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第六話 拠点

陽気男達に連れられ、私たちは街で一番高いビルに移動した。


彼らは銃声を聞いてそのビルの屋上からパラシュートで助けに来てくれたらしい。


ビルには様々な設備が整っており、何十人かの生存者が集まっていた。


「どうだ?すげぇだろ?」


「あ…あぁ、まさかこんなところがあったなんてな」


ショッピットが珍しく驚いている。


屋上の広場に着くと一つのでかいテーブルに座った。


「はい!ってことで新入りの二人に向けて俺たちの自己紹介をしていこうと思いまーす!!」


陽気男が切り出した。


「まずは俺から、俺の名前はアイリス!!剣が得意だ。なんか困ったことあったら頼ってくれ!よろしく!!」


この陽気男はアイリスって言うのか…なんか熱い人だな


「そんで私がアンナ。エンジニアやってんだ!よろしく!!」


「僕は天城あまぎ。よろしくお願いします。」


「……ひまり」


それぞれの自己紹介の内容と第一印象をまとめると…


・アイリス

赤い髪が特徴的

めっちゃ明るい

剣が得意

頼りになりそう


・アンナ

こちらも赤髪

ムキムキ

元気そう

怪力女

見た目に反してエンジニア


天城あまぎ

眼鏡かけてる

真面目そう

狙撃が得意そうだったな


・ひまり

全然喋らない

見た目に反して怪力女より怪力女


こんな感じか…特徴的なメンツだな


「そちらも自己紹介してください。仲間のことはできるだけ知らなければうまく連携が出来なくなるので」


天城が私たちの自己紹介を求めてくる。

確かにこっちも教えないとな…でも得意なこととかあんまないしな…


「えーと、私は希望のぞみ。得意なことは…まぁ射撃?だと思います」


「へー希望ねー、そっちのおっさんは?」


「俺の名前はショッピットだ。見ての通りただのおっさんだ。」


「そして——第2コロニー、通称『楽園』から来たしがない研究者だ。」


「『楽園』!?」


やや上擦った声で天城が反応する。

そんな驚くことなのか?

でも『楽園』ってなんのことなんだろう?


「おうショッピー、その楽園ってのはなんなんだ?」


アイリスがぽかんとした顔で尋ねる。

てかショッピーってなんだ?

あだ名か。響きがいいな。


「…第2コロニーは他のコロニーに比べて安全で整備が整ってる。あまりにも快適な生活が送れるもんだから『楽園』って呼ばれてんだ。」


「なるほど…ところで僕たちは『楽園』へ行くことはできるのでしょうか?」


「あぁ…だが相当な時間がかかる。とても現実的とは思えんな」


「……そうですか…」


天城の声が数段低くなる。


「まあまあ二人とも今日は疲れてると思うし、部屋で休んでおいてくれ」


アンナに勧められて私たちは指定された部屋へ向かう。


それにしてもこの部屋、思ったよりも綺麗だな…浴室もトイレもある。


ここなら少し落ち着けそう。長い間、野宿続きで不健康な生活してたからなぁ。


それにしても…『楽園』ってなんなのだろうか?


「まあ今日は疲れたしもう寝るかー」


そうして私は眠りに落ちた。


***


「おはよー!!希望!!」


でかい声に驚いて私は目を覚ました。

この声は…アンナか…


「一緒に朝ごはん食べに行こうよ!!」


こんな朝早くにすごい元気だな…

耳が痛くなる


「分かったよ…でも声のボリューム一段下げてね」


「分かった!!!」


私の要求に彼女は先ほどよりも大きな声で返事する。言葉通じてるのか?これ


アンナに着いていくとかなり広い食堂に辿り着いた。食堂なんて構えることができるほどこのビルには余裕があるのか…


長いテーブルがいくつも並び、そこには既に多くの人が座っている。笑い声や会話が飛び交い、ここが外の地獄と同じ世界とは思えないほど穏やかだった。


「どう?すごいでしょ!」


アンナが胸を張る。


「……うん、正直びっくりしてる」


配られた食事は、簡素ながらも温かかった。スープとパン、それに少しの肉。

久しぶりに、まともな食事をしている気がする。


「二人ともー!こっちこっち!」


アイリスが手を振る。

その隣には天城とひまり、そしてショッピットもいた。


「よく眠れたか?」


ショッピットが気遣わしげな面持ちで話しかけてくる。


「……まあ、それなりに」


「ならいい」


短いやり取り。

それだけでも、やっぱり少し落ち着く。

彼にはここに来るまでかなり世話になったからな。


「この拠点、どう思う?」


天城が静かに尋ねてくる。


「すごいと思う。安全そうだし」


実際のところ、このビルがゾンビたちに破られるビジョンが思い浮かばなかった。


ここに来るまでに見た建物とは、明らかに作りが違う。

外装は分厚い金属板で補強され、窓という窓には鉄格子とシャッターが二重に取り付けられていた。低層階はほとんど塞がれていて、出入口も正面ゲート一つに絞られている。

そのゲートも、ただの扉じゃない。何重ものロックと分厚い装甲で守られていて、小型の車両くらいなら簡単に弾き返せそうだった。

ビルの外壁には見張り台のような足場がいくつも組まれていて、常に数人の見張りが配置されているのが見えた。屋上には通信アンテナや貯水タンク、簡易的な農園のようなものまである。


「資材も人手も、相当かけてるんだね……」


思わずそう漏れる。

ここまで徹底しているなら、確かに簡単には崩れないはずだ。


「ええ。ここは元々、軍事施設だったらしくて」


天城が説明する。


「構造自体が頑丈なうえに、僕たちでさらに補強を施しています。防衛に関しては、かなり自信がありますよ」


「へぇ〜」


アンナが横から口を挟む。


「私もかなり頑張ったんだからね?あの外壁の補強とか、ゲートの制御システムとか!」


「確かに、あれは見事でした」


天城が小さく頷く。

「だろー?」


アンナが得意げに笑う。


「正面から来る限り、簡単には突破されないようになってるよ!」


その言葉に、私はもう一度外の様子を思い浮かべる。

あの分厚いゲート。高い外壁。見張りの配置。

——確かに、あれを突破できるとは思えない。


そう思った瞬間、胸の奥に張りついていた緊張が、ほんの少しだけ緩んだ気がした。


「……ここに来てよかった!」


小さく呟くと、アイリスが笑う。


「だろ?ここに来たやつはみんな最初そう言うんだよ めっちゃ安全だからな」


「その分、気も抜きすぎないようにしてるけどな」


ショッピットが付け加える。

その後、食事を終えた私は、アンナに連れられてビルの中を案内してもらうことになった。


***

「ここが作業区画!」


アンナが勢いよく扉を開ける。

中には工具や資材が並び、何人かが設備の整備をしていた。配線をいじっている人、壁を補強している人、武器の点検をしている人。


「毎日どこかしら壊れるからさー、こうやって直してんの!」


「へぇ……」


思っていた以上にちゃんとした生活が回っている。


「希望もなんかやる?簡単なのなら教えるよ!」


「え、いいの?」


「もちろん!」


アンナに言われるまま、私は簡単な作業を手伝うことになった。

ネジを締めたり、部品を運んだり。それだけでも、少しだけ“役に立っている”気がした。


「いいねいいね!飲み込み早いじゃん!」


「そう?」


「うん!そのうちもっと難しいのも任せられるかも!」


アンナは楽しそうに笑う。

その様子につられて、少しだけ笑みがこぼれた。

彼女からはエンジニアとしての気質を感じる。


***

作業を終えて廊下に出ると、奥の方から小さな声が聞こえてきた。


「ねえ、お姉ちゃん」


振り返ると、二人の子どもがこちらを見ていた。


「……どうしたの?」


しゃがんで目線を合わせる。


「外って、やっぱり怖いの?ゾンビって怖いの?」


その問いに、一瞬だけ言葉に詰まる。


「……うん。怖いよ」


正直に答える。


「でも大丈夫。ここはとっても安全だからね。強いお兄さんやお姉さんがみんなを守ってくれるよ。」


そう続けた。

実際、アンナたちは強かった。彼女らがいればゾンビが襲ってきてもなんとかなるだろう。


「そっか……」


「ありがとう、お姉ちゃん!」


小さく手を振って、二人は走っていく。


***


その後も、ビルの中を少し歩いた。


洗濯物を干している人。

簡単な畑の手入れをしている人。

談笑している人たち。


まるで外とは別世界だ。


しばらく歩いていると廊下の奥から声が聞こえてきた。


「いや、だから正面ゲートの負荷が想定より高いんだって!」


「それは分かっています。でも資材が足りない以上、全面補強は無理なんですよ。」


聞き覚えのある声。


アンナと——天城だ。


少しだけ足を止める。


「じゃあどうすんの?このままじゃ、長くは持たないよ」


「……分かっています」


一瞬の沈黙。


その空気が、さっきまでの明るさと明らかに違った。


気になって、少しだけ近づく。


扉は半開きだった。


中では、数人が机を囲んでいた。

地図や設計図のようなものが広げられている。


「外周の巡回頻度を上げるしかないな」


ショッピットの声。


「それと、万が一に備えて退路の確認もしておくべきだ」


「撤退前提かよ……」


アイリスが眉をひそめる。


「最悪の想定は常にしておくべきだ」


ショッピットの言葉は淡々としていた。


「この拠点は確かに強い。だが“絶対”じゃねぇ」


その一言で、部屋の空気が引き締まる。


私は、思わず息を止めていた。


さっき見た“安全な場所”の裏側。


それを、今目の前で見せられている気がした。


「ていうか…希望をこの会議に参加させなくてよかったのかよ?お前の連れだろ?」


アイリスが腕を組みながら言う。


「いや…あいつは守られる側だ。ゾンビとの戦闘経験が豊富なお前らと違うんだ。無理に戦わせる側に回したくない。」


「そうかよ…」


「……とにかく」


天城が口を開く。


「現状、防衛は維持できています。ただ——」


言葉が一瞬止まる。


「外の動きが、少しおかしい」


「おかしい?」


アンナが聞き返す。


「ええ。数が増えているのもそうですが……動きに統一性がある」


「統一性?」


「まるで、どこかに誘導されているかのような」


その言葉に、背筋がわずかに冷える。


「あのスピーカーが鳴ったのはご存知ですよね?」


「あぁ…もちろん。あれのせいで俺たちは死にかけたんだ。」


ショッピットが難しそうな表情で言う。


「あれはただのスピーカーの故障ではないと私は考えています。誰かが意図的に、あれを引き起こした…」


部屋の空気が一瞬で変わる。


「……つまり?」


アンナが眉をひそめる。


「内部に関係者がいる可能性があります」


その一言は、想像以上に重かった。


「はぁ?内部って……この中にってことか?」


アイリスが声を荒げる。


「断定はできません。ただ、外部からあのシステムに干渉するのは難しい構造です」


天城は冷静に続ける。


「設備の構造を理解している人間が関わっていると考えるのが自然です」


アンナの表情がわずかに曇る。


「それ、つまり……技術者ってこと?」


「可能性は高いです」


「おいおい、待てって……」


アイリスが頭をかく。


「疑い出したらキリねぇぞ。ここにいるやつら、みんなで作ってきた場所なんだ」


「分かっています」


天城は静かに頷く。


「だからこそ、慎重に扱うべき問題です」


沈黙が落ちる。


誰も軽々しく言葉を出せない。


「……外からの干渉の線は?」


ショッピットが口を開く。


「完全には否定できません。ただ、その場合でも、誰かが誘導しているという形になります」


「どっちにしろ、偶然じゃねぇってことか」


「はい」


短い肯定。


——内部にあれを引き起こした人が…?


私は扉の外で、無意識に拳を握っていた。


スピーカーの爆音。

集まってくるゾンビ。


あれが仕組まれたものだとしたら——


「……目的はなんだ?」


アイリスが低く問う。


「単純に考えれば、戦力の削減。あるいは——」


天城は一瞬だけ言葉を選ぶ。


「拠点の崩壊を狙っている可能性もあります」


「洒落にならねぇな……」


アンナが小さく呟く。


「内部にいるなら、いつでも同じことができるってことだもんね」


その言葉に、全員が黙る。

見えない敵。

それが一番厄介だ。


「……対策は?」


ショッピットが問う。


「まずは設備の再点検。特に音響系統と外部接続」


天城が即答する。


「加えて、アクセス権の見直し。操作できる人間を制限します」


「面倒だなー……でもやるしかねぇか」


アンナが肩を回す。


「監視も強化します。不審な動きがあればすぐに報告を」


「了解」


短い返事が重なる。

会議は淡々と進んでいく。


だが——


その空気は、もうさっきまでとは違っていた。


安全な場所だと思っていたこのビルに、

見えない亀裂が入ったような感覚。


私は静かにその場を離れる。

足音を立てないように。

誰にも気づかれないように。


廊下に出ると、さっきまでと同じように人の声が聞こえてくる。


笑い声。

話し声。

日常の音。


——なのに。


そのすべてが、少しだけ遠く感じた。

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