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観光と探索

☆☆☆


黒羽は和牛専門店で炭火によって焼かれた牛肉をつつく。その背中かは心なしかぐったりとしていた。

それもその筈で黒羽は現在、身体全体が鉛になったかのような疲労感を抱えていた。

別に、予想外の事件やアクシデントに巻き込まれた訳ではないのだが、黒羽の目の前にいる男

賽優陽子斗(さいゆうよしと)のあまりのテンションの高さに精神的な疲労と色々な所に連れまわされたことによる肉体的な疲労が重なっているのだ。


「どうどう☆

黒羽ッち、ここの牛肉上手いっしょ☆

俺のお気に入りの店なんだッ☆

あっ、でも、行きつけの店って訳ではないかな☆

偶のご褒美的な感じでくるんだ~☆」

「そ、そうですか……。

でも、本当に賽優さんの奢りでいいんですか?

自分持ち合わせは少ないですけど、流石に少しくらいは…………。」

「いいのいいのッ☆

だって、俺と黒羽ッちが出会った記念すべき日だよッ☆

黒賽記念日だよッ☆

お兄さんにど~んと頼りなさ~い☆」

「は、はあ、ありがとうございます。」


黒羽はその独特の雰囲気と会って間もない、自己紹介に関しては先ほど観光の合間に少しした程度の中なのに、苗字ではなく名前で呼び、まるで昔からの旧友のように接するこの男に困惑しながらも、徐々に気を許していた。


それは一重にこの男、賽優陽子斗が相手の心の隙間に入ることに関して先天的な才能を持っていたからだろう。

一種のカリスマと言っても良いそれにより黒羽も少しづつ心を許していたのだ。


「そう言えば賽優さんって、なんのお仕事をしている人なんですか?」

「も~、さっきから硬すぎだよ~黒羽ッち☆

昔に食べたかりんとより硬いよッ☆

それで~、僕の職業だっけ~?

そ・れ・は・ねッ☆

友達と一緒に人を守ったり、道具を作って販売したりとか、かなッ☆

普通に何でも屋だと思ってくれて構わないんだZE☆」

「へぇ、何でも屋ですか、探偵とか?それとも、人を守るってことは…警備会社とかですか?」


「う~ん☆

その2つなら警備会社が近いかなッ☆

そう言えば、今度新しく女の子のフレンズが増える予定なんだッ☆

うちのフレンズたちもすっごく喜んでてみんなとってもハッピーって感じなんだ~☆

黒羽ッちにも紹介するねッ☆」

「そうなんですか?ありがとうございます。…………やっぱり、警備会社とかって男性が多いんでしょうか?」

「う~ん、それはよくわかんないなッ☆

ただ、うちは男のフレンズが多いねッ☆」


(屋内とか女性がいる場所なら女性警備員とかの方がよさそうだけど、賽優さんの企業は割と体力が必要な現場なのかな?)


黒羽は自分の中でそのように結論を付ける。

そもそも、身体を酷使する職業では他の職業よりも自動人形(オートマトン)の占める割合が多く、身体を酷使する職業を選んだ人は軒並、力自慢体力自慢であるので、その観点からも女性が少ないのはある程度納得が出来るのかもしれない。


勿論、中にはそこらの男よりも力や体力があるという人もいるだろうが…………。


そんな風に自分たちの身の上話や世間話をしながらも、次々とくる和牛料理に黒羽は舌鼓をうっていた。

箸の進みも正直、人生で一番早いかもしれない。

肉が口の中で溶けるという言葉の意味を人生で初めて実感した。


その様子を陽子斗はニコニコしながら眺める。

純粋に地元の料理に感動している姿が嬉しくてたまらないといった様子だ。



他愛もない会話をしながらも、運ばれてきた皿はどんどんと空になり、遂には全ての皿が空になる。

黒羽もその頃には腹が十分目まで満たされて、幸せそうな顔で両手を合わせる。

「ごちそうさまでした‼」

「うん☆

ボクもご馳走様した☆

それにしても良い食べっぷりだったねッ☆

グルメファイターになれるんじゃな~い☆」

「い、いや、賽優さんが連れて来てくれたお店の料理が凄く美味しくて……。

流石に何時もはこんなに食べないです。」

「そっか☆

だったら、食べ歩きしちゃおッ☆

牡蠣とかジンギスカンとか牛タンとかッ☆

この街にはまだまだ美味しいものがあるからさッ☆」


賽優はそう言いながら、黒羽に向けてニコリと笑い肩を組んでくる。

そのまま、会計の前まで肩を組み続けた賽優も会計の際は流石に黒羽から離れ、ウォレットフォンを使い会計を済ませる。

この男の場合は肩を組みながら会計を済ませようとしても全く違和感がない。


因みにウォレットフォンとは、決済専用端末であり、それ本体が実質的に持ち主の銀行口座となる。

仕組みとしては、この端末を作った時点でこの端末に登録した銀行口座から直接現金を引き出せなくなるというものだ。

勿論、端末からの登録を削除すれば再度、現金を引き出せるが、それをするにはウォレットフォンサービスセンターに赴き、本人確認を行う必要がある。

人によっては手間に感じるだろうが、その分の恩恵があり、まず、ウォレットフォンを利用するにあたり、暗証番号によるパスワードの他に指紋認証、虹彩認証、眼球血管認証、耳介認証、音声認証の5つからなり、更に、1.5メートル以内にマイクロチップを内蔵した3つの物品が必要になる。

この物品はキーホルダーで会ったり、合いかぎに偽装していたり、時計に入っていることもあるなど、それぞれオーダーメイドで用意しており、一目でこれだと分かるようにはなっておらず、ウォレットフォンを手にしても、悪用することが出来ないようになっている。

また、自分の持つウォレットフォンの凍結に関しては携帯端末からサービスセンターに連絡を入れれば、最長5分で完了するため非常に手軽だ。その上、GPSで何時でもどこにあるかサーチできる。

欠点としては再度利用する際はサービスセンターで本人確認が必要になるという点だろうか。


しかし、ウォレットフォンの一番の利点はそこではない。ウォレットフォンはあらゆる交通機関及び、ほとんどの店で利用が可能なのだ。少なくとも支店を複数持つような店であれば、必ず導入しているほどにはメジャーである。ネットなども言わずもがな。


そう言った背景があるため、ウォレットフォンを利用する人間は非常に多い。


賽優もまた、その一人なのだろう。

手慣れた様子で会計を行う賽優を見ながら黒羽はそう判断する。

しかし、その際に黒羽は一つ違和感に気づいた。


(来るときは自動人形(オートマトン)が会計に立っていた筈だけど……何時の間に人間に変わったんだ?)


黒羽たちの会計を受け持つ店員は着物姿で非常に華のある女性であった。

入った時は自動人形(オートマトン)が行っていたため、非常に違和感がある。

それともあれも自動人形(オートマトン)なのだろうか。


黒羽は違和感を抱えながらも、大した意味がないと判断し、思考の隅へ疑問を追いやる。


「く~ろはッち☆

会計終わったよ~。

いこいこ~☆

次は牡蠣にする?それともジンギスカンにする?」


賽優はそう言いながら、外に出る。

賽優の後を追いながら、お腹も一杯な上、そろそろ、夜に備えて仮眠を取ろうと考えていたため、賽優の提案を断ろうと口を開く。

しかし、その前に第三者が乱入する。


陽子斗(よしと)ッ‼てめぇこんな所で油売ってやがったのか‼」

「ごめん、ごめ~ん☆

新しいフレンズが出来たから一緒に祝ってたんだ☆」

「新しいフレンズだぁ?」


乱入してきた第三者は賽優の言葉に従い、賽優が出て来た店の前に視線を向ける。

すると必然的に、賽優に続く形で出て来た黒羽が視界に入る。

男は黒羽を下から上までジッと観察する。

その間に黒羽も男を観察する。


男の容姿は目元まで隠れる黒髪に、鋭い眼光、黒のチノパンにブロード生地のシャドーストライプの入ったワイシャツにレギュラータイであった。

しかし、ワイシャツとレギュラータイはかなり気崩しており、ビジネスマンという感じは微塵もしない。

それどころか、眼光も合わさり若干ではあるが、ガラが悪いような印象を受ける。

強いてフォローを入れるのであれば容姿は整っているので一部の女性からは人気が出そうだ。


黒羽が男の観察を終えた頃、男も黒羽の観察を終えたのか、じっと見定めるような居心地の悪い視線が止んだ。

そして、綺麗に直角九十度黒羽に頭を下げる。


「すまん!少年。うちの馬鹿が迷惑かけたな。」

「い、いえ、全然。それどころか右も左も分からない俺に凄くよくしてくれて…………」

「そうか……この馬鹿も偶には約に立ったか」

「え~、ひっどくな~い☆

俺と黒羽ッちは無二の友だよッ☆

零害あって百利ありだよ~☆」

「は~………行くぞ。」


そう言うと黒髪の男は陽子斗の腕を掴み引きずるように陽子斗を連れて行ってしまう。

知り合いのようだし、きっとあの人も陽子斗の友達なんだろうと思いながら、黒羽はその光景を眺める


「ちょ、ちょっとまって~☆

ボクはこれから黒羽ッちと牡蠣食べたり、ジンギスカン食べるんだけど~☆

って、痛い、(じゅん)、痛いんだけどッ☆」


黒羽は彼らが見えなくなるまで手を振り続けるのだった。


☆☆☆


太陽が落ち、太陽の代わりに街灯が街を照らし出す。

黒羽は、賽優と別れた後、カプセルホテルに帰り、一度仮眠を取っていた。

そして、あらかじめかけていたアラームによって目を覚ます。

汎用型の携帯端末を見ると時刻は既に夜の九時を過ぎている。

それを確認し、グッと伸びをし、テキパキと外出する支度を整える。




カプセルホテルを出た後は、人気のない路地裏で夜射を使い、力が使えるようになったことを確認する。


「よし、問題ないな。…………ただ、どこから探すか……。」


黒羽は一通り夜射を使い満足すると辺りを見回し、この後どうするかを考える。

一応昼の間も下見をしてはいるが、賽優と会ってからは普通の観光のようになってしまい人気の少ない場所は探せていない。


しかし、黒羽はそこで逆転の発想をする。


(いや、観光名所は粗方回ったし、そこから離れた場所を探してみるのも良いか……)


そうと決まれば、話は早いとばかりに汎用型の携帯端末で地図アプリを開き、今日回った名所に〇を着けていく。


そして、どの観光名所からも遠い位置にある場所にチェックを付けた。


(全部で四か所。どこから行くべきか………。いや、今日の所はホテルから近い所にしておくか)


黒羽は行先を現在地から一番近い所に決める。

賽優と出会い連れまわされた疲労も完全に抜けきっていなかったのだ。


黒羽は、大体の場所を覚えた後、携帯端末をしまう。

本当なら地図アプリを起動したまま携帯端末片手に向かいたかったのだが、ナイトメア能力者がどこに居るか分からないため、町の住人に少しでも溶け込みたいのだ。


走って向かわないのもそのためだ。

認識阻害の遺産があれば話も変わってくるのだが、遺産を持っていない以上、目立たないようにしなければ、ホテルまでつけられる恐れがある。


そのために、目立たないように行動する。


黒羽は出来るだけ、人気の多い場所を選び、目的地を目指す。

徒歩であり、途中、ナイトメア能力者と会った時のため適当に寄り道もしていたのでかなり時間がかかった。


一応、ナイトメア能力者としての気配を消していたので大丈夫だと思うが、オブザーバーの例もあるので慎重を期す。


そうして、様々な対策の末、ようやく、目的の場所へつく。

観光名所と比べると多少、殺風景な場所だ。


住宅地という訳ではなく、開発途中の商業地区というのがしっくりくる。

一部、鉄骨がむき出しになっている建物がそこそこの数存在し、工事用のフェンスの奥には

重機などが乱立している。

黒羽はそれを街の景観の為に、植えられている木の上に飛び乗り、眺める。


勿論、工事用のフェンスの裏側を観たくて木に飛び乗った訳ではなく、ナイトメア能力者を探すために飛び乗っているのだが…………。


しかし、思っていたほど成果が出ていないのも事実。

ナイトメア能力者の気配を感じることが出来ないから見つけられていないのか、それとも他のナイトメア能力者が巧妙に気配を隠しているから見つけられないのか…………。


(というか、仮に他のナイトメア能力者と出会ったとして、素直に情報を教えてくれるのか?)


黒羽は木の上で腕を組み考える。

しかし、いくら考えても答えが出ない類の問題であると理解し、暫く考えた後一度この問題に蓋をすることを決める。

本来なら真人がオブザーバーであるかはっきりさせ、協力を仰ぐのが一番手っ取り早いのだが、それをした場合、今までの友情が壊れてしまうのではないかと考え、黒羽はその選択をすることが出来なかった。


(結局は当たってみるしかないか……砕けることになったとしても。)


黒羽はそう結論付け、木から降り、再度、ナイトメア能力者探しを続ける。

先程の工事現場に居なくても他の場所にいる可能性は高い。

むしろ、まだ一部しか探せていない。


黒羽は歩きながら、今いる地区を入念に探していく。

路地裏や先ほどと同様工事現場の場合はフェンスの裏側まで探りを入れる。


そうして、歩いていると『ゾワリ』と背筋が凍るような感覚に襲われた。


黒羽はその感覚に従い後ろを振り向くと二人組の男たちが現れる。

しかも、その二人は認識阻害の遺産を使っているのか、容姿に関して全く判別が出来ない。


ただ、腕に着けている岩に刺さった剣を抜く、全身甲冑が描かれた腕章だけが認識阻害を使っているにも関わらず、浮くように認識できた。


「こんにちは。こんな所でどうかしましたか?」


男の内、片割れが黒羽に親切そうに近寄る。


どうでもいい補足


自動人形(オートマトン)は基本的に二の腕が見えるような衣装をしており、更にそこに型式番号が書かれています。これは人か自動人形かを一目で分かるようにするためです。そのため自動人形(オートマトン)を利用する際は衣装を変える場合でも二の腕は見えるようにしなくてはいけません。



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