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利己主義勇者と良き魔王 【序】  作者: 雪祖櫛好
第一節 少年と魔王
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第一節 -10- 少年と犬の戦い

 それは突然だった。

 少年はクレーターの中心部、すなわち要塞の中心部へと跳んだ。そして、要塞に触れ、その魔法を解析していた。

 すると、少年はいきなり剣を抜き、構えた。

 それを黒き衝撃が襲った。

 要塞の壁をなかったかのように突破したその衝撃は、だが少年に防がれた。少年は顔をしかめ、衝撃が来た方向へ向かって剣を振った。剣から白い衝撃が放たれた。

 少年が要塞の外を見ると、そこには犬のような魔族がいた。二対の紅き眼。四本の脚にも二対ずつ紅き眼があり、黒き体毛の中、尾の先だけが灰色だった。

 そして、その尾の先からどろっとした何かが絶えず空気中に放出され、霧散して言っている。

「ほう。今のを防ぐとはな」

 魔族は言った。感心したような声であり、その声はつまり、少年の攻撃も防いだことを意味していた。

「当然だ。殺気を出しすぎなんだよ、知能あんのか?」

 少年は挑発したように言ったが、魔族はそれに苛立ちを全く見せず、言う。

「私はエレクトロ。魔王様が配下、第七将軍エレクトロなり。ディープリースが仇を討つために参上した。貴公をそれだと見受けするが、どうだ?」

「ディープリース、か。ああ、覚えているよ。お前のようにわざわざ自分の名を言ってから戦った馬鹿な魔族だ。無論、俺が殺した」

「そうか。ならば良い。……貴様を此処で殺し、ディープリースへの手向けとしよう!」

 途端、魔族――エレクトロの背から黒き魔力が放出された。それは抑えていたものを解放するようであり、事実、そうであった。

 少年は直感した。これこそが、こいつの戦闘態勢だと。故に、警戒し、剣を構えた。

 直後、少年の背後からエレクトロが迫った。

「なんっ……!」少年は驚愕し、振り返り、咄嗟に剣を振った。それはエレクトロの爪に当たり、両者共に弾かれた。

 そしてエレクトロも驚愕していた。まさか反応されるとは思わなかったし、まして自分の爪が防がれるとは思ってもみなかった。人間如きの剣で、自分の爪が弾かれるなど、思ってもみなかったのだ。

「流石は、ディープリースを倒した人間、とでも言っておこうか」

「お褒めにあずかり光栄だ。だが、犬っころの攻撃を防いだくらいで、褒めるなよ」

 少年は挑発じみた笑みを浮かべ、だがその目は笑っていなかった。

 今、少年は必死だった。必死に思考していた。必死に解析していた。

 エレクトロがどうやって一瞬で自分の背後に移動したのかを。

 転移魔法ではなかった。転移指定点などを刻む時間などなかった。だが、転移魔法でないとしたら、なんだ。なんなんだ。

 必死に思考しながら、しかし、エレクトロにそんなことは関係ない。 

 エレクトロは口を開け――咆哮。文字に変換することなどできない、轟音としか呼べないような咆哮と共に、その口からは黒い砲弾が発射されていた。

 びりびりと少年の肌を轟音が震えさせ、黒い砲弾が少年へと向かう。少年は剣を構え、その砲弾を斬ろうとして、止める。少年は前傾姿勢で砲弾の方向へと跳び出し、魔力の噴出により、紙一重のところで砲弾を避ける。そのまま少年はエレクトロへ向かい、手に持つ剣を振った。

 エレクトロはそれを避けようともせず、剣がエレクトロを通りすぎた。

「やっぱりかッ!」少年は舌打ちをして、真上に跳ぶ。直前まで少年がいた場所に青年の目の前にいるはずのエレクトロが青年の背後から黒い衝撃を放ち、地が大きく抉られる。

「その尾。そこから出てるのは何か。ずっと気になってたんだ」

 少年は話しながら、魔力を放出し、地に降り立つ。

「それが、やっとわかった。良く良く考えれば、そうだな。簡単なことだった」

「……人間如きが、私の魔法を見破ったと?」

「そう言ってるんだよ、犬畜生。そして、もうそれは征服した」

 その言葉と共に、少年の身体を黒い影が覆った。エレクトロはそれを見た瞬間に口を開け、咆哮。黒い砲弾が放たれ、少年を襲う。だが、少年は避けない。さすれば、当然少年に黒の砲弾は激突する。

 土煙が舞った。

 それを見たエレクトロは尾を思い切り振った。「うおっ、と!」尾の先からそんな声が聞こえた。

「よもや、本当に見破られているとは思わなかったぞ、人間」

「はっ! 嘘こけ。思いっきりベストタイミングだっただろうが」

「もしも貴様が私の魔法を見破っていた時のことを考えたまで」

「そうかよ。さて、お前の魔法はもう見破ったわけだが、どうする? まだ続けるか?」

「無論」

 エレクトロが前足を振り上げ、地に叩きつける。それにより地が揺れるが、直前に跳んでいた少年には無効。少年は魔法を発動。黒い影が少年の身体を覆う。エレクトロの背から小さな黒い犬型の影が出現し、少年に向かう。少年は少し驚きながらも剣の一振りでそれを消滅。その隙にエレクトロは魔法で移動。先ほどまでいたエレクトロの姿が影のように消える。それを見た少年は魔力の放出により方向転換、右へ。すると、少年の肩にエレクトロの牙がかすり、だがそれだけで少年の肩は大きく抉れる。

「畜生の分際で、先読みなんかしやがって」

「人間如きができることを、魔族ができないはずがないだろう」

「そうか。なら、それを覆してやろう」

 少年が言うと、肩が抉れた少年の姿が影のように消えた。

「何だと!」

 エレクトロが驚き、だが狼狽せず、ただその身に黒き影を纏わせる。

「チェックメイトだ」

 少年の姿がエレクトロの頭上に出現し、少年が剣を振ると、エレクトロの身体は真っ二つになる。だが、それもすぐに影となり、消える。

「諦めろ。もう、俺の勝ちだ。……魔族如きにできることが、この俺に出来ないとでも思ったのか?」

 瞬間、少年の背後で爆発が起こった。「罠魔法、だと? 何時の間にッ!」そこからエレクトロの声が聞こえた。すると、少年は呆れたように溜息を吐き、

「だから、言ってんだろ。この戦いは、最早、畜生如きには解り得ない領域へと到達した。お前の行動は全て見破った。もうお前は俺に触れることすらできない。死ね、畜生。俺のために。俺の理想を実現するために」

 少年の右斜め前で爆発。エレクトロの呻き声。少年の左で爆発。エレクトロの呻き声。少年の真上で爆発。エレクトロの呻き声。前方で爆発。呻き声。爆発。呻き声。爆発。爆発。爆発。爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発――

 そして、数分後、少年の前には傷だらけのエレクトロが横たわっていた。

 多くの傷。様々な傷。肉が露出し、その色も黒だった。血のようなものは流れず、ただ肉が焼けたような香ばしい臭いが鼻についた。

「お前は強かった。そして、知能もまあまあ高い。だが、俺には程遠い」

「……人間、如きが。私を倒すとは、な」

「ああ、俺は人間だ。おそらく、最強の。だから、光栄に思え」

「思うはずが、ないだろう。だが、貴様の力は、認めよう。喜べ。私に褒められるなど、我が部下ならば歓喜に震え、涙を流すぞ」

「誰が喜ぶか。バカが。まあ、俺もお前の力は認めてやっても良い。第七でこれなら、俺は魔王にはまだ敵わないな」

「当然だ。魔王様に、貴様如きが敵うはずはない。いや、それ以前に、私以外の将軍にも勝てるかどうか。お前は私だったからこそ勝てたということを忘れるな。全ての魔族が私のようだと思うと、痛い目を見ることになる」

「ご忠告ありがとう。そんなことはわかってるから気に病むな。もし全ての魔族がお前のように誇り高いのならば、俺は魔族を滅ぼすことなど望まない。魔族の仲間になって、人間を滅ぼしただろうよ」

「そうだったら、と思ってしまうな。貴様ほどの力を持つ者が加われば、魔族に多大な益をもたらすことだろう。今でも遅くはない。魔王様の配下にはならぬか?」

「ならねぇよ。俺は魔族を滅ぼすと決めた」

「何故だ? 人間のためか。世界のためか。貴様は、どのような大義をもって戦う?」

「違うな。俺の道に大義など無い。ただ自らのために」

「……貴様は、自分のために、魔族を滅ぼすと?」

「ああ。俺の理想は魔族のいない世界だ。人間が統治する世界だ。そんな世界で生きるために、俺は戦う。ただ俺のために、俺はこの世界を変える。魔族を滅ぼし、世界を治め、ただ俺が幸福を得るために。不幸を許さず、幸福に満ちた世界を創るため」

「叶わぬ夢だ。そんな途方もない夢を、何故想う?」

「それが俺の理想だからだ」

 その言葉に、エレクトロは笑う。馬鹿にするように。羨望するように。

「良いだろう。ならば、我が屍を踏んで行け。さすれば、私は貴様の脚を掴み、地の獄へ引きずってやろう」

「それは結構。……じゃあ、もう、終わりだ」

 言い、少年が剣を振り上げる。それにエレクトロはふっと笑い、

「そうか。では、地の獄で貴様を待つ。魔王様に破れ、絶望するのを楽しみにしておく」

「言ってろ、犬畜生が」

 少年は剣を振り下ろした。

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