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第11話『帝都からの使節と銀の鎖』

いつも見てくださってる読者の方々ありがとうございます


 帝都からの高速艦が降下を始めたのは、夜明け直前だった。

 暗い空を貫く五本の光が、音もなくアリヴェスの上空に滑り込み、白金装甲の母艦がその姿を現す。

 艦体の側面には帝国の紋章──双頭の龍を抱いた星環の意匠──が大きく刻まれ、威圧するような重力場が街全体を包み込んだ。


 ナビスの情報によれば、今回の視察団には帝都評議会直属の特別査問官、帝都騎士団の監視役、そして外交の名を借りた第三貴族連合の代表が含まれている。

 つまり、彼らの来訪は単なる表敬でも、形式的な儀礼でもない。俺──天城朔夜という“異星存在”と、アストラ・ヴェールという“未知の艦”に対して、帝国としての立場を明確にするための場だ。


 それは、歓迎ではなく──査問だった。



 午前七時。

 艦の外装を簡易整備していたナビスからの通達を受け、俺は艦を出た。

 黒を基調にした正装風の軽装ジャケット。帝国風の礼服ではなく、あくまで自分の意志で選んだ服装だった。


 ドックで待っていたのはリィナと、見知らぬ男だった。

 漆黒の髪を後ろに束ね、淡い灰の礼装に身を包んだその青年は、まっすぐに俺を見て一礼した。


「失礼します。私は帝都側より派遣された案内役、クラウス・ヘイルです」


 端整な顔立ちに冷静な声色。

 その態度には過度な敵意もなければ、下手な好奇心もなかった。ただ、彼にとって俺は“特異点”であり、“評価すべき対象”であることだけは明白だった。


「本日は、議事堂にて公式な対面と協議が行われます。警護部隊と観測班はすでに現地に待機中です。ご同行をお願いいたします」


 形式的な言葉の裏にある無言の圧力を感じながら、俺は頷き、歩き出した。



 アリヴェス都市中枢にある魔導議事堂は、星暦百年に建てられたとされる古式建築だった。

 地表から四十メートルの浮遊基盤に築かれたその建物は、石と魔力結晶を融合させた荘厳な構造で、まるで“空中城”のような威容を放っている。


 俺とリィナ、クラウスは光転移リフトを使って空中議事堂へと到達した。

 すでに内部には、数名の高位貴族が着座しており、その中心には、重々しい装飾の施された玉座に似た椅子があった。


 そこに腰掛けていたのは、一人の老紳士だった。

 銀灰色の髪を後ろで束ね、軍礼服の胸元には複数の叙勲章が輝いている。


「天城朔夜──我が名はグレイ=ヴァントス。帝都評議会より任命された査問官である」


 その声は低く、厳しく、そして一分の揺るぎもなかった。


「あなたの存在は、すでに帝都において大きな議論を呼んでいる。理由は明白だ。あなたが所有する艦が、帝国の持つあらゆる既知技術体系を逸脱しているためだ」


 その隣に座っていたのは、黒髪の若い女性だった。

 漆黒のドレスに身を包み、見る者を試すような視線をこちらに投げている。


「イレーナ・フローヴェルです。第三貴族連合の使節として同行しております。……ですが、正直に言ってしまえば、私は“あなた”に興味があって来たのです」


 その微笑には毒と好奇心が入り混じっていた。


「本題に入ろう。帝国としては、あなたの艦を管理下に置く必要があると判断している。具体的には、あなたがいずれかの貴族家門に庇護を願い出るか、艦そのものを帝国に譲渡するか、あるいは……」


 グレイは声を切り、わざと間を置いた。


「敵対存在として排除対象に認定されるか、だ」


 その言葉は冷静で、そして残酷だった。


 リィナが息を呑んだのが分かった。


 俺は前へ一歩進み、静かに答えた。


「どの選択肢も、俺には納得できない」


「では、あなたは帝国の秩序を否定するというのか?」


 グレイの問いは、まるで尋問のようだった。


「違う。俺はただ、この艦と共に在るだけだ。誰かの命令で動くのではない。これは“俺の意志”で、この艦も俺を選んだ」


 その言葉に、イレーナが微笑を深めた。


「興味深い発言ですね。まるで、自らを国家と見做すような……」


「国家かどうかは関係ない。ただ、俺はもう誰の下にもつかない。それだけだ」


 空気が張り詰めた。

 まるで全員が、息を止めたかのようだった。


 グレイは数秒の沈黙ののち、厳しく口を開いた。


「帝国としては、あなたの発言を“危険思想”と認識する可能性がある。その上で、監視下に置くべきか否かを、帝都へ持ち帰り協議する」


 彼は椅子から立ち上がり、視察団の撤収を告げた。


 その背中を見送りながら、俺は改めて理解した。

 この世界で“自由”を得るということは、孤立と戦いの中でしか手に入らない。


 だが、それでも──俺はこの艦と、俺の足で進む。


 この銀河に、俺という存在が在ることを証明するために。


 そして、ユリシアの記憶の奥に眠る“真実”へ辿り着くために。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
 12話まで読んでの感想として、「なんか良く分からない」という感覚。  全体的に一人称で進んでいる作品なのですが唐突に三人称になる場面があって分からなくなる。(彼が相手では無く主人公を指してたりする)…
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