表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/65

第12話 『傀儡の道、自由の代償』

 帝国の使節団が去ってから、三日が経過した。

 アリヴェスの空はいつも通りに広がっていたが、その下に流れる空気はまるで別物だった。兵士たちの目は鋭く、街の警備は目に見えて強化され、住民たちの口数も減っていた。

 帝都からの圧力が、目に見えない形でこの辺境都市を締め上げていた。


 俺──天城朔夜が、帝国の“定義する秩序”に背を向けたからだ。


 庇護を拒否し、艦の譲渡を拒否し、敵対の選択肢も選ばなかった。

 その代わりに、俺は「どこにも属さない存在」として、自分の意思を明確にした。

 その答えに、帝国がどう反応するのか。沈黙は返って不気味だった。


 アストラ・ヴェールの内部でも、その緊張感は共有されていた。


《周辺星系の通信傍受によれば、帝都は“監視対象”としてあなたを分類した模様です。航行ログは常時追跡、惑星間移動には監査官の承認が必要となる可能性があります》


「つまり、実質的には“閉じ込め”られたってことか」


《はい。軍事的制圧は避けられましたが、代わりに情報封鎖と行動制限による“静かな拘束”が進行中です》


 自由を得るために選んだ道は、想像以上に孤独で厳しいものだった。



 艦のデッキで空を見上げていると、足音が近づいた。

 リィナだった。彼女は薄い上着を羽織りながら、隣に立った。


「……朔夜さん、よくあの場で言い切れましたね」


「ああ。でも、今になって現実が重くのしかかってきてる」


「帝国は“正面から潰す”より、“飼い慣らして骨抜きにする”ほうが得意です。あなたが思っているより、ずっと……ずっと狡猾」


 リィナの声には、怒りと恐れ、そして少しの希望が混じっていた。


「でも、それでも……私は、あなたが選んだ道を誇りに思います」


 そう言って、彼女は微笑んだ。

 その表情に、思わず俺は小さく息をついた。


「ありがとな。お前がいなきゃ、今頃心折れてたかもな」


 沈黙が、優しく二人の間に流れた。



 その夜。

 艦のブリーフィングルームでナビスが新たなデータを提示した。


《帝国以外の接触試行を確認。第三貴族連合所属、名義上は“独立支援団体”からのメッセージです》


「第三貴族連合……あのイレーナの派閥か」


《メッセージ内容は以下の通り。“あなたのような異端者が銀河に居場所を得るために、我々は選択肢を提供する。もし独立の意思があるなら、交渉の余地がある”──とのことです》


「……罠かもしれないな」


《ですが、帝国とは異なる力があなたに接触を試みているのも事実です》


 少し考え、俺は応えた。


「受けよう。罠かどうかは、自分で確かめる」



 翌日、アリヴェス郊外にある廃棄された港湾施設。

 イレーナが待っていた。

 黒曜石のような瞳と、いつもの飄々とした微笑み。


「来てくれて嬉しい。あなたは、本当に興味を引いてくれる存在ね」


「俺を利用しに来たのか?」


「利用か……それは見る側によるわ。私は“提案”に来ただけ」


 イレーナが持ち出したのは、ある提案だった。


 ──アリヴェス周辺の未開発惑星群に、“形式的な自治領”としての地位を持たせ、朔夜を“非帝国籍貴族”として登録する案。


 それは、帝国に背を向けながらも法的に存在を保証される、非常に特殊な立場を意味していた。


「もちろん、あなたに協力する代わりに、いくつかの星系での開発権や情報共有を希望している。けれど……あなたが“独自の旗”を掲げることは、私たちにとっても希望なのよ」


「なぜ、そこまで俺に肩入れする?」


 イレーナは視線を外し、夜空を見上げた。


「……私も昔、選べなかったの。帝国に、世界に、生まれに縛られて。“自分の意思で何かを選ぶ”って、それだけで自由だと信じてる」


 その言葉に、俺は少しだけ、彼女の真意を垣間見た気がした。


「返答は急がない。けど、あまり長くは待てないわ。帝国はもう、動き始めてる」


 イレーナは風のように去っていった。


 俺は静かに拳を握る。

 あの選択が、正しかったのかどうかは分からない。

 だが、ここで止まるわけにはいかない。


 自由を選んだ代償は、これから払っていくしかない。


 それでも、俺は前に進む。

 ──この世界で、自分の名と意思を刻むために。



最後まで読んでいただきありがとうございます!


もしこの物語を気に入っていただけたら、ぜひ「お気に入り登録」や「ブックマーク」をしていただけると励みになります!


続きも全力で書いていきますので、どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ