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ハズレスキル〈線〉が、引くほど強くなるんですが ~捨てられ転生令嬢の無自覚最強サバイバル~  作者: 円夢
プロローグ

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先祖返り

 新連載です。本日から3日間は2話ずつ連載します。

 私は私。あなたはあなた。

「私」と「あなた」の間には、明確に引かれた線がある。



 ――昔から、ぐいぐい来る人が苦手だった。

 ノックもせずにずかずかと部屋に入ってくる母親。

 私の服やアクセサリーを、勝手に持ち出す姉や妹。

 嫌だと言っているのに、しつこくつきまとってくる職場の先輩。

 挙句の果てに、ストーカー化したその先輩に一人暮らしのアパートを突き止められて殺されて……。



 ……という前世の記憶がよみがえった途端。



「ジゼル・カーマイン。そなたのスキルは〈(ライン)〉――任意の場所に線を引く能力です」


 司教の厳かな声がした。

 檀上に据えられた水晶球。そこに、白く輝く文字が浮かんでいる。


――――――――――――――――――――

ジゼル・カーマイン


スキル:〈(ライン)

 任意の場所に線を引ける

――――――――――――――――――――


「えっ」


 これはもしや、異世界転生?


 それも「スキル」なんて言葉が出てくるあたり、ゲーム要素の強い世界に転生したっぽい。

 

(ていうか、〈線〉て。「任意の場所に線を引く」って)


 いくら何でも、それはあまりにショボいスキルではなかろうか…………。


 


「ジゼル」の記憶によれば、今日は年に一度の「託宣の儀」。国中の礼拝堂に、今年十歳になる子どもたちが集められ、生まれ持った特技(スキル)を判定される日だ。


 ここカーマイン伯爵領も例外ではなく、荘園屋敷(マナーハウス)付属の礼拝堂では、伯爵家と縁続きの子どもたちとその親が、期待と不安がないまぜになった表情で、順番が来るのを待っていた。

 その彼らの間から、動揺のざわめきが湧き起こる。


「先祖返り……」

「先祖返りだ」

「何と不吉な」

「本家のお嬢様ともあろうお方が」


【先祖返り】。

 それは、はるか昔に淘汰された、古いスキルが現れること。

 この世界の人々が何世代もかけて進化させ、研ぎ澄ましてきたものを、すべてリセットしたような時代遅れの能力だ。


 遠い昔、人々が〈火種〉のスキルでほそぼそと火を起こしていた時代があった。

 だが今や〈発火〉のスキルを利用した魔道具が当たり前のように用いられ、〈業火〉を操る魔導士が魔物を狩る時代である。〈火種〉はもはや、忘れ去られた原初の遺物――だが、ごく稀にこうした未発達のスキルが発現することがある。


 背後で見ていた私の母は声を上げて泣き崩れ、そんな母を無言で抱き寄せた父は、生まれてこのかた見たこともないほど冷たい視線を私に向けた。


「と、父様(とうさま)…………っ!?」


 父の瞳がふいに大きく、底知れぬ闇を湛えて見開かれる。


「ひっ……!」


 怖くてたまらないのに、その瞳から目が離せない。

 全身から力が抜けていくような感覚があり、私は意識を失って礼拝堂の床に倒れ伏した。


 この時、父が〈威圧〉と〈失神(スタン)〉のスキルを我が子に向けて放ったことを私が知るのは、だいぶ後のことになる――。


◆◆◆


 カーマイン家の血を引く女性は、代々〈治癒〉や〈加護〉、〈浄化〉といった聖女系のスキルを発現しやすく、数代前には〈聖域〉の聖女も輩出したほどの由緒正しい家柄だ。

 その一人娘として生まれたジゼル()も、当然のように次代の聖女となるべく期待され、幼い頃からこの国の地理や歴史、特産物を始め、王宮に上がっても恥ずかしくないようにとダンスや礼儀作法といった淑女の教養まで厳しく叩きこまれてきた。


「〈聖域〉はともかく、〈結界〉……いいえ、たとえ〈封印〉クラスのスキルであっても、発現しさえすれば王子妃に選ばれることは間違いないのですからね」


 というのが母の口癖で、


「いやいや、前回〈聖域〉が出てからかれこれ百年は経つ。ジゼルに発現したとしても、何らおかしいことはないぞ」


 と父が答える。


「まあ、あなたったら。うふふ」

「ははは……」


 というのが、物心ついてから幾度となく繰り返された我が家の定番のやりとりだったが――。


 


「なあ。こいつ、わざわざこんなとこまで運んでこなくても、どっかの娼館に売り飛ばしたほうが金になったんじゃね?」


 ゆらゆらと身体が揺れている。


「まだガキだが、けっこう可愛い顔してるしよ。()()()()客にはうけるだろ」

「馬鹿か、おめぇは。黒髪はともかく、紅色の瞳(カーマイン・アイ)のガキなんぞうっかり表に出してみろ。一発でカーマイン家の血筋とバレて、あっという間に足がつくわ」


 話し声と複数の足音のおかげで、徐々に意識が戻ってくる。

 私は誰かの肩に担がれており、その誰かは薄暗い洞窟の中を歩いていた。

 ごつごつした肩の骨が腹に食い込むたびに、揺さぶられて吐き気がこみ上げる。洞窟の冷たい空気が、剥き出しの足首をなでていく。


「しっかし、いくらハズレスキルを引いたからって、実の娘を迷宮(ダンジョン)に捨てさせるか、普通?」

「何でも、同じ日に〈結界〉のスキルを引いた娘が、伯爵家の『本当の娘』ってことになったらしい」

「へえ?」

「つまり、この子は()()()()()()()()()ことにされたわけだ。おっかないねえ、お貴族様のやることは」


 ――いなかったことに。

 

 洞窟の冷気とは別の何かで、身体の芯が冷えていく。

 父の、あの冷えきった眼差し。私に背を向け、泣き崩れた母。


『スキル〈(ライン)〉から〈境界線(バウンダリー)〉が分化しました。任意の場所に、()()()()()()()を引けるようになりました』


(えっ)


 頭の中で無機質な声が響くのと。


「着いたぞ」


 私を担いで歩いていた男が足を止めたのが同時だった。


「ここが階層主(フロアボス)の部屋だ」

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