいい話だ──<彗星>」
突如として現れた巨大な星に全員が釘付けとなる。だが、空を見上げたのも束の間。落ちてきた星に誰もが恐怖を覚えた。
だが、そんな恐怖に立ち向かうのが勇気であり、それが勇者である。
「真っ二つにしてやる!」
上段に構えたまま跳躍する。迷いなく振るわれたサクリファイスは彗星を見事に斬った。
「見事·····まるでラシルを見ているようだ」
クロクルの拍手。
「しかし、若い。争いを知らないがあまり、経験が少ない。だから、罠だと知らずに真っ二つにするのだ」
「──ッ!」
斬れた彗星から火球が降り注ぐ。彗星に仕込んでいたようだ。
「みんな、ごめ──」
「それ以上は言わないでください」
オールが火球の方へ歩く。
「貴方の勇気に皆さんが理解した。恐怖は枷であると。なら、感情より先に、思考より先に手を伸ばす。考えが足りないのであれば、代わりに考えればいい。他人に頼ることは弱さじゃない。それは強さである。なら、この場合、貴方の勇気に感謝を込めて、私がなんとかする」
左手を火球に向ける。
「開け、扉──<死ノ神>」
ポカンと開いた穴に火球が入っていく。しかし、数発逃した。だが、ララがすかさずフォローに入る。
「<常闇の盾>」
真っ黒の闇が残った火球を吸い込んだ。
「こういうことでしょ? オール」
「少しは出来るようだな」
「何その言葉」
ララとオールの言い争いにクスリと笑う。
「ありがと」
小さく呟き、そして二人の間に入り、仲裁する。
「ほら、戦いに集中しよう」
敵は前にいる。恐ろしく強大な敵が。だが、恐怖に負け、判断を迷えば、死に直結する。
「行くよ。クレア!」
「わかったっす」
クレアもアマサも皆の思考は一致した。即ちオールの言葉通りに。
「「<聖と邪の共鳴>」」
先程は<闇ノ侵略>によりカウンターをされた。だが、助け合う。その一点についてはクロクルになく、自分たちにあるものである。
「<神槍>」
ユウキとまーちゃんがクロクルの背後から放つ。クロクルに避けるという選択肢はない。なぜなら、神槍の特性として周囲の魔力を吸収し、肥大化するのはクロクルでも避けたい事態だ。故に魔法で神槍を先に防ぐしかない。
「でも、そんな事はさせません──<無限封印>」
完全に封印するわけでない。一時的でいいクロクルの魔法を封印する。
「チッ」
舌打ち一つ。それを最後に両方からの攻撃によりクロクルの姿は煙に包まれた。
遅くなりました。連続で100話記念の番外編も上げたので宜しければ見てください。




