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前幕

なろうの連載形式のテストがてら、過去に作った物を投下する次第。

夕闇の広場、その中央に道化が一人立っている。

道化は笑った顔の面をつけ、その左右に怒り顔の面と泣き顔の面をぶら下げている。

「ようこそ!ようこそ!」

「ようこそおいでくださいました!」


道化は大仰に挨拶を始め、続いて演目の紹介を始めた


「本日の見世物はある3人の男達の物語にございます。」

道化は演技がかった仕草でポン、と手品の要領で額縁を取り出した。

額縁には笑った顔、怒った顔、泣いた顔の人物が描かれている。

「3人の男達の出身地は今はもう滅んだ、とある小さな村でございました。」

「3人の男達はその村で少々変わり者扱いされておりました。」

「3人の男達はそれぞれ『笑い男』、『怒り男』、『泣き男』とあだ名がついておりました。」

「3人の男達はあだ名の通り、笑って、怒って、泣いて、いるように見えました。」


「笑い男は楽しい時も怒られている時もニコニコと」

「怒り男は仕事中はずっと、そして恋人と一緒にいるときもブスっと」

「泣き男は悲しい時もうれしい時も涙を流し」


「そんな有様でしたので、それぞれ笑い男、怒り男、泣き男とあだ名がついたのです。」




額縁の絵を入れ替える。絵は3人の男達とその周りを囲んだ人々。


「3人とも少々変わってはおりましたがそれは少々感情が偏り易い程度で、それ以外は極普通の人間でありました。」

「村の人々も3人の事をよく知っていたので特にこれといった問題はおきませんでした。」




額縁の絵を入れ替える。絵は空爆、飛行機は白く爆弾は黒い。そして銃を手に持った兵隊達


道化はなぜか一拍の間を置く。

「…戦争がありました。」

「ドンドンパチパチ、皆が皆、戦争に巻き込まれて行ったのでございます。」

「3人の男達の村も戦火から逃れられなかったのでございます。」


「ある日、一機の飛行機が山の向こうから村の上空へと飛来してきたのでございます。」

「その腹に死を満載して。」




額縁の絵を入れ替える。絵は火に焼かれる村。


「ゴー…と重い音が山の向こうから響いてきました。」

「3人の男を含む村人達は皆その不気味な重低音に空を見上げました。」

「恐ろしい不気味な音は山を越えて、村に禍々しい影を落としました。」

「村人の視線を一点に集めたそれは、雲よりもなお白い飛行機でした。」

「ソレはどこか現実味の無いまま、村の上空をひどくゆっくりと飛んで行きました。」

「ソレはそのまま村の上空を飛び去って行くように見えましたが、ふっと白い機体に黒い点が一つ出来」

「やがてその黒い点は大きくなり白い機体を飲み込み、その黒い点だった物は村をめがけて急速に落下してきました。」


「ドスン。」


「そんな感じの重い音が村の中心でした後、村は地獄絵図の様相となったのでございます。」


------


額縁の絵を入れ替える。絵は3人の男の出兵姿。その周りに3人の男達の個別に起こった出来事が描かれている。

笑い男は葬列、怒り男は出兵時の恋人との別れと約束、泣き男は死を目の当たりにした絶望。


「村に落ちた爆弾は。平穏だった村の有様を全て変えてしまいました。」

「そして3人の男たちもその変化からは逃れることができなかったのでございます。」


「3人の男たちの笑い男と泣き男の親が爆弾が原因で死にました。」

「村での合同葬儀の日、笑い男は涙も流さずにうっすらと笑っていました。」

「泣き男は誰よりも多くの涙を流していました。」


「笑い男の様子に、怒り男は心配から一つ質問をしました。」

『皆が皆、死を悼み涙を流しているというのに、何故君は笑っているんだ?』


「笑い男はこう答えました。」

『涙が出ないんだ。悲しいはずなのに、涙が出ないんだ。』


「怒り男は笑い男のその様子にかける言葉を失ってしまいました。」



「合同葬儀の日から数ヶ月が過ぎました。」


「戦争はますます激しさを増し、村に届く物資にもいくらかその影響が出るようになった頃。」

「普段、村に何の益ももたらさない政府から、数人の役人が一通の赤い書類を持って村にやってきました。」


「それは兵の招集礼状でした。」

「戦争による人手不足はいよいよ極まり、辺鄙な位置にあった村にもとうとう赤紙が届いたのでございます。」

「召集対象には3人の男たちも入っていました。」


「3人の男達のうち、笑い男と怒り男はすぐさま召集に応じましたが、泣き男だけはいつまでたっても集合場所に現れません。」

「笑い男と怒り男は泣き男の家へと様子を見に行きました。」

「泣き男の家にはまるで人が居る気配がありません。試しに玄関のドアを開けてみると鍵はかかっていませんでした。」

「笑い男と怒り男は泣き男を捜して家に入っていきます。家の中には相変わらず動くものの気配はありません。」

「逃げたのか?と二人に疑念が湧き始めたころに、しかして泣き男はみつかりました。」

「泣き男の様子は変わり果てていました。それこそ、生きているのかが疑わしいほどにでした。」

「そして泣き男はもう泣いていませんでした。恐ろしいまでにその顔からは感情というものがすっぽりと抜け落ちていたのです。」

「その日は役人に事情を話し、ひとまず泣き男の召集に関しては待ってもらうことにしました。」


「役人が来て一週間が過ぎました。」

「その日は出立の日でした。」


「出兵する男衆の中にはあの笑い男、怒り男、そしてどうにか立ち直った泣き男の姿がありました。」

「泣き男からは相変わらず表情というものがすっぽりと抜け落ちておりました。」


「出兵する者の中には家族や親しい友人や恋人との別れに涙している者が多くありました。」

「ですが、同様に別れを惜しむことすら出来ない者達もいました。」

「あの、黒い爆弾で家族を失った者もそれなりに多かったのです。」

「それゆえに、あの、白い飛行機への恨みもあってか兵の招集はスムーズに行われたのであります。」

「そして、笑い男と泣き男はその恨み持つ人々に区分される者達でした。」


「家族の居ない、一抹の寂しさからか、笑い男が泣き男に話しかけます。」

『いつもの君ならここで怖さに泣いて震えていそうなものだけど、こないだからの君は妙に落ち着いているね?』

『まるで怒り男のぶっちょう面がうつったみたいだ。』


「その言葉に対し、泣き男が言葉を返します。」

『そんないいものじゃないさ、ただ、どんな感情をすればいいのかもうわからなくなっているだけだよ。』

『こないだからの僕は、もうどうにも心がまったく動いてくれなくなっているみたいなんだよ。』


「その言葉には流石の笑い男もその顔から笑顔が消え、言葉を濁してしまいました。」

『はは…そんなことは流石にないだろうさ。』

『…そういえば、ぶっちょう面で思い出したけど怒り男はどこにいるんだ?姿が見えないけども。』


「そのはぐらかしの言葉に泣き男はやはり無表情で言葉を返します。」

『あいつなら、ほら、あそこに居るよ。』

『あいつには恋人がいるからね、最後になるかもしれない別れの最中さ。』


「その言葉に笑い男が視線を動かしました。」

「その視線の先には怒り男がその想い人と手を取りあい、何か言の葉を交わしている光景がありました。」


「その時、怒り男の顔がほんのりと、笑っていたように思います。」


『あいつだけは死なせたくないな。』


「笑い男が無意識にぼそりと呟いた言葉に泣き男も同意の頷きを返しました。」

『僕らにはもうこの村で迎えてくれる人は居ないけれど、あいつには居る。』

『うん、死なせたくないな。』


「その時、泣き男の顔にうっすらと感情が戻っていたように思います。」


「そして3人の男達を含む、男衆は村を離れたのです。」

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