第13話『リィナの過去、燃える家門』
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第三貴族連合からの提案を受けてから、数日が過ぎた。
返答はまだ出していない。
いや──出せなかった。
その案は、俺という異物に対してひとつの“出口”を示すものだったが、それは同時に、未来への決定的な一歩を意味していた。決めた瞬間、もう後戻りはできない。
だからこそ、慎重であるべきだった。
アストラ・ヴェールの戦術演算室。
今は使われていないコンソールの上に、リィナが一枚の古びたメダルを置いた。
「……これは、かつての私の家門の紋章です」
淡く輝く金属板に刻まれていたのは、花弁のような模様と、剣をかたどった意匠。それはどこか、見覚えのあるような──あるいは、帝国の標準的な貴族意匠に似ているようにも見えた。
「私の本名は、リィナ・エルステイン。帝国貴族、“エルステイン家”の末娘でした」
その言葉に、思わず息を呑んだ。
エルステイン──帝国西部星域のかつての侯爵家門。魔導技術と教育事業で栄え、十年以上前までは帝都にも屋敷を構えていたと記録にある。
「……だった、ってことは」
「ええ。私の家門は……粛清されました」
リィナの声は静かだった。
だが、その静けさの奥に、言葉では言い表せない“焔”のようなものが宿っていた。
彼女の語る過去は、帝国史の“片隅”にすら書かれない事件だった。
彼女の父は改革派であり、魔力と科学技術の融合による新たな教育制度を帝都で訴え続けていた。だが、それが帝都の保守派や特権階級から反発を招き、やがて“反逆の兆し”として密告される。
突如として与えられた査問。
立ち退き命令。
そして、ある朝、エルステイン家の屋敷は爆発事故という名目で跡形もなく吹き飛ばされた。
「私は、使用人に抱えられて逃げ出して……それから、ずっと、潜伏していました」
ナビスが小声で補足する。
《リィナ・エルステイン……該当する人物記録は表層帝国データベースから抹消されていますが、旧連合保管記録には僅かに痕跡あり。信憑性は極めて高いと思われます》
彼女は、本物の“失われた貴族”だった。
「だから、私はあの場で、朔夜さんが帝国に屈しなかった姿に、感動したんです。……どれだけ恐ろしいか、私はよく知ってる。帝国に背くということが、どういう結果をもたらすか」
それでも、彼女は俺の側に立っている。
「私にはもう、家門も地位も名前もない。でも……私の“誇り”は、まだ消えていません」
その言葉が、まっすぐに胸に刺さった。
俺だけじゃなかった。
この銀河で“奪われたもの”を、必死に取り戻そうとしている人間が、ここにいる。
ならば俺も。
「リィナ。……俺がこの艦でできること、少しでもお前のためになるなら、遠慮なく言ってくれ」
彼女は小さく首を横に振って、微笑んだ。
「いいえ。朔夜さんは、朔夜さんのままでいてください。それだけで、私には充分です」
その笑みは、穏やかで、少しだけ寂しげで。
だが何より、誇り高かった。
エルステインの名が銀河に消えても、彼女の心の火はまだ消えていない。
それはきっと、俺にも分け与えられた“灯火”だった。
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