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左遷からの成り上がり  作者: 流星明
第5章 諸悪の根源の死とドラーム帝国との停戦
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第72話 イザベッラの最期

わがままトラブルメーカーの最期です。因果は巡り、自分に返ってきました。

「‥‥で、何故イザベッラ姫を同行しての作戦行動をした? 正直、失敗する絵しか想像出来んのだが」


本営のあるベルン海軍基地の会議室にて、ウラディミルはナーシャに尋問を行っていた。同席しているのは、レオナルドとアレクセイ皇子、エルザらを含めて10人ばかりである。


「イザベッラが強く望みましたので。我々、下の者は命令に従うしかありませんから。どんな阿呆でも1国の姫様ですしね」


投げやり気味に話すナーシャが呼び捨てにしている時点で、イザベッラに対して敬意の欠片も無いのが分かる。ナーシャの境遇に同情しつつ、ウラディミルは尋問を続けた。


「そのわりには、随分手荒な真似をしたと聞く。イザベッラの顔を殴った後、ライフルで頭に向かってフルスイングしたらしいな。話を聞いて私も笑ってしまったよ。以前、彼の女を取り逃がした事がある。悪運は強いようだが、最早これまでだな」


バレット海の客船沈没事故は、ウラディミルの仕掛けた謀略だ。彼女の側近や侍女等を始末する事には成功したが、肝心のイザベッラを取り逃がしている。標的を逃した事をウラディミルは、かなり悔しがっていた。今度こそ確実に仕留めると意気込んでいたが、味方に見限られて身柄を引き渡されるとは思ってもみなかった。


「溜まりに貯まった不満が爆発しまして、つい。レノスキー少将閣下。私の姉であるシュナイダー博士は、フォンターナ中佐の種を私とイザベッラに宿すよう命令しました。イダルデ王族の血を受け継ぐ神兵を作りたかったみたいですが」


「あの女、何も変わってない。優秀な男と女を親にして、薬物投与で神兵を作り上げる。優性学の狂信者と言ってもいい。でも、ナーシャはともかくイザベッラは優秀?」


ナーシャの話を聞き、エルザは疑問に思う。彼女の知るメルは、馬鹿と無能を容赦無く切り捨てる人物だからだ。


「エルザ。イザベッラは‥‥」


ナーシャが何かを言う前に、勢いよくドアが開かれた。全員が見れば、拘束を解かれたイザベッラが部屋に入って来る。顔には包帯が巻かれ、傷口から血が赤くにじんでいた。それでも目の鋭さは衰えておらず、歴戦のウラディミルとエルザも少し震えてい程の眼光を見せた。数名の兵士が後からやって来て、慌てて彼女を羽交い締めにする。


「こらっ、大人しくしろ!トイレと言うから手錠を外したら、逃げやがって」


「ちょっと、離しなさいよ。私はレオに用が‥‥、いたあああ!!」


信じられない力で兵士達を振りほどき、レオナルドに向かって突進するイザベッラ。どうやら、周囲の事が全く見えていないようだ。その執着ぶりに皆が怯えるも、彼女は気にもせずレオナルドに迫る。


「私と一緒にイダルデへ帰りましょう。そして、結婚して子供を育てるの。最初は男の子が良いわよね」


「‥‥ひいっ!」


「ねえ、何で黙ってるのよ。レオ、話を聞いてる? ち、ちょっと。貴女、何をするのよ」


レオナルドに抱きついたイザベッラを、エルザがすぐに引き剥がす。その顔には呆れと蔑みの表情が浮かんでいた。


「貴女の想いは、所詮その程度なのね。彼はレオじゃない。本来は彼を囮にして、貴女達を撃滅するつもりだったのに。ねえ、オーブルチェフ少佐?」


「‥‥マジで勘弁してくれ。その女はやばすぎる。迫られた時は、本当に怖かったんだからな! 絶対、ここで始末した方がいい」


レオナルドの姿がかき消え、代わりにレナニートが現れる。ナーシャとイザベッラは驚くも、他の人々は落ち着いている。作戦と魔法について、事前に知らされていたからだ。


「魔法使いたるリース嬢の力だ。変化の術だったかな? 陛下も驚いていたよ。さて、イザベッラ姫。君の処分、どうしたものかな?」


「わ、私を殺す気なの?私を殺したら、イダルデの国民がロマルク帝国に対し、悪感情を抱くわよ」


「レノスキー閣下。オーブルチェフ少佐の言う通り、ここで始末すべきでしょう。イダルデの事は心配ありません。ユリアの報告では、イダルデ解放軍は既に崩壊しました。イダルデ国民は貴族を殺戮し、共和政体に移行したようです。イザベッラ姫は無用の長物と化し、憎悪の対象になっております」


そう言って、部屋にレオナルドが入って来る。イザベッラを見る目は、極めて冷淡で鋭い物であった。凄まじい殺気をまとう彼に、さすがのイザベッラも怯む。


「う、嘘でしょう。解放軍が無くなったなんて。ねえ、レオ。嘘だと言ってよ!」


「ふむ、ならば我らで片付けても誰からも文句は無い訳だな。フォンターナ中佐、君が止めを?」


「ええ、この日を待ちわびてましたから。モニカの敵を討つこの時を。イザベッラ、何か言い残す事はあるか?」


レオナルドは、腰のホルスターから拳銃を取り出すと、イザベッラに銃口を向けた。レオナルドが本気であると知った彼女は慌てて命ごいをする。


「モニカの事は謝るわ! 私、2度と貴方の前には現れない。何だったら、王家の資産も全部差し出す。だから、ね? 命だけは助けて!」


「はっ、自分の命が危ないなら命ごいですか。王族の誇りも無いようね。イザベッラ姫様、残念なお知らせがあります。貴女は子供を産めない体みたいですよ。姉の検査で分かりました。愛しのフォンターナ中佐の子は、どんなに頑張っても産めなかったんです。冥土の土産に教えておきますね」


「そ、そんな。貴女達は私をだましたの? 嘘、嘘よおお」


衝撃の事実を知り、イザベッラは茫然自失。そんな彼女を見て、ナーシャは溜飲を下げた。あまりにひどい扱いに、レオナルド以外は憐れみを覚える。彼女にも罪は大いにあるが、最も罪深いのは彼女をこのように育てたイダルデ国王夫妻であろう。だが、そんな彼女を見ても感傷を覚えず、拳銃の撃鉄を引く男が1人いる。


「そろそろ、良いか? モニカを始め、君に殺された者達が向こうで待っているだろう。手荒い歓迎を受けるだろうが、覚悟するんだな」


「や、止めて! 殺さないでええ。私はレオの事をす‥‥」


イザベッラの叫びを意に介さず、眉間に銃弾を撃ち込むレオナルド。至近から銃撃を受けた彼女の体は、後方に吹き飛び倒れた。顔に巻かれた包帯に、新たな血が染み込んでいく。誰も何も言えず、張り詰めた静寂の中でレオナルドは1人つぶやいた。


「‥‥終わったか。あの日から、10年近くかかったな。モニカ、ようやく敵が討てたぞ」












イザベッラの死に際して


レオナルド「‥‥‥‥」


エルザ「すごい執念だった。違う方向に力を向ければ、国を保てたはずなのに」


サーラ「僕も似た所があるから、気を付けないと。周りにまで迷惑をかけないようにしよう」


レナニート「こ、怖かった。こんなに怖かったのは、あの時のアレサ以来だぜ。しかし、最後には何もかも失うなんてな。少し同情する」


アレサ「為政者としては最低でした。私も身内にいるので分かりますが、周りが甘やかしすぎたのでしょうね。ある意味、彼女も被害者なのかも知れません」


ウラディミル「‥‥やっと決着か。なかなか手強い女だった。悪運と生命力だけで、私の策を脱する人間など初めてだからな。これでイダルデ攻略に1歩前進だな」


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