闇ギルド 後編
言葉を遮られた神父、ロバートは、だが気分を害した様子は無い。彼のロストに向ける目は自分より下の人間を憐れみ、愛でるものだ。
「正解だ。しかし、間違いでもある」
ロストは無表情に彼を見いた。いや、観察していた。
ロバートは並びの良い歯をこれでもかと見せながら笑い、
「僕は司祭でもあるが、同時に------」
バッと大きく腕を広げ、
「闇ギルド『フェデス』のギルドマスターなのだからね!」
高らかに叫んだ。
周りに知らしめるように。自らに、言い聴かせるように。
闇ギルドと一括りに言っても、荒くれ者の集まりもあれば、メンバーの管理を徹底し暗殺商売を行うところもある。
しかし、そこは闇ギルド。全てに共通することがある。それは、犯罪集団であるということだ。
軽いもので、ギルドによる窃盗。
重いもので、人身売買や暗殺。
闇ギルドの数自体は世界的に統計をとっても、五十にとどかない。これは年々、取り締まりが厳しくなっているためだ。しかし、今生き残っている闇ギルドの多くは国でも簡単には手を出せない。歴史が古く、武力や権力、情報収集に長けたギルドが多いからだからだ。
闇ギルド『フェデス』。
古代語で"信仰"を意味する名の通り、過激派教徒集団としても有名な三百年以上の歴史を刻む宗教ギルドである。
ギルド幹部は教会の中枢に身を隠し、外が武力で中を、中が権力で外を守りあって成立している。
闇ギルド屈指の権力を有するフェデスだが、その弱点は明白だ。権力と武力、中と外、どちらかが倒れればドミノ倒しの如く、連鎖崩壊してしまう。
だが三百年。この体制のまま次世代に受け継いでいくことができている。その根本には、権力と武力以上に深い信仰心があるのだろう。
•••••••••ロバートがトップに立ってからは内部分裂がさらに進み、今外から攻められたら、確実に三百年の歴史に終止符を打つことになる。
「僕も君のことは知っているよ」
ロバート神父は、胡散臭い笑みを顔に貼り付け言った。
「【喪腕のロスト】。年齢、出身から容姿まで全てが謎に包まれたBランク冒険者。ソロだが依頼達成率は九割を超え、近い内にAランクに昇格するだろうと言われる凄腕。君みたいな実力ある若者がフェデスに来てくれて嬉しいよ」
二つ名から始まった知的アピールは、
(結局何も知らないのか)
と、ロストに内心呆れさせた。
ロバートは自己愛がとても強い。自分より優れた人間はいないなどと思っているのだろう。
自ら闇ギルドのギルドマスターだとあかしたり。トップシークレットにも関わらず、味方かもわからないロストに言ったり。大声で叫んだり。
所詮、一族の七光りでギルドマスターとなったボンボンに過ぎない。ただの自己愛を拗らせたナルシストだ。
「---------我がギルド、フェデスへようこそ。君を歓迎しよう」
ロストが思考している間にも、何やら話しをしていたらしい。
教会のあちらこちらに空いた穴から射し込む月明かりが、ロバートの焦げ茶色の髪に反射している。人並み以上に整った容姿もあり、普通に見れば美しい光景だ。
•••••••••ロバートの性格を知ってしまったロストには美しいと思えないものでもあるが。
それにしても、緩すぎる加入条件だ。何か裏でもあるのかとも考えたが、このギルドマスターを見る限りそうは思えない。ロストの考え過ぎか。
「早速だがロスト君」
ロバートが懐から数枚の紙を取り出した。
「この中から依頼を選んでくれ」
紙を受け取り、見る。
ロストが今現在欲しているのは、権力を有する者とのコネクトだ。願いを叶える為には必要不可欠なものでもある。
「------------ッ!?」
最後の一枚を見たとき、驚愕の余り、頭を鈍器で殴られたような衝撃がはしった。
洋紙に書かれていたのは"この世界"の言語で"依頼"と一言。
問題はその後に書かれていた文。この世界で見ることは無い筈の言葉。
それは間違いなく、"日本語"だった。
『わたくしの手伝いをしてくれるのなら、わたくしもあなたの手伝いをしましょう。
わたしに絶対忠誠を誓うのなら、わたしの全てをかけてあなたの願いを叶えましょう。
わたしの望みは、王になること』
そこからは即決だった。
ロバートにこの依頼を受けるとだけ言い、廃教会を出た。
そして、依頼文に書かれていた日本語による道案内に従い、王城へと向かったのだ。
そこで、出会った。
緑色の髪に同色の瞳をもつ王女に。




