20話:灰塵黒煙
久しぶりの投稿です。
行事やらレポートやら課題やらで更新する暇がありません。スイマセン;
放置することはあっても完結だけは必ずさせるので、読んでいる方が居られたら辛抱してお待ちいただけると嬉しいです。
足音がひとつに減ったことによる寂しさは拭えなかった。だからと言って止まっていいわけではなかった。自分にはやるべきことがあった。
あの死んだ村でツーフェとシュニと別れ、再び赤の地面を進んできた。その途中で町や村を見かけるが、そのどれもが死んでいて、彼女の心を重くさせていた。あの村ほどの奇怪な現象は起こってはいなかったが、それでも最低死んでいるのだ。一体誰が、という質問はこの世界では通用しないだろう。問うたところで何になる。答えを得られたところで何になる。
結局分けも分からないままに手がかりもないままに足の向くほうへ進む。
彼女は疲弊していた。
休むことなく歩んできたせいだろう。相当疲れが溜まっていた。
その遺跡を発見したのはその時だった。気が付くと辺りには円柱が大量に並べたてられていた。不規則に並ぶそれらは侵入者を拒む物ではなかった。何かを暗示しているのだろうか、それも分からない。
遺跡の中からは声がした。物質がどうとか、年代がどうとか言った言葉が聞こえてくる。遺跡の中を覗きこんでみると幾つかの光が辺りを漂っていた。その光源に月見里は見覚えがあった。
「夕闇坂君………?」
「あれ、どっかから俺の名を呼ぶ声が………。はーい、そうですけどー!」
姿形は見えずとも、声だけは返ってきた。
どうやら夕闇坂達は、室長の命令によりこの遺跡を調べているようだった。
光源が移動し、こちらに向かってくる。蛍の光のようにボヤァッとしたその優しさに、心が洗われる気分だった。
光源と一緒に遺跡の外に出てきたのはやはり夕闇坂だった。
「あれ、月見里さん。 どうしてここに?」
「砂漠の中を歩いていたらここに」
「そうなの!? あれ、確かあの砂漠ってまだ地図出来て無かったよね」
「そうだけど」
「よくここまでたどり着けたね………。あの砂漠で迷わなかったのが奇跡だよ。そう言えば月見里さん、あなたは確か『第二のキリカ』を探している途中じゃ?」
「そのために放浪していたの。 結局、手掛かりは見つからなかったけどね」
そうか、と紺の作業服で身をまとめている夕闇坂は溜息をついた。
所々が汚れていて、彼がどれだけ真面目に研究をしていたのかが分かる。
夕闇坂馨。彼は現実の世界ではある程度名の知られた考古学者だった。それがある日、室長によりこの世界にスカウトされてきたのだった。廻折研究室の中ではまともな人間の部類であり、戦いに仕えるような能力は所持していない。彼は研究専門の人間だった。
もちろん、彼は室長の命令によって無理矢理働かされているわけではない、彼も廻折研究室の存在意義である『知ること』に意識があるのだ。
つまり、この世界に魅了された者なのだ。
常に紺の作業服を身に纏い、真っ黒である短髪はいつも微妙に逆立っている。
そんな彼の能力は『闇照らす光』。
光を灯すだけのこれと言って使い道のない能力なのだ。言ってしまうと、懐中電灯を持つ必要が無くなると言った利点ぐらいしか思い当たらないのである。
そのせいか、月見里の知っている廻折研究室のメンバーの中では、比較的まともなように映るのだ。
この世界に居る時点でまともなはずなどないのだが。
「大変だったね。あれ、もしかしてすごく疲れてる? ちょうど俺も帰るところだし、廻折研究室第二支部に戻らない?」
そう言って夕闇坂は移動用魔方陣を展開させる。
彼のこの移動用魔方陣は、研究室への一方通行のものである。気軽にどこへでも飛べるような代物ではない。彼が巨大な力の持ち主であればそう出来たのかもしれないが、他と比較して彼は普通なのだ。ある場所にしか飛べない魔方陣しか展開させることはできないのだ。
「…………そうね。私も、室長に伝えたいことがあったわ」
「じゃ、一緒に行こうよ。 今日も疲れたなー」
彼の呑気な声に、彼女はまるで彼は現実世界と変わらず暮らせているように錯覚した。
爆炎。それは空気すらも燃やしつくし、絶望の臭いを振りまいていた。
灯花さんの使う赤色の純粋な炎の色とは違う。もっと特別な他の間違った………。
そう、絵具を織り交ぜて最後に出来上がる黒の色だった。決して黒煙が舞っているわけではない。
炎自体が黒なのだ。
ゴォウッ! と轟音が鳴り響き、すぐ隣の空気が燃やしつくされる。髪に引火しないよう回避し、赤い砂の地面を転がる。
その隣には先ほどまでは敵対していた身体の大きい男が立っていた。彼はすでに弓を番えて狙いを定めている。
「ふっ」
意志を込めた呼吸と共に矢が放たれる。音速にも勝る速度で放たれたそれも、敵は手を振りかざすだけで防ぎきる。炎の壁が出現し、矢が焦がされる。
「あらあら………。あなた方の愛はその程度のものなのですか?」
「愛、愛って! あんた何なのよ!」
「私は『母』です。 『母』が愛を注ぐのは当然でしょう?」
「………、そうとも限らないわよっ!」
叫びと共に怜那は疾駆する。能力を半分以上解放し、常人では見切れないほどの速さに達した怜那はその速度と共に刀を振るう。
一刀両断。それを実行しようと上段から構えた刀を上から下へと落としたのだ。
が、しかし。
「確かに速い、ですが。 それだけなのでしょう? 愛心家族のビスレィはもっとすごくてよ」
紙一重で刀をかわした女は、怜那に向かって手を掲げる。
危険だ、と脳が判定する前に怜那自身の身体は後ろへ飛びのいていて、視界には黒々と燃えさかる火焔のみが映し出された。
敵は攻撃力だけでなく、回避にも長けている事が分かった。が、それは嬉しくない情報だ。
まるでダンスを踊るかのように軽やかなステップを踏んだ彼女に対し、ある種の恐怖を抱いていた。
先ほどの愛に関する話からも分かるように、彼女は純粋に愛をぶつけているだけなのかもしれない。
純粋に歪んでいる彼女。私の攻撃を回避する際も瞼一つ動かさなかった彼女は純粋に歪んでいるのだろう。
これが、暴力以外の恐怖。
異常な者に対する恐怖。
「なんなのよ……。あいつっ!」
手が震える。刀を握り直す事も出来ない。
後ろを振り向くが、いつもの顔は無い。援護を任せろと意気込む瞳の色が赤の彼がいない。
それがこんなにも私を心細くさせるのか。今までは知らず知らずのうちに頼ってしまっていたのか。
戦闘においても、精神的余裕においても辛い。
彼がいないだけでこんなにも、辛い。
ピクリ、と遠くに見える黒ドレスの彼女が何かに反応する素振りを見せた。
「なにか、同じような臭いがしますわね。私と同じ、臭いが」
首をぐるりと回し、辺りを再度確認する彼女。しかし、彼女の目には映らずとも怜那の目にはしっかりと映っていた。怜那にとってすごく頼りになる仲間が、そこにはいた。
「なーんかいやな臭いがするよね。でもこれって私ととっても似てるよね、でもさー」
ドオォン! と黒ドレスの女性が爆心地となり、辺り一面に熱風が吹き荒れた。
「ちょっと華麗さが足りないかな? そのドレスは良いと思うんだけどねぇ」
にか、と灯花さんは笑って顔の横でVサインを出した。
「灯花さん!」
「やっほー、れーちゃん。ずいぶん時間がかかってるね。ってあれ? れいやんの姿が見当たらないんだけど……?」
「話しは後です、灯花さん後ろ!」
爆音が鳴り響き、視界から灯花さんの姿が消える。変わって黒ドレスの女性が現れ、手をかざす。
こちらに向かって炎弾が飛んでくる。何もかもを飲み込むような黒点が迫ってくる。
「早急に避けろ。あれは危険だ」
眼帯の男が炎弾に矢を放つ。矢は粉々に吹き飛び、その危険さを身をもって知らせてくれる。
砂に足をとられながらも回避し、敵を視界に入れる。そこには対峙する二人の女性の姿があった。
「ふうん、あんたも燃やす系?」
「そうですわね。色、効果は違いましても燃やす系ではありますわね」
「ところであんた、どこの人?」
「質問ばかりですわね。まぁ名乗らせていただきますわ」
黒のドレスの端を掴み、少し持ち上げて見せるその女性はまるで貴婦人だった。
「私は愛心家族の『母』であるフォイアー・インハイト。能力名『黒炎』。どうかよろしくお願いいたします。とは言っても」
────────灰になるあなた達には記憶する必要もないのでしょうけども。




