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身勝手な願いの結末は、幸せか不幸か  作者: 氷雫月
第二章 "望み"と"闇ギルド"
9/26

闇ギルド 前編


------------【喪腕のロスト】。

この二つ名を知らぬ者はモグリと言われるほど有名な冒険者だ。

僅か二週間でEからDランク冒険者となり、半年でBランク冒険者、二つ名持ちとなった。

年齢不詳。漆黒のローブを身に纏い、フードを目深に被った若い男。通り名から分かるように片腕、正確には左腕がない。

そのフードとマフラーで隠された顔を見た者はおらず、情報も殆どない。

彼にはいくつもの噂がある。

曰く、冒険者ギルドに登録する前、突っかかって来た大男を斬り殺した。

曰く、対象の懐に潜り込み暗殺をしている。

曰く、闇ギルドに所属している。

era•••••••••

代表的なものはこれらだろう。

誰も真実は知らない。ただの噂の域を超えないものだが、妙に現実味を帯びている話でもある。



======%======%======



生物が寝静まった深夜。丑三つ時。

彼は今、ヴァータス王国の王城の一室。

エリザベス王女殿下の私室にいた。


事の始まりは十時間前に遡る。

噂もあながち間違いではない。

特に闇ギルドに所属しているというのは、紛れもない事実だ。

彼には何としても叶えなければならない願いがあった。••••••犯罪者になっても叶えたい願いが。

闇ギルドに所属する方法は一つ。


現役構成員を殺し、身体の何処かにあるギルドマークの刺青を剥ぎ取り、ギルドマスターの元へ行く。


誰しもが抱くであろう疑問、ギルドマスターの居場所はどうやって知るのか。

その答えは簡単だ。構成員を殺し、刺青を持ち帰った後は、ただ待っていればいい。

刺青には生命探知の魔方陣が組み込まれており、持ち主が死ねば自動的に分かる仕組みだ。ギルドはそこから勝者の足取りを辿り、刺青を持っていればギルドの方から接触してくる。こんな仕掛けになっている。

ロストは正規ギルドに登録した後、目当ての闇ギルドの構成員を殺した。宿屋に入り、独りきりとなった男を背後から一突き。

呆気なかった。

男の腕にあった刺青を丁寧に剥がし、自分の住処に持ち帰った。


森の洞窟を少し改造し、住居として使っていた。

木で作られた、人一人が余裕で入れる器に雨水を溜めて魔法で温めるお風呂。

穴を開けた天井から太陽の日が射し込む寝室。場違いな柔らか寝具が置かれている。

部屋?はこの二つだけだが、十二分におかしな光景だ。

洞窟全体に結界が張られており、異物の侵入、及び埃が舞うのを抑えている。


刺青を奪ってから五日。

天井の穴から三日月が覗く夜。

洞窟では有り得ない柔らか高級寝具に身を任せていたロストは結界の外に気配を感じ、身体を起こした。

思ったよりも遅いお迎えだと呆れ顔になる。

結界を解いた。

同時に、バッキバキッ、バキッという轟音を立てて、洞窟が崩れた。この洞窟は彼の魔法によって崩壊を免れていただけだったのだ。

外に出ると、これまた場違いなメイド服に身を包んだ細身の女がいた。

焦げ茶色の髪はお団子状にまとめられている。同色の瞳からは生気が感じられず、青白い肌と相まって死者如き不気味さを醸し出してした。

女はロストに頭を下げた。

「マスターより案内を命じられました。NO.04、クープと申します」

"ナンバーゼロフォー"と片言混じりに言ったメイドは、ロストに「こちらへ」と促した。


シンプルな黒色のワンピースに白い前掛けを着けたメイドに従い、森を出た。

向かった先は、森から一番近い町の教会だった。長い間放置されていたのだろう。荒れた外観をしている。

「どうぞ」

メイドが両扉の右側を開ける。

ロストは扉を潜った。••••••教会内に人と魔力の気配を感じながら。

等間隔に並ぶ長椅子には埃が積もり、祭壇も劣化からか木の残骸とかしている。

中央まで歩みを進めたところで、

「君が新しいメンバーかい?」

若い男の声が教会に木霊した。

ロストは声のした方、奥から二番目の柱に目を向ける。

影から声の主が姿を現わした。声に違わず、二十代半ばの、神父だ。黒色の聖職者の服に身を包み、十字架を首から下げている。

「ええ」

ロストは懐から布に包まれた皮膚を取り出し、男に見せた。

「うむ」

男は二回ほど首を縦に動かし、満足気に笑った。

「初めまして、新しい同胞君。僕は------」

続く筈だった言葉は、

「ヴァータス王国中央教会最高司祭、ロバート・フォン・カトリック様、ですね」

口元に笑みを浮かべ、しかし平坦なロストの声によって遮られた。



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