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宗太郎の無意識のうちに描いたデッサン

前回のあらすじ


 渚に見守られ無事学校に行くことが出来た宗太郎。そんな時に宗太郎が密かに、渚となでしこを描いたデッサンを見られてしまい、そして奪われ、ときめく渚。



 授業が始まり、僕は先ほど渚ちゃんに奪われてしまったスケッチブックを返してほしいと言う気持ちでいっぱいだった。


 昨日思わず渚ちゃんとなでしこさんのデッサンを描いて、それを渚ちゃんに見られて、僕はこの上なく恥ずかしい気持ちでいっぱいだ。


 渚ちゃんは僕の渚ちゃんとなでしこさんのデッサンを見て、変な事を思ったりしないよね。

 もしかしたら、友達の吉永さんに見せたりはしないよね。

 いや渚ちゃんは僕の嫌がる事をしない。

 でもデッサンを見られるのは嫌だ。

 特に描いた本人に見られるのはなおさらだ。


「ほら、宗ちゃん。教科書見せてあげる」


「それよりもスケッチブックを返してくれないかな?」


 すると渚ちゃんは目を細めて嫌らしい顔で見て、


「今は授業中だから、後でね」


 それを聞いてとりあえず安心した。


 今は算数の時間だ。


 内容は三桁同士のかけ算の筆算だった。


 黒板に篠崎先生が問題を板書する。


「じゃあ、これらの問題を出席番号順に説いてもらう」


 問題の数は五問。


 僕の出席番号は五番で丁度、当たる。


 僕が立ち上がると渚ちゃんが、「大丈夫宗ちゃん」


「うん」


 ちょっと緊張するが、三桁同士のかけ算なら、三年生の時に三桁と二桁のかけ算の筆算の要領でやれば出来ると思って、僕は前へ出て問題を解いた。


 答えを求めて、僕は席に着く。

 合っているかどうか緊張する。

 そんな緊張の中、渚ちゃんが、「宗ちゃん。大正解」と呟き、どうやら渚ちゃんは僕が出題された問題を密かに解いて正解を導いていたみたいだ。


 そして出席番号一番から僕の番号である五番まで、五問それぞれ一人一人やって、正解者は僕を含めて二人だけだった。


「さすが楠木、まだ習っていないのに、正解を導く事が出来るなんてな」


 篠崎先生は誉める。


 すると間違ったクラスメイト三人から痛い視線を浴びるが、隣にいる渚ちゃんが、僕を守るように、それらの視線を威圧的をそれぞれ向け、三人はビビって、すぐに反らして前を向いた。


 そうだよ。自分で言うのも何だけれども、クラスでは僕は勉強が出来る方だ。

 それをねたむ連中に嫌がらせをされる度に、僕は渚ちゃんに守ってもらっていた。

 いやクラスには僕よりも成績のいい生徒はいる。

 でも僕が出来ると、何かといちゃもんをつけられる。

 僕はいびられやすい体質なのかな?

 だったら嫌だな。

 そんな自分を変えたい。


 そんな調子で二時間目の授業は終わった。



 ******   ******   



 休み時間、僕は篠崎先生に呼び出され、職員室についていった。


「楠木、本当によく来たな」


 そういって僕にお茶を差し出されて「ありがとうございます」と言って、一口すすって、何か落ち着いた。


 休み時間中に僕と篠崎先生は色々と語り合った。

 何だろうか?篠崎先生と話していて、妙に緊張したりしない。

 それに篠崎先生は色々あった僕に、不安に感じさせるような内容はいっさい言わなかった。

『とにかく大変だったな』『お前のことを本当に心配したよ』とか。


「それで楠木、確認しておきたいんだが、不快に思ったら悪いんだけど、今お手伝いさんに世話になって暮らしているって聞いたけど」


「はい」


 なでしこの詳しい事情は話さない方がいいだろう。


「そのお手伝いさんとはうまくやれているのか?」


「はい」


「お前が休学している時に、一度挨拶をしておこうと思ったんだが、断られて、ちょっと心配になった」


「別にそんなに心配することはないですよ。とにかくなでしこさんとはうまくやっています」


「なでしこさんって言うのか。まあ、とりあえず何かあったら遠慮なく俺に言え」


「はい」


 職員室を出て僕は篠崎先生の言葉をまとめてみると、もし何か問題が合ったら、施設に送り込もうと考えたのかもしれない。

 でも考えてみれば、それが適切な判断かもしれない。

 僕はもう・・・。

 廊下をしおしおと歩いていると、渚ちゃんが職員室の前で待っていたみたいだ。


「宗ちゃん。お話終わった」


「うん」


「篠崎先生、何だって?」


「うーん」


 何を言って良いのか迷ってしまった。

 すると渚ちゃんの目が心配の眼差しに変わり、


「何か、言われたの?」


 あまり心配されたくないので、僕はとっさに「大した事ないよ」とごまかす。


「どうして目を反らすの?」


 どうやら僕は気がつかない内に、目を反らして、ごまかしてしまった事がばれてしまった。


「何も隠し事がないなら私の目をちゃんと見てよ」


 言われた通り、僕は渚ちゃんのひたむきな視線を見るが、なぜか僕は反らしてしまった。


「何か言われたんだね」


「それよりもスケッチブック返してよ」


「ごまかさないで」


 もう観念するしかない。渚ちゃんには嘘は通用しない。



 ******   ******   



「なるほど、もし身寄りがなかったら、施設に送るような事を言っていたんだね」


「でも篠崎先生の言っていることは適切だと思う。

 でも僕にはなでしこさんがいるから」


 すると渚ちゃんは切なそうなちょっと寂しい顔をする。

 そんな渚ちゃんを見ると、いたたまれないし、何か後ろめたくなってくる。

 誰もいない階段の踊り場で僕と渚ちゃんの間に、緊迫した空気が漂う。

 

 そんな時にチャイムが鳴り、「じゃあ、渚ちゃん。教室に戻ろうよ」


 返事はせず、首を縦に振って、僕と教室へと戻った。


 三時間目は理科の授業だった。


 渚ちゃんになでしこさんの話をすると、渚ちゃんは何か切ない表情をして、僕はそれを後ろめたく思う事でいっぱいだった。

 隣にいる渚ちゃんを尻目で見ると、篠崎先生が黒板に板書しながら授業をしっかりと受けている感じだ。

 渚ちゃんの気持ちが分かるようで分からない。

 僕がなでしこさんを語ると渚ちゃんは切ない表情をして、それを目の当たりにした僕は後ろめたい気持ちになる。

 僕にどうしろって言うんだ。

 頭がこんがらがって今にも叫びたい気持ちだった。


「宗ちゃん。何をやっているの?」


 渚ちゃんに小声でささやかれて、ハッと気がつくと、僕は気がつかぬ内にノートにデッサンを渚ちゃんとなでしこさんのデッサンを描いていた。

 見られるのはまずいと思って隠そうとすると、その手を止められ、渚ちゃんは不審そうに目を細めて来る。


「何描いていたの?」


「何でもないよ」


 ノートを閉じたら、渚ちゃんの手を挟んでしまった。


「渚ちゃん。その手を引っ込めてくれないかな?」


「ノートを開かないと引っ込められないんだけど」


 何かわざとやっていないか?

 言われた通り、ノートを開いた瞬間、渚ちゃんの目がギラリと光り、ノートを取り上げられて、僕が描いた渚ちゃんとなでしこさんのデッサンを見られてしまった。


「ちょっと渚ちゃん」


 授業中にも関わらず、声をあらげてしまい、篠崎先生が、


「どうしたんだ?楠木」


「いえ、何でもありません」


「そうか」


 そういって篠崎先生は授業を進める。


「くっくっくっ。何ムキになっているの?」


 何だろう?渚ちゃん。妙に愉快そうだ。

 何か後ろめたい何かがとれたと同時に、渚ちゃんが僕が無意識のうちにデッサンしている絵をじっと見つめている姿に恥ずかしい気持ちがふつふつとわき起こり、僕はつい大声で「渚ちゃん。いい加減にしてよ」



 ******   ******   



 さすがの優しい篠崎先生も授業中にうるさくした僕と渚ちゃんを容赦せずに、廊下にたたされてしまった。


「もう。渚ちゃん。本当に勘弁してよ」


「何か私となでしこさんが握手しているスケッチだったけれども、あれはいったい何を意味しているの?」


 何かこの人やけに嬉しそうだけど、いったい何なの?

 まあ、それで渚ちゃんに対する後ろめたい気持ちはなくなったが、また別の問題が僕に迫り来ている。

 それは渚ちゃんの無意識に書いた絵に対する質問責めだ。


「聞いている宗ちゃん?」


 目が輝いているよ、それに何か白々しい。

 そうだよ。絵のまんまの意味だよ。

 僕は渚ちゃんとなでしこさんと仲良くなってほしいんだよ。

 なでしこさんを渚ちゃんに語ると渚ちゃんは何か寂しそうな表情をして、それを目の当たりにした僕が後ろめたい気持ちになりたくないんだよ。

 僕は渚ちゃんの問いかけに答えられずに目を思い切り瞑って黙っていた。


「まあ、いいか」


 諦めてくれたみたいで、僕は恐る恐るその目を開いて渚ちゃんの方を見ると、どこか廊下の窓の遠くの景色に目をやり、黙って立っていた。

 その姿を見て僕はほっとした。


 それよりも僕はどうして無意識にあんな絵を描いてしまったのだろう。

 それを見た渚ちゃんは僕に対して嫌らしい目で見られたなんて誤解され嫌悪に思われてないか?

 でも廊下に立たされていて、渚ちゃんと並んで、渚ちゃんからは嫌な感じはしなかった。

 むしろ何か渚ちゃん、心なしか嬉しそうな感じがする。

 とにかく後でスケッチブックを渚ちゃんから返してもらわないとな。

 

 絵を描く事は基本的に僕は好きだ。

 良く僕の大好きな美少女御子奈々のデッサンを密かにシャープペンシルで描いた事がしばしばあった。

 でもその絵を誰にも見せられなくて、お母さんにも見せたことがない僕のささやかな趣味の一つだった。

 それで僕は無意識のうちに渚ちゃんとなでしこさんを描いたデッサンを描いて、それを渚ちゃんに見られるなんて、考えてみると、それは美少女御子奈々のデッサンを見られるよりも恥ずかしい事だ。

 いや描いた本人にデッサンを見られる事は、裸を見られるよりも、嫌なことだ。

 そう思うと、死んでしまいたい気持ちに駆られて、目の窓から飛び降りてしまおう何てバカな事を考えてしまう。

 頭が痛い。


 絵を見られた事で恥ずかしい気持ちに苛んでいると、隣に立っている渚ちゃんは、穏やかな瞳を向ける。


「宗ちゃんって絵が上手だね」


「嘘だ」


「嘘じゃないよ。宗ちゃんの絵が何度か入賞したことがあったよね」


 そうだ。それで僕は周りから妬まれて、いじめに遭いそうになったところを、渚ちゃんに助けられたんだっけ。


「さっきの絵、私となでしこさんを描いた絵、とても暖かみを感じたよ」


「渚ちゃんは自分が僕に描かれて、嫌にならないの?」


「どうして?」


「どうせい、僕の事を嫌らしい子だと思ってない?」


 渚ちゃんはため息を一つこぼして「どうして、宗ちゃんはそうやってひねくれた事を考えてしまうの?いつも私に誉められるとすぐにそうやって妙に疑うんだから。誉められたら素直に喜べば良いのに」


 僕は返す言葉が見つからず黙っていた。


「私は嬉しかったよ」


 恍惚とした目で見られて僕はドキッとした。

 その言葉は疑う余地もなかった。

 渚ちゃんから妙に嬉しそうなオーラを感じたのは気のせいではなかった。


「また私を描いてくれる?」


 首をちょこんと傾けて愛らしい仕草をして、僕を見つめる。

 顔が燃えるように熱い。


 渚ちゃんは笑って、「宗ちゃん照れてる照れてる」


 何かしゃくに障ったが、渚ちゃんがそうやって笑ってくれて僕は渚ちゃんに対する後ろめたい気持ちがすっかりとなくなって、安心してしまった。

 その様子だとなでしこさんとも絵で描いた通り、仲良くしてくれそうだ。

 渚ちゃんとなでしこさんを同時に浮かべると、ふと二人がにらみ合って、バチバチと火花を散らしている殺伐とした雰囲気を浮かべていた。

 でも今はそんな二人を思うと、穏やかに見つめ合って、和解の握手を交わしている姿が想像できて、頭がすっきりとしている。

 僕は争い事がこの世で一番嫌いなことだ。


 特に渚ちゃんとなでしこさんが争うような事はしてほしくない。


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