第74話 レオナルドとアレサ
「アレサ。メル=シュナイダー博士を殺したんだな。私もイザベッラを殺したが、死に様が酷すぎて何とも言えない」
「人間は基本的に自分の事しか考えないわ。でも、あの2人はあまりに自己中心的に過ぎた。私の弟であるヴィクトルと並ぶ程に酷いわよ」
アドルフ達の奇襲を阻止した夜、2人はあてがわれたレオナルドの部屋でワインを飲みながら語り合う。戦死した神兵が300名近く出ている上に、100名の投降者が出ている。更にシュナイダー博士も倒せた事で、神兵計画自体も潰す事が出来た。ドラーム帝国にとっては、ミハイルの暗殺の失敗も重なっている。踏んだり蹴ったりと言って良い。
「これでイダルデ半島への道は開けた。後は、イザベッラを支持していた貴族の生き残りを抹殺する。イダルデの統治に彼らが邪魔だからね。早速、皇帝陛下に意見具申をしないと」
「レオ君、大丈夫?」
「あの時、モニカが泣きながら死んでいった時。彼女が狩猟犬に弄ばれるのを笑っていた連中全てを始末する。貴族だけじゃない、見物していた猟師や侍女、護衛の兵士達もな。まだ終わらないんだ、私の復讐劇は」
レオナルドの瞳は暗く濁っていた。イザベッラを殺した事で心が晴れるどころか、思考が復讐心に囚われている。長い間、心の中に溜め込んだ物が、彼女の死で噴き出しつつあった。それに気付いたアレサは、彼に近付くと優しく抱き留める。
「レオ君、少し落ち着きましょう? 貴方はずっと走り続けていた。モニカさんの仇を討つ為に。今は、ゆっくりと休んだ方が良いわ」
「しかし、俺はやらねばならない。モニカを弄んだ奴等を‥‥」
「黙りなさい! いつまでも過去に囚われるつもり? 貴方は感情的になり過ぎているわ。すぎた復讐心は、更なる悲劇をもたらすだけよ」
アレサは、必死にレオナルドを説得する。自分の知っている彼が、どこかに行ってしまうのでは? そんな恐怖を彼女が感じていたからだ。
「‥‥アレサ、すまない。取り乱したようだ。イザベッラを殺しても、心が全く晴れなかった。積年の怨みを抱いた相手なのにな」
「気持ちは分かるわ。私も自分の出生の秘密を知った時に、バロル大公とお母様を死ぬ程恨んだわよ。いつか殺してやると思いもした。でもね、お父様。先代ノルディン国王が死の間際、私におっしゃったわ。『あのような奴等を相手にするな。アレサ、お前の信じた道を進むが良い。そして、レオナルドだったか? 共に歩んで幸せとなれ。それが奴等への最高の復讐になる。アレサ、お前の行く末をあの世で見守ってるぞ!』ってね」
アレサの言葉に、ただただレオナルドは絶句するしかない。先代ノルディン国王が実子ではない彼女を愛していた事に。本来なら憎むべき相手なのに何故? 彼が感じた疑問に気付いたのか、アレサは苦笑しながら答える。
「私とお父様は除け者扱いだったのよ。バロル大公も宰相もお母様もヴィクトルだけを可愛がっていたから。ところが、病弱な上に器量もあれでしょう? さらに、お母様も亡くなったのが痛かったわね。国難の時期に病弱な国王など危ういって、軍部や国民から不安の声が上がったの。結果、私は度重なる胃痛に苦しみながらも政務を行う羽目になった。いつ、ウラディミルやエルザが暗殺しに来るかって、本当に怖かったんだからね!!」
重なっているアレサの体が激しく震えていた。魔王と腹ペコ死神は、他国の為政者にとって恐怖の象徴なのだろうと改めて思う。そう考えているとアレサが真面目な顔してレオナルドを見つめていた。
「レオ君、命令よ。今から私に逆らわないでくれるかしら?」
アレサは唇を奪い、レオナルドをベッドへ押し倒す。全く抵抗も出来な彼に慈愛の笑みを浮かべ、アレサは髪を右手で撫でる。
「私を抱いて、レオ君。貴方の苦しみを少しでも解消出来れば良い。私も貴方の妻になるのだから、重荷を一緒に背負って行くわ。あと2人も妻がいるんですもの。私が1番だって、証明しないと」
「ありがとう、アレサ。これからもよろしく頼む」
お互いに軍服等を脱ぎ、ベッド上で2人は激しく求め、愛し合う。話をドア越しに聞いていた面々は、事が始まると慌てて離れ、会議室へと避難する。エルザ、サーラとマルクの3人は、ホッとため息をつく。
「‥‥正直悔しいけど、アレサの方が3年近く付き合いが長い。私では、レオの復讐心を抑える事は出来なかったと思う」
「それは僕も同じ。聞けば聞く程、モニカさんが可哀想だよ。うーーん、僕も悔しいな。レオナルド様と付き合って、まだ何ヵ月も経っていないからね」
「姫様、初恋が実りましたな。私は嬉しいですぞ。しかし、レオナルド殿は吹っ切れましたかな? お2人もいますし、大丈夫とは思いますが」
長年の宿願がなった後だ。このまま、燃え尽きて気力を失う可能性も無きにしもあらずだ。心配するマルクに対し、サーラは親指を立てて応じる。
「そこは僕達に任せて。しっかり、フォローするからさ。今は、アレサに任せるけどね」
「私も頑張る。それにしても、アレサって意外と大胆で情熱的。聞こえてくる声が‥‥」
「「何部屋も離れてるのに何で分かる? というか、聞き耳を立てたら駄目!!」」
「ええっ、良い所なのに」
エルザは2人によって、強制的に自分の部屋へと戻される。こうして、ノルディン継承戦争と呼ばれた戦争において、最後の戦闘が行われた夜は終わった。




