【9話】それぞれの道
準備を終え、旅立ちの日取りを決めた俺は、宿を出て、街道へと向かう道すがら、蒼太たちの姿を探すつもりでいた。
せっかく用意した礼の品――四人分の枕を、渡さないままにするのも据わりが悪い。
当てもなく大通りを歩いていると、噴水のある広場で、四人が旅装らしき荷物をまとめているところに、偶然行き当たった。
「あれ、お前も準備してんのか?」
蒼太が真っ先に気づいて声をかけてくる。
「ちょうどよかった。実は俺も、そろそろ街を出ようと思っててさ」
「へえ、意外と早いな」
少し驚いた様子の蒼太に、俺は鞄から包みを取り出した。
「これ、世話になった礼。剣と防具、助かったから」
俺は鞄から、包みを四つ取り出した。
「なんだこれ」
受け取った竜也が包みを開けると、中から柔らかい塊が覗く。
「枕? だよな、これ」
「まあ、そんなようなもんだ。一人一個ずつ。触ってみ」
残りの三人にも同じものを配る。
竜也が恐る恐る手を当てると、目に見えて表情が変わった。
「うわ、何だこれ、めちゃくちゃ柔らかいし、ひんやりする……!」
夏鈴と栞も自分の枕に触れ、二人とも、感心したような声を漏らした。
「これ、どうやって作ったの?」
案の定、栞が聞いてくる。俺は苦笑しながら首を振った。
「悪いけど、そこは秘密にしといてくれ。ちょっと事情があってさ」
「別にいいけど……気になるなあ」
夏鈴は不満げだったが、それ以上は追及してこなかった。
存外、物分かりがいい。
「ダンジョンでの訓練、これで少しは寝苦しさもマシになるだろ」
「マジで助かるわ。ありがとな」
蒼太が笑って肩を叩いてくる。
悪くない別れ方だと思った。
「ところで、そっちはどこに向かうんだ?」
尋ねると、栞が地図らしき紙を広げて見せた。
「私たちは、北の方にある訓練用の砦。もう少し実戦経験を積んでから、本格的に魔王討伐に向かうことになってるの」
「俺は、南の方に向かおうかと思ってる」
特に深い理由があったわけではない。
ただ、なんとなく、北よりは南の方が、この決闘者という力を試すのに向いている気がした、というだけだ。
「方向、真逆じゃん」
竜也が笑いながら言う。
事実、そうだった。
北と南では、行き先も目的も、まるで違う。
「まあ、な」
短く答えると、しばし沈黙が流れた。
特に気まずいわけではなく、ただ、それぞれがこれから歩む道の違いを、なんとなく実感しているような沈黙だった。
「じゃあ、また会うことがあれば」
「おう。お互い、生き延びような」
蒼太が差し出した手を、俺は軽く握り返した。
夏鈴と栞も小さく手を振ってくる。
「くれぐれも、無茶すんなよ、おっさん」
「その呼び方、そろそろやめてくれよ」
軽口を叩き合いながら、四人は北に向かって歩き出した。
俺はしばらくその背中を見送ってから、反対方向――南へと続く街道へ、足を向けた。
振り返ることはなかった。
それでも、あの短いやり取りが、思いのほか心に残っていることに、自分でも少し驚いていた。
(さて、行くか)
誰に言うでもなく呟いて、俺は一人、新しい道へと踏み出した。




