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たどり着いた答え

前回のあらすじ。


 宗太郎となでしこは言い争いになり、なでしこは初めて宗太郎に対して感情的になる。

 それからなでしこは宗太郎に対して冷たい態度をとるようになった。

 宗太郎は悲しみに翻弄され、それに気が付いた幼馴染みの渚に慰められて、元気を取り戻す。


 給食の時間になり、僕は渚ちゃんが言った『なでしこさんは僕を嫌いになった訳じゃない』と言う言葉を頭に言い聞かせ、気持ちを落ち着かせていた。


 でもなでしこさんには渚ちゃん曰く、深い意味がある事に僕は考えさせられる。

 でもいくら考えても、答えは分からずに、それは直接本人に聞くしかないと思った。

 渚ちゃんの言う通り、なでしこさんの事をそのように考えてしまうのは、なでしこさんに深い意味がある証拠だと気が付いた。

 なでしこさんの心は深海よりもさらに深く、その心は安易には見抜けない。

 だったら、帰ったらなでしこさんに直接聞くしかない。


 給食の時間、渚ちゃんと僕と吉永さんで席をくっつけて、給食を食べていた。

 渚ちゃんは吉永さんといつものようにたわいのない会話を繰り広げて楽しんでいる。

 僕の頭の中はなでしこさんの事でいっぱいで、二人の話に入る余裕もなく、僕がなでしこさんの事を考えていると、ふと渚ちゃんは吉永さんと会話中にチラッチラッと僕の方を何度か見てきて、目が合う度に、僕は何か後ろめたい気持ちになる。


 午後の授業が始まって、渚ちゃんに対する、その後ろめたい気持ちの正体を考えていた。

 なでしこさんの事を考えて、僕の方に視線を向けてきた、あの目は何か意味深で、思い返しただけで、僕は後ろめたい気持ちになり、それはやがて罪悪感にまで膨れ上がり、僕の心は訳が分からず、頭が痛くなっておかしくなりそうだった。


 ここでまた新たな悩みが僕を苛ます。

 なでしこさんの深い心。渚ちゃんに対する後ろめたい気持ち。

 なでしこさんの深い心はおいといて、この渚ちゃんに対する後ろめたい気持ちをどう処理すればいいのか僕は困惑している。

 じゃあ、直接渚ちゃんに話してみようかと思ったが、何かそんな事を聞く事って、何か無粋な感じがして聞きづらい。

 本当に嫌だ。

 授業にも集中できない。

 何で僕が渚ちゃんに対して、後ろめたい気持ちになるのか?

 人は常に悩み事を抱えなきゃ行けないのか?

 だったら僕は何も言わない貝になりたいと本気で思ってしまう。


 授業が終わり、帰りの挨拶をして、隣の席に座っている渚ちゃんはにっこりと明るい笑顔で言う。


「早ちゃん。一緒に帰ろう」


「うん」


 渚ちゃんの明るい笑顔で言われると、僕は渚ちゃんに対する後ろめたい気持ちが一気に払拭された感じがして、すっきりする。

 悩んでいた事がバカな事だと思えてくる。


 そして渚ちゃんと一緒にいて、僕はなでしこさんの深い心の事が気になり、すると渚ちゃんはなぜか表情を曇らせてしまい、渚ちゃんに対する後ろめたい気持ちが芽生えてしまった。


 僕はもう冷静で入られなくなり、つい言ってしまった。


「渚ちゃん。いったい何なの?」


「何なのって?どうしたの早ちゃん」


「僕がなでしこさんの事を考えると、渚ちゃんは表情を表情を曇らせるじゃん」


 すると渚ちゃんは視線を逸らして「別に曇らせてないよ」


「嘘だ。なでしこさんの事を思うと渚ちゃんに対して、何か後ろめたい気持ちになる」


「そうなの?って私にそんな事を言われたって分からないよ」


 困惑して渚ちゃんは表情を曇らせてしまった。


 僕はそんな渚ちゃんを見るのが辛くて、渚ちゃんから逃げるように、その場から立ち去った。


「早ちゃん」


 僕が走る後ろ姿めがけて、言う渚ちゃん。


 渚ちゃんは追いかけて来なかった。


 そう思うと寂しい気持ちになる。


 追いかけて来て欲しかったのかもしれない。


 僕はもう訳が分からなかった。


 なでしこさんの深い心。渚ちゃんに対する後ろめたい気持ち。


 渚ちゃんには今朝、あんなに良くして貰ったのに、帰りにあんな風に突っ返す事はなかったんじゃないか?

 また渚ちゃんに対して罪悪感が芽生えてしまった。


 もう何なんだよ。


 走りながら気が付けば目の前がぼやけて見えた。

 僕は涙を流している。


 そして走り疲れた所にたどり着いたのは、以前なでしこさんと一緒に行った海を一望出来る防波堤にたどり着いた。


 まるで僕はここに導かれるように、行き着いた感じがした。


 頭の中がパニックの状態で、この広大な海を眺めていると、気持ちが落ち着いてくる。


 この広大な海をじっと眺めていると、まるで世界に一人しかいない感覚にとらわれる。


 部屋の中で一人でいると何か寂しい気持ちに苛まされて何も出来なくなるが、こうして一人で広大な海を眺めると、寂しさは感じられず、落ち着いてくる。


 気持ちの整理は出来なかったけれども、気持ちは落ち着いた。


 僕はランドセルからスケッチブックを取り出して、描きたい物をイメージして描いた。


 出来上がったその絵を見てみると、僕と渚ちゃんとなでしこさんとこの広大な海をバックに三人で戯れている姿だった。


 この絵を見て分かったが僕はなでしこさんとも渚ちゃんとも三人でいつまでも一緒にいたいんだ。


 でもなでしこさんの深い心。渚ちゃんに対する後ろめたい気持ち。


 またパニックになりそうになり、僕は誰もいない防波堤の向こうの広大な海に向かって叫んだ。


 言葉にならない声で・・・。


 叫んで叫んで叫びまくった。


 叫びながら僕は思ったが、僕が今欲している物はこの世に一つしかない真実だった。


 がむしゃらに叫べば、その真実にたどり付くんじゃないかと思った。


 この世にたった一つしかない真実。


 その真実はなでしこさんの深い心の中。そして渚ちゃんに対する後ろめたくなる気持ち。


 その二つの真実が知りたい。


 それが僕の切実な気持ちだ。


 そして叫び疲れて、僕は真実を手にした。


 僕は焦りすぎていた。答えをすぐに求めようとした。


 そうだ。なでしこさんの深い心と渚ちゃんに対する後ろめたくなる気持ちをすぐに求めようとしてはいけない。


 それらは問題集のように答えをすぐには見つけだす事は出来ないんだ。


 焦りすぎて我を失って、なでしこさんにも渚ちゃんにも迷惑をかけてしまった。


 二人にどんな顔をして謝れば良いのか?僕は分からない。


 とにかく僕は思ったんだ。


 二人の気持ちを知りたいと思ったが、それらは僕が、いや誰にも踏み込まれたくない所何じゃないかって。


 根拠ならある。僕も踏み込まれたくない気持ちは存在する。


 確かに二人の気持ちを知りたいが、知らなくて良いんじゃないかと思えてきた。


 気が付けば、空は茜色に染まり、夕刻を知らせている。


 なでしこさんにどんな顔をすれば良いのか、分からず、帰るのが気まずいが、帰らないとなでしこさん心配するだろう。


 僕は帰りたくなかった。でも帰らなきゃなでしこさんが心配して、また余計な負担をかけて迷惑をかけてしまう。


 帰り道、ゆっくりと帰宅して、なでしこさんに顔を見合わせるのが怖かった。


 スマホの時計を見てみると午後六時を回っていた。


 そして僕は自宅に到着して、ドアの前で、入るのをためらっていた。


 なでしこさんに顔を見合わせるのが怖い。僕を見たらどんな顔をするのか僕は怖いのだ。


 でもこのまま帰らなかったら、心配するし、それに僕には他に行くところ何てない。


 だから思い切って、その扉を開いた。


 するとその音に反応したなでしこさんが、急いで駆けつけて、僕の目を見て、心配そうな表情をして見ていた。


 そんな目で見られると何かいたたまれなくなるが、とりあえず「ただいま」と挨拶をした。


 するとなでしこさんは胸に手を当てて、ほっとした表情をした感じで穏やかな笑顔で「お帰りなさい」と挨拶をくれた。


 そんななでしこさんを目の当たりにして、悩んでいたのがバカになるくらいに、その悩みが一気に払拭されたかのようなすっきりとした気持ちになった。


「宗太郎様、今日はハンバーグですよ。そろそろ出来上がりますので、手荒いうがいをして食卓に入らしてください」


 洗面所に行き、手荒いうがいをしながら、僕はなでしこさんに一言謝っておかないといけない気がした。


 だから僕は手荒いうがいを済ませて食卓で食事の用意をして待っているなでしこさんの所に行き、なでしこさんのその大きな瞳を見つめた。


 なでしこさんはそんな僕に「ん?」と言った感じで穏やかな表情をする。


「なでしこさん。色々と心配かけてごめんなさい」


 自分で言うのも何だけど、僕は恭しく頭を下げられたと思う。


「宗太郎様、お顔をあげてください」


 顔を上げてなでしこさんの顔を見ると、僕に対して何か申し訳ないような感じで蟠っているような表情だった。


「なでしこさん。そんな顔をしないでください」


 と口走っていた。


「分かりました」


 そう言ってなでしこさんはおもむろに目を閉じて、そしておもむろに開いたと同時に、穏やかな絵にしたいような笑顔で僕を見る。

 僕はなでしこさんがそうやって笑ってくれることに安心して、ほっとする。


「宗太郎様、渚さんから先ほどお話を聞きました。色々と私の事でお悩みになっていたみたいですね」


 また悲しそうな表情をする。とにかくそんな顔をされると何かいたたまれなくなるので『やめて』と言うように言おうとしたら、僕の言葉よりも先になでしこさんは言う。


「宗太郎様」


 急にまじめな顔をして真摯な眼差しで僕の目を見る。

 僕は黙ってなでしこさんの話を聞くために、イスに座って、なでしこさんの目を見て、その耳を傾けた。


「私もロボットとは言え、一応人間と同じ感情と言う物が搭載されています。

 私も作られた時は人と変わらない赤ん坊のような物で、教育を受けなければ何も出来ません。

 そして色々と教育を受けて、私はこの十年で色々な所に派遣されて、色々な物を見てきました」


 そう言ってなでしこさんはお水を一口飲んだ。

 僕はその時、思った。

 僕にその海よりも深い感情を赤裸々に話そうとしていることに。

 僕はぜひとも聞きたい。でもなでしこさんは辛そうな表情をしている。


 刹那の葛藤が僕の中で起きた。


 聞くか聞かないか?


 是非とも聞きたい。でも・・・。


「ハンバーグおいしそうだね」


 話題を逸らして、なでしこさんは「宗太郎様?」ときょとんとした表情を浮かべて固まってしまった。

 僕が話を逸らした事に聡いなでしこさんは気が付いているだろう。

 聞きたいけれども、その心をさらけ出そうとするんなでしこさんの辛い顔を見るのは何か嫌だ。

 僕はなぜ話題を変えて話を遮ったのか自分でも分からないが、聞かない事を選択して話題を逸らした。


 箸を手に取り、ナイフでハンバーグを切って食した。


「おいしいよ。なでしこさん」


 本当においしかった。

 それは何もかも水に流せて、笑ってしまうほどのおいしさだ。

 おいしい物を食べると悩み事が吹っ飛んで、元気になる。


 そうだよ。確かになでしこさんのその海よりも深い心の中を見たいけれども、今日ぼんやりと海を眺めて僕は分かった。


 そのなでしこさんの深い心はなでしこさんと暮らしていく内に分かる日がやって来るんじゃないかと思う。

 色々となでしこさんの事を知って行く内に、その深い心に振れられる時が来る。

 それとなでしこさんの事を思うと、渚ちゃんに対して後ろめたい気持ちも徐々に分かってくるんじゃないかな。


 そして僕はそのなでしこさんの深い心に振れた時に何を思うのか?

 そう考えると無性に怖くなったりする。

 誰だって、ロボットのなでしこさんだって、その深い心の中身に振れられることは、裸を見られる事よりも嫌な事だと僕は思っている。

 でもいつかそのなでしこさんの深い心の中身を、なでしこさんと一緒に暮らしていく中で、目を凝らして、さらに心の目を研ぎ澄ませて、見たいと思う。


 僕はそんな深い心の持ち主のなでしこさんの事を愛してしまったのだから。

 僕はなでしこさんがこの世で一番麗しい女性だと思っている。

 なでしこさん言ったよね。僕が望めばいつだって僕の側に居てくれるって。


 食事が終わって、完食して「ごちそう様」と言って、部屋に戻った。

 そんな僕を見てなでしこさんは何かきょとんとした表情をしてから、その瞳を麗せて「お粗末様」と言って部屋に戻る僕を見送ったのだった。


 僕は何かなでしこさんの心に一歩距離を縮めた気がするし、僕となでしこさんを結ぶ、その絆が強まった気がする。

 具体的にそれらの事は説明できないが、何かそんな感じがする。


 そして僕達の夏休みが始まる。


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