第三節 -4- 出発
「さっさとどっかに行っちまえ」と大勢の人々に見送られ、勇者たちは気分良く魔法都市から発った。
魔法都市の障壁を破り、門を破り、撃退魔法で攻撃され、勇者のかけておいた魔法障壁もそれ自身もボロボロに壊れた魔法車だったが、勇者が一度手を触れると、魔法車は即座に元通りになった。
それを不思議に思ったサヤと驚いた魔法都市の人々だったが、勇者が「これはただの材料だ。術式さえ再構成してやれば、魔法車自身も再構成するに決まってんだろ」と言ったので、サヤは納得したふりをした。魔法都市の人々は感心したように頷いていた。
魔法車は馬車から馬を取り除いたような外見をしているが、その実、馬車としても扱うことができる。
基本的に魔力で動く魔法車だが、もしもの時のことを考えて、馬車としても扱えるようにしたのだ。「そもそも馬車を改造しただけだしな」とは勇者の談。
「……あの人、よくわからない人でした」
魔法車の中、サヤはそんなことを言った。
「勇者様のことをバカにしているような気もして、だけど、勇者様の実力を認めているような気もして……。でも、魔王を倒せないっていうのは、むかっとしました」
サヤはほんの少し、頬を膨らませ、口先を尖らせて言った。
それに勇者は思わず笑い、サヤに「どうして笑ってるんですか」と言われたので、答えた。
「あいつは正しいんだよ。俺だけじゃあ、魔王を倒せないのは確かなんだ」
その言葉にサヤは心底驚いたが、勇者の次の言葉ほどではなかった。
「サヤ。魔王を倒すのは、お前だ」
「え?」とサヤは聞き間違えたとしか思えないその言葉に、完全に思考が停止された。
あまりの衝撃に、驚くことさえできなかった。
「な、何を、言ってるんですか。私なんかに、魔王を倒せるわけが」
「……ま、今はそう思っていてもいいか」
勇者はそれだけを言い、それ以上を言わなかった。
サヤも納得していなかったが、こうなった勇者に何を言っても無駄と言うことは知っていたので、それ以上追及しなかった。
「それにしても、今回は、かなりの成果だ」
勇者は嬉しそうに言った。
しかし、サヤはその言葉の意味がわからなかった。
勇者はこの都市で、ただ会話していただけではなかったか。
「お前にはわからないだろうな。じゃあ、教えてやろう。見せてやろう。これが、俺がこの都市で得た、最大の収穫だ」
そして、サヤの脳に、突然、洪水のように情報が流れ込み――一つの映像が、思考を覆った。