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14. 白い髪と黒い毛並み

《運搬物の総数が600に達しました。職業レベルが8に上がりました》

《ユニット数が64から128に増加しました》

「やった、レベルアップだ!」

《運搬物の総数が700に達しました。職業レベルが9に上がりました》

《ユニット数が128から256に増加しました》

《スキル<護衛戦士>が開放されました》

「オ、連続じゃン!」


今ではスキルとなったプトラも、ミロ同様に声を聞く。


《運搬物の総数が800に達しました。職業レベルが10に上がりました》

《ユニット数が256から512に増加しました》

「さ、三連続だ!」

「レベルアップ祭りダ!」

「りだ!」


飛び上がり喜ぶ一人と一匹。と、もう一人。


「たくさん収納したのに全然レベルアップしないと思ったら、移動距離が足りなかったんだね」

「それで一気に三連続ってことカ」

「わ、<荷物リスト>がすごいことになってる」

「すごい量だナ」

「りょーだな!」


<荷物リスト>を覗き込む一人と一匹。そして、もう一人。


「見えない・・・」

「あ、ごめんね」


幼い少女の目線に合わせて<荷物リスト>を下げる。


「これで見える?」

「見える!」


一拍間をおいて、洞窟内にミロとプトラの声がこだました。


「「・・・・・・誰っ!?」」


そこにはいつの間にか幼い少女がいた。

長い髪も、一糸纏わぬ全身の肌も雪のように白く、そこに、花を煮出したような濃いオレンジ色の目が鮮やに見開かれている。


「な、なんで裸なの!?」


ミロは慌てて<収納>スキルで布を呼び出し、少女の体を覆った。


「どうしてダンジョンにこんな幼い子が?誰と来たの?どこから来たの?」


矢継ぎ早の質問に少女はちょこんと首をかしげ、しばらく思案した後「ここから来た」とミロを指差した。ミロは振り向くが、後ろには洞窟の壁しかない。


「・・・なあマスター、こいツ、オイラとおんなじダ」

「プトラと?どういうこと?」

「オイラも召喚されてない時はマスターの中にいるんダ」


そう言ってプトラはミロを指差す。


「僕の中?プトラと同じ・・・スキル?」


ハッとして<ステータスボード>を開く。


「これか、聞き逃してた!」


----


護衛戦士

荷台を護衛する戦士を召喚します。


名前なし スキル・女

状態/召喚中、正常


<基礎値>

力:16

守り:3

器用:5

敏捷:12

魔力:0


<スキル>


-----


「ううう嘘だ!」


ミロは叫んで膝から崩れ落ちる。


「ぼ、僕より断然強い・・・」

「そりゃ護衛なんだから、御者より強くてもおかしくねえだロ」

「そ、そんな・・・」


さめざめと泣くミロの頬を少女がつつく。


「ミロ、悲しみなのか?」

「ううん、大丈夫だよ・・・そういえば名前ないみたいだね。君の名前は、ハッチにしよう」


名前をつけると<護衛戦士>スキルの詳細も「名前なし」から「ハッチ」に変わった。


「ハッチ?・・・ハッチ!ハッチはハッチだ!」

「騒がしいガキんちょが増えたナ」

「ガキんちょでない!ハッチは、ハッチだ!」




賑やかな声を聞きながら、ミロは布や板のあり合わせで即席の靴――と呼ぶにはあまりにお粗末だが、を作る。ついでに服代わりの布も、せめてはだけるのだけはなんとかしようと革紐で縫い止める。出来上がってなおみすぼらしいが、これがミロの精一杯であった。


「ハッチ、どう?」

「よい」


腕をぐるぐると回し、何度か地面を踏みつけた後、ハッチはよく言えば凛とした、そうでなければ怒ったような表情で頷いた。おそらくは気に入ったようである。


「今日はもう帰ろうか。ハッチの服や靴を買いたいし」

「あと小麦粉もナ」

「あはは。ちゃんと覚えてるよ」


ハッチを抱き上げて荷台に乗せ、自らも御者台に乗り込む。するとハッチは御者台に移動してミロに膝の上に収まった。


「ハッチはここで座る」


頭を撫でてやるとハッチは満足げに鼻を膨らませた。


「よし、じゃあ「待テ」


帰ろうか、と言おうとしたところでプトラの声色が変わった。

「なんか来ル」と言って暗闇に目を凝らす。


「魔物?」

「いヤ、あれは多分・・・」


暗闇が蠢くのが見えた。ゆらゆらと不自然に揺れながらこちらに近づいてくる。


「人だ!」

「グルルガァ!」


ミロが叫ぶと同時に、威嚇するような鳴き声が轟いた。

それは暗闇のように黒い毛を持つ、大きな獅子だった。その口には羽根の折れた鳥を咥え、背にはミロの言った人を負っている。どちらも深手を負っているようで、ぐったりとして動かない。


「助けないと!」

「ガァ!」

「待テ、マスター!オイラに任せロ!」


飛び出そうとするミロを制して、プトラが一歩前に出た。


「オイラはプトラ。言葉わかるカ?お前は背中のヒト族のテイムモンスターなんじゃねぇカ?」

「グルルル・・・」


黒獅子は半歩さ下がってプトラを威嚇する。


「テイムモンスター?」

「【魔物使い】のスキルで従えた魔物のことダ。オイラもそうだったからなんとなくわかル」

「あの魔物にやられたんじゃないってこと?」

「あア。多分負傷した仲間を連れて帰るってとこだろうナ。そうだロ?」

「・・・」


前半はミロに、後半は黒獅子に向けて話しかける。しかし黒獅子は睨みを利かせたまま動かない。見れば、意識のない鳥や男同様、黒獅子もかなりの深手を負っている。口から血を滴らせ、ようやく立っているような状態だった。


「じゃあやっぱり助けなきゃ」


ミロは言ってプトラから飛び降り、黒獅子と対峙する。


「だめダ、マスター!」

「大丈夫。プトラもハッチも動いちゃだめだよ?」

「せめてオイラを引っ込めて<安全運搬>ヲ!」

「いいから。じっとしてて」


<収納>で手元に回復薬の瓶を呼び出す。


「グルガァッ!」

「大丈夫、これは回復薬だよ。ちょっと苦いけど、毒じゃないよ」


ミロはいつかプトラにしたように、ほらね、と丸薬を少し齧ってみせた。


「このままじゃダンジョンの外まで保たないと思うんだ。君も、仲間も」


ミロが一歩前に出ると、黒獅子が一歩下がって牙を剥く。「生身なの忘れるなヨ」と言うプトラに小さく頷き、言葉を選びながら慎重に話しかける。


「回復薬はたくさんあるから、僕に治させて」


目を逸らすことなく、真正面から黒獅子を見据える。


「グルルル・・・」

「きっとみんな治してみせるから」

「ウルウゥ・・・」

「ね、お願い」

「・・・」


折れたのは黒獅子の方だった。


「・・・頼む」

「うん、まずはこれを飲んで」


一瞬、話せることに驚いたが、プトラも言葉を操るようになったので、似たようなものだろうと今は捨て置く。丸薬と水を飲ませると幾らか黒獅子の体が回復した。


「凄まじい回復量だな。高価な回復薬を済まないが、仲間にも飲ませてやってくれないか」

「うん、でもまずは安全なところに移すよ?一瞬だけど、驚かないでね」


ミロは「触るよ」と断ってから黒獅子に触れ、<収納>で荷台に移動させた。


「こ、これは転移魔法!?どこに飛んだんだ?」

「魔法じゃないけど、ここはプトラが背負ってた荷台の中だよ」

「あの小さい荷台の?ではこの広さは<マジックボックス>か何かか?」


怒涛のレベルアップで荷台の中はもはやミロの実家より広くなっていた。

その広さに驚く黒獅子をよそに、ミロは丸薬を水に溶かして搔き回す。しばらく馴染ませてから「本当は飲む方が効果が高いんだけど、意識ないからね」と言って鳥と男にふりかけた。


「ハッチ、そこの掛け布団を二人にかけてあげて」

「ハッチ!かけてあげる!」


<安全運搬:状態保全>がなんとかしてくれるとは思うが、一応、端切れで作った掛け布団で意識のない二人の体を温める。


「君も休んだ方がいいよ。流れた血まで元通りになるわけじゃないからね」

「ジジだ。そっちの鳥はロトー、ヒト族はヴォルフだ」

「僕はミロだよ。よろしくね、ジジ」

「ミロ。重ねて申し訳ないが、この上の階に隠し通路があって、」

「上?ちょっと待ってね」


言ってミロは<地図>を展開する。


「今は第三階層の九区だから、この上は八区だよ?」

「なんだこの精巧な地図は!?これもスキルか?」

「そのまま<地図>ってスキルだよ」

「ここはサラコナーテのダンジョンだったのか。しかし、階層と区か。このような構造になっていたのだな」

「それよりジジ、この八区であってる?」

「ああ済まない。これだ。この隠し通路を通って」

「これだね?こう行って、こう行って・・・へえ、北方街道のはずれに出るんだね」


その操作性の高さにジジは絶句する。


「ここに出て、その後は?・・・ジジ?」

「あ、ああ。そしたら街道を北上してワロワーデンという国に向かって欲しい」

「ワロワーデン、ここだね。わかった」


どこかで聞いた国の名だが、どうせ思い出せないだろうと、やはりこれも捨て置く。


「あまり時間がないんだ、金なら言い値で構わない」

「お金はいいよ。プトラに急いでもらうから、ジジも安心して寝てて」

「そういうわけには・・・本当に、済まな・・・」


安心して気が緩んだのか、ジジの意識はそこでぷつりと途絶えた。

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