幕間 テルティア
前回からだいぶ間が空いてしまいました。
ストックが切れましたので、今後は不定期連載となります。
よろしくお願いいたします。
時間は少し――人の子の時間にして数時間――遡る。
〈蜂人〉型人造生物のうち、プリマからノーナの型番を持つ全個体が、とある信号を受信した。
――プリマゴーレム、消滅。
これに伴い、遥か昔に彼らの中枢に組み込まれたある手順が発火する。
すなわち――。
第三幼女王〈テルティア・ケンテシマ・セクスタ〉は、ふいに自らの体内で何かがカチリと切り替わるのを感じた。
生育環境に恵まれたおかげで、それまでも他の幼女王たちより一回り大きかった彼女の身体は、今や時を早回ししたかのごとく、急速に成長し始めた。
背は高く、四肢は長くなり、小さな翅はぐんぐん伸びて、軽く羽搏いただけで身体が浮かぶほどだ。
同時に、彼女はもう一人の自分――現女王、〈テルティア・ケンテシマ・クインタ〉の肉体が、同じスピードで急速に老い衰え、萎びていっていることも感知した。
(決まりね。次の女王も私だわ。そして……)
蜂の頭部を模した半仮面の下で、赤い唇がにい、と弧を描く。
(忌々しいプリマはこれでおしまいよ)
彼女は知らない。
数千年前の造物主、失われた伝承の中で〈古代人〉と呼ばれる者たちが、彼女ら女王の遺伝子に意図的に競争意識を組み込んでいたことを。
〈石の巨人〉とは、古代人が〈神酒〉と呼び、蜂人たちが〈強壮剤〉と呼ぶ薬の製造工場であり、その生産性を上げるために、蜂人同士で競わせていたことを。
九人の幼女王がそれぞれ専用のゴーレム・庭園・要員を持ち、そこから唯一の女王を出すために、各ユニットが増産を競う九系統並列の生産システム。
その仕組みを回すためだけに、女王型の個体にのみ少量の〈神酒〉を与えて肉体と精神の発達を促し、蜂型の社会を管理させていたことも。
古代人が消え去って以降、醸造されたきり放置され、空気中に蒸散した〈神酒〉が、何世代も経つうちに既存の生態系に影響を及ぼし、やがて魔物と呼ばれる生き物を発生させたことも。
何ひとつ知らないまま、彼女は矮小な幼女王の〈プリマ〉の部屋に赴き、未だに幼女の姿のままの姉を思うさま嘲弄し――その場に居合わせた人の子や岩小人など見向きもせず――その最中、体内の成熟が最高潮に達すると、本能の赴くままに翅を広げ、喉を震わせて高周波の呼び声を上げた。
「来なさい、新たな女王と共に! 私は〈テルティア・ケンテシマ・セクスタ〉、次代の女王よ!」
――同じ頃。
赤茶けた崖の上に、十人ほどの人間の冒険者が立っていた。
そのほとんどが狩人、盗賊、斥候など、明らかに俊敏性と機動力、それに隠密性を重視した構成だ。
乾いた地面に耳をつけ、しばらくじっとしていた暗殺者の男が立ち上がり、にんまりと歪んだ笑みを浮かべた。
「こいつはどうやら、ケプロスの巣別れにぶち当たったらしいぞ」
テルティアは知らない。
人間に近い造型をしたケプロスの女王が、レアモンスターとして人間の間で高値で取引されていることを――。




