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見た目は超絶美少女(中身は俺)。女装コスプレでジョブを扱う探索者、クオリティを限界突破させて最強へ  作者: 折若ちい


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第1話 すべてを捨てて、俺は美少女(?)になる

「えー、テスト、テスト。画面の向こうのみなさん、マイクの音量は大丈夫ですか? よし、ちゃんと波形は振れてるな」


配信機材のモニターを確認し、俺――御子柴みこしば あずさは、重い溜息とともに大きく息を吐き出した。


手元のスマートフォンに表示されているのは、現在最大手の配信サイト『カクヨムライブ』の配信管理画面。配信開始ボタンを押してから、すでに三十秒が経過している。


同接数は――現在、わずか1人。

それも、自分が接続確認のためにスマホで開いているテスト画面のカウントかもしれない。


当然だ。画面の真ん中に鎮座しているのは、どこにでもいる冴えない男なのだから。


改めて画面に映る自分の容姿を確認する。

今年で二十歳になる俺の見た目は、探索者としてはあまりに頼りないものだった。

骨格は細身で、肩幅も狭い。男にしては線が細く、肌も無駄に白い。

髪はボサボサで寝癖がついているが、質自体は細くて柔らかい黒髪だ。

少し切れ上がった二重まぶたの瞳や、薄い唇。パーツだけを見れば「整っている」と言えなくもないが、手入れを完全に放棄しているせいで、全体から漂うのは「薄汚い野良犬」のような、うだつの上がらない万年Dランク探索者の哀愁だった。

着ているのはヨレヨレの、首元が伸びきった白Tシャツ。それが余計に俺の貧相さを際立たせている。


画面の端にあるチャット欄に、ぽつり、と最初のコメントが書き込まれる。


『ん? 誰だこの男』


どうやら本当に迷い込んだ視聴者が1人いたらしい。同接数が「2」になった。


「あー、そこの見にきてくれたお兄さん、ちょっと待ってほしい。今から帰るには少し早すぎる。見ての通り、俺はどこにでもいるただの男だ。だけど、これから始めるこの配信には、一つだけ他の探索者にはない『重大な秘密』がある」


視聴者が、ぽつりともう一行、皮肉めいたコメントを打ち込んできた。


『重大な秘密ってなんだよ。男の配信なんて需要ないぞ』


同接数は現在「3」になった。


「いや、需要があるかないかは今から俺が決める。……俺が持っている固有スキルに関することだ」


俺はデスクの下から、一冊の古びた、しかしどこか禍々しいオーラを放つ紺色の冊子を取り出し、カメラの前に掲げた。

探索者が特定の条件を満たしたときにのみ獲得できる、ジョブの解放書。俺がこれを手に入れたのは、つい昨日のことだ。


「俺が覚醒した固有スキルの名前は『コスプレ・ジョブ』。特定の衣装を着ることで、その格好に応じた戦闘ジョブの能力を扱うことができる能力だ。……ただし」


俺は一度言葉を切り、喉の奥に溜まった気まずさを飲み込んだ。

ここからが、俺の人生の分岐点であり、最大の恥辱の始まりだ。


「……ただし、この能力で扱えるのは『女性限定のジョブ』だけなんだ。つまり、俺が戦闘スタイルを得るためには、男の身でありながら、絶対に女装をしなきゃいけない」


静寂。

カクヨムライブのチャット欄が、一瞬だけピタリと止まった。

そして数秒後。


『は?????』

『待って、なんて言った今?』

『男が女装してダンジョンに潜るの? 狂ってるだろww』


同接数は、さらに2人増えて「5」になった。これが今の俺の限界値だ。


「笑いたければ笑ってくれ。俺だって昨日は一日中、自室のベッドの上で頭を抱えてのたうち回った。なんで俺が、こんなひょろっとした男が、よりによって女装なんてしなきゃいけないんだって、神様を呪ったさ。だけどな」


俺はモニターの奥にいる5人のリスナーたちに向けて、真剣な眼差しを向けた。


「俺は、探索者として全く才能がなかった。剣を振らせれば重さに振り回され、魔法の適性値はほぼゼロ。このままじゃ、ダンジョンでスライムにすら勝てずに、そのうち無様に野垂れ死ぬのが関の山だった。だから、俺にはこれしかないんだ。プライドも、恥も、男としての尊厳も、全部捨ててでも――俺はこの力で成り上がってやる」


『お、おう……なんか熱量は伝わってきた』

『でも女装だろ? シュールすぎて草』


「見たいだろ? よし、それじゃあお披露目だ。あ、ちなみに、このスキルにはもう一つ重要なルールがある。――それは、女装の『クオリティ』が上がれば上がるほど、スキルの威力と俺自身のステータスが爆発的に上昇するっていう仕様だ」


『え、クオリティ依存なの!?』


「その通り。だから、俺はこれから命がけでメイクを覚え、衣装の完成度を高めていかなきゃならない。だけど……なにぶん俺は今日が人生初の女装だ。メイクの道具も、衣装も、まだ最低限のものしか用意できてない」


俺はカメラの画角を少し引き、部屋の隅に置かれたスタンドハンガーを映し出した。

そこに掛かっているのは、大手通販サイトで数千円で購入した、見るからに生地の薄い、安っぽい『見習い巫女服』だった。

ポリエステル特有の変な光沢があり、サイズも男性の俺が着るにはいささか窮屈そうだ。


『おいおい、ドンキで売ってそうなペラペラの巫女服じゃねえか』


「今からやるんだよ。みんな、ちょっと待っててくれ。配信は切らないから、そのまま見ていてくれ」


俺は机の上に、これまたドラッグストアのワゴンセールで買ってきた、初心者用のメイクセットを並べた。

使い方は、昨晩YouTubeの美容系動画を見て付け焼き刃で予習しただけだ。


「よし、まずは……このファンデーションっていうのを顔に塗る。……合ってるよな? なんか白すぎないか、これ?」


慣れない手つきでパフを肌に叩き込む。

元々白い肌の上に、厚塗りの白粉おしろいを乗せていく作業だ。

カメラの向こうの数少ないリスナーからは、すぐにダメ出しが飛んできた。


『おい梓、塗りすぎだ! 首との色の差がやばいぞ!』


「え、マジで? これくらいか? くそっ、加減がわからん……!」


焦りながらも、次にアイブロウペンシルを手に取る。

俺の眉はもともと薄いのだが、欲張って「女性らしく」描こうとした結果、手が震えて不格好な太い一本線になってしまった。


『眉毛が海苔になってるwww』


同接数は「5」のまま動かない。だが、この5人が熱心にツッコミを入れてくれている。


俺は顔を真っ赤にしながらも、必死にメイクを続けた。

最後に、ドラッグストアで買った安いリップを唇に塗り、いよいよウィッグに手を伸ばした。

漆黒の、少し艶のあるストレートロングのウィッグ。それを不器用に頭に被るが、自毛をまとめるネットから短い髪がはみ出してしまう。


「くそ、自毛をまとめるネットの使い方が甘かったか。……でも、もう行くしかない。衣装に着替えてくる!」


俺はカメラの死角に入り、大急ぎでTシャツを脱ぎ捨てて、ペラペラの巫女服に袖を通した。

骨格が細いおかげで着ることはできたが、やはりどこか「着られている」感が否めない。


「よし、着替えたぞ……!」


再びカメラの前に立った俺の姿に、画面の向こうのリスナーたちは、一斉にツッコミを寄越してきた。


『うわああああああ!』

『クオリティ低すぎてステータスが心配になるレベルwww』

『顔が完全に不機嫌な男なのに、服だけ巫女さんなのシュールすぎる』

『でも、遠目から見たら……いや、やっぱり男だな』


俺は部屋に設置された姿見の鏡を見た。

そこに映っていたのは、素材をすべて無駄にした「残念な何か」だった。


中性的な顔立ちは厚塗りのファンデーションで能面のようになり、細い眉は不自然な太眉に化けている。

そして、不自然に浮き上がったロングヘアのウィッグ。

元の素材は悪くないはずなのに、「無理をして女装をした、哀れな男」の滑稽さが際立っていた。


その瞬間、俺の脳内に、無機質なシステム音声が響き渡った。


【固有スキル『コスプレ・ジョブ』発動条件を確認】

【着用衣装:見習い巫女服(低品質)】

【メイク完成度:極めて低い(12点 / 100点)】

【総合女装クオリティ:Eランク(最低値)】

【ステータス補正:全能力値 +1.2倍】

【ジョブスキル『破邪の矢(微弱)』を解放しました】


「……プラス、1.2倍か。やっぱりクオリティが低いと、バフの恩恵もこれっぽっちなんだな」


俺は思わず苦笑いを漏らした。

普通の探索者がジョブを持てば、最低でも能力値は数倍になる。それに比べれば、1.2倍なんて雀の涙のようなものだ。


だが、今の俺にとっては、その1.2倍すらも喉から手が出るほど欲しかった力だ。

それに、まだスキルは『微弱』。クオリティを上げれば、この数値はもっと跳ね上がる。その可能性を、俺は確かに感じ取っていた。


「みんな、これが今の俺の限界だ。クオリティは最低ランク、スキル威力もゴミ同然。だけどな、俺はこれで、今から隣のEランクダンジョン『枯れ井戸の迷宮』に潜る」


俺は机の上に置いていた、初心者用の安物の弓矢を手に取った。これが、見習い巫女ジョブの基本武器だ。


『え、マジで行くの?』

『ある意味、歴史的な瞬間に立ち会ってる気がする』

『同接5人だけど頑張れよwww』


「見ててくれ。俺の女装コスプレロードは、まだ始まったばかりだ。ここからどうやって俺が最強の美少女(?)に成り上がるか、その最初の瞬間を、見届けてほしい」


俺は配信用の小型カメラ(ドローン型)を起動し、自分の周囲を浮遊させた。

これで、ダンジョン内でもリアルタイムで俺の戦いと、そして無様な女装姿が世界中に配信されることになる。


「それじゃあ、行ってくる」


玄関のドアを開け、俺は外の空気を吸い込んだ。

五月の爽やかな風が、巫女服の薄い生地を通して肌を刺す。ひらひらと揺れる袴の裾に違和感を覚えながら、俺は一歩、また一歩と、ダンジョンへと続く道を歩き出した。


同接数は相変わらず「5」のままだ。

だが、これが俺の新しい人生の、最高に恥ずかしくて、最高に熱い幕開けだった。

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