13. もはや【うるさい】
「あ!きのこあったよ、プトラ」
「さっきのスキル、試してみようゼ」
そうだね、と大きく広がった傘に触れて<収納>と念じると、一瞬のうちにきのこが消えてなくなった。
「ちゃんと木箱の中にあるね」
「なかなか便利なんじゃネ?」
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収納
手に触れたものを荷台内の任意の場所に転送します。
荷台内にあることを認識していれば、手元に転送させることもできます。
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ダンジョンに入ってすぐ職業レベルが上がり、覚えたスキルがこの<収納>である。
ルインと別れた後、ミロは早速ダンジョン攻略に挑んでいた。
初めて見る不自然な環境に爛々と目を輝かせ、「今日はちょっと下見するだけ」と言いつつ、その足はどんどん奥へと向かっていく。
ダンジョンの中は基本的には洞窟なのだが、ところどころ森の一部を切り取ったように草木が生い茂っている。陽が入るわけでもないのに葉は青々と広がり、野草や果物、そしてミロのお目当てであるきのこなど、採取物も豊富なようだ。
国にとっては重要資源でもあるため、ダンジョン内はある程度整備が行き届き、魔道具のランプがあちらこちらで洞窟内をじんわりと照らしていた。
「思ってたより人が多いね」
「低階層は魔物も弱ぇからナ。競合して稼ぎは少なくなる分、安全なんだロ」
「どうする?もう少し進んでみる?」
「ルインに三階層までって言われたロ?」
「え、でもまだここ第一階層でしょ?」
そう言ってミロは<地図>を展開する。
サイズを大きくして縮尺を調節。縦方向にも伸ばせば、地下に伸びるダンジョンの全貌が露になった。
ほぼ立方体になった<地図>に、「便利なもんだナ」とプトラが呟く。
<地図>を横から見ると、サラコナーテのダンジョンが四つの階層からできているのが見てとれる。上から下へと攻略していく地下洞窟型の構造である。
一つの階層は十の区画が重なってできていて、現在ミロ達がいる場所は「第一階層 三区」と表示されている。
「ほら。今いるところ、<地図>には第一階層っで書いてあるよ?」
「本当ダ。オイラ、階段いっこ降りるまでが一階層だと思ってタ」
「第三階層まではまだ二十七区もあるから、大丈夫だと思うけど」
「じゃ、行ってみるカ!」
「おー!」
勢いよくプトラに乗った時だった。
「おや、おや、おや。どこのどいつかと思えば」
声に振り向くと金髪の少年がニヤリ、と口の端を吊り上げていた。
タイプの違う二人の少女を両腕に侍らせ、とてもダンジョンの攻略に来たとは思えない雰囲気である。
「あ!」
「知ってるやつカ?」
「えっと【うるさい・・・あ、【うるさい】の人!」
プトラは「なんだそレ?」と首をかしげる。
「ちょっと、ハズレのクズ職のくせにカナン様に向かってうるさいとは何よ!」
「まあまあ、セルシア落ち着けって。かわいい顔が台無しだぜ?」
【うるさい勇者】が魔法使い風のセルシアを抱き寄せ、耳元で何かを呟くと、セルシアは「宿に帰ったらね」と顔を赤らめ機嫌を持ちなおす。
「よさげな騎獣を連れてるな。そういや金は見つかったのか?」
【うるさい勇者】の言葉に、両脇の二人が小馬鹿にするような笑い声を上げた。
儀式の場にいたのだろうが、セルシアも、もう一人の少女もミロの記憶にはない。
「見つかりませんでしたよ」
「何のことダ?」
「プトラと出会う前にちょっとね。お金の入った袋を投げ飛ばされて、一文無しになっちゃったんだよ」
僕あの人嫌いなんだ、とミロは顔をしかめた。
その間にも、【うるさい勇者】の一行は好き勝手に話を進め始める。
「よし決めた。その騎獣は俺様が使ってやる」
「名案ですわ!勇者様が乗るのにふさわしい立派な騎獣です!」
「そうね、あんたみたいなクズ職が乗るには勿体無い、素晴らしい騎獣だわ。ほら早く降りて勇者様に渡しなさい!」
理不尽な言い分に、しかしミロは「えへへ」と照れ笑いする。
「何笑ってんだヨ、マスター」
「だって、プトラのこと立派で素晴らしい騎獣って、へへへへへ」
御者台の上でミロがとろける。
「笑ってないで早くよこせ!お前は馬車に乗る練習でもしりゃいいんだ」
「それは嫌です」
「はあ?お前ぇに選択肢はねぇんだよ!ハズレが!!」
【うるさい勇者】が剣を抜くと、脇の二人は一歩下がって杖を構えた。
「だいたい金もねえのにどうしたんだよ。まさか盗んだんじゃないだろうな?」
「きっとそうに違いありませんわ!この騎獣泥棒!」
「勇者一行として犯罪を見逃すわけにはいかないわね!」
「でひゃひゃ!犯罪者には鉄槌を!そして騎獣は俺様のもんだ!!」
一方的に戦闘態勢に入る三人に、プトラは盛大なため息を漏らした。
「なんかすげぇわがままで自分勝手なやつだナ」
「あとうるさくて、すごい嫌な人なんだ」
かわいそうな人、とミロは肩をすくめる。
「なんかヒト族って、いろいろあんのナ」
「余裕こいてんじゃないわよ!<ファイアボール>!」
長い詠唱を終えたセルシアが小さな火の玉を放る。ルインの魔法と比べると威力もスピードもなく、雑な仕上がりである。
よってプトラは避けることもなく、
「グギャァァアアアアア!!」
咆哮一つでその火を掻き消した。
気圧された少女二人は崩れるようにへたり込み、呪文の詠唱どころではない。
「く、くそがぁ!」
咆哮に怯んだ【うるさい勇者】は、それでもなんとか自分を奮い起たせて飛びかかる。
「<剛腕>!からの、<赤の・スマッシュ>!!」
赤く輝く刀身を振りかぶる【うるさい勇者】に、プトラはあえてもう一歩踏み込み、尻尾にぐんと力を込めた。
「オダンゴの仇ぃぃイ!!」
一瞬、その場にいた全員の頭に「お団子?」と疑問符が浮かんだ。直後、プトラの尻尾の強烈な一突きが【うるさい勇者】の剣と鎧を砕いた。
「ごがっ!!」
「「勇者様!」」
血を吐き、鎧の破片を撒き散らしながら洞窟の端まで吹き飛ぶ【うるさい勇者】を、ようやく正気を取り戻した少女達が追いかける。
「ナタリー、回復魔法を!」
「わかりましたわ」
セルシアは言って、再び<ファイアボール>の詠唱に入る。
「プトラ、今のうちに一気に第三階層まで逃げよう!」
「採取の邪魔されるのもやだシ、そうするか」
「ま、待て・・・ぐ」
怒りと苦痛の滲んだ声を置き去りにして、ミロとプトラは階段を駆けおりた。
*
遭遇する魔物を弾き飛ばしながら、プトラは第一階層、第二階層を下へ下へと疾走する。緑に輝く大鹿の電撃を躱し、崖を落ちながら千を優に超える鳥の大群に啄まれ、さすがにもう追ってはこないだろう、とようやく足を止めたのは第三階層の九区だった。
「ねえプトラ、さっきのお団子の仇ってなんだったの?」
「え、だって【うるさい】のやつのせいで一文無しになったんだロ?」
「うん、そうだけど」
「じゃああいつがいなかったラ、マスターは王都で小麦粉が買えてただロ?」
「え?うん。まあ、お金があったら買ってたかもね」
「そしたらオイラ、毎日あの草のオダンゴ食えてたってことだロ?」
「草の?ああ、ニニララ団子のことか」
それは野営の一日目。商人のニビが提供した小麦粉に、ニニララ草を混ぜて鍋に入れた団子のことだった。
「そういえば一回だけ鍋に入れたね」
「【うるさい】のやつがいなけりャ、小麦粉も買えテ、毎日オダンゴ食えたんダ。だからあいつはオダンゴの仇なんだヨ」
「なるほどね。仇ではないと思うけど、なんとなくわかったよ」
「オイラの腹に入るはずだったのニ、そうなれなかった小麦粉達の仇だロ?」
「あはは、そんなにニニララ団子気に入ってたんだ」
「オイラ果物も肉も好きだけド、あれは格別だったナ。草がキュチキュチしテ、オダンゴがつるんとしててスープの味が染み込んでヨ」
語るプトラの牙の間からよだれが糸を引いた。
「あはは。今度【うるさい】の人達に会ったら教えてあげなきゃね。絶対気になってるよ」
「あんなやつに教えてやるこたねぇヨ!今度会ったらオイラの尻尾で大陸の端まで吹き飛ばしてやル!」
ミロは尻尾を振り回してはしゃぐプトラから降りて辺りを見回す。
「第一階層みたいにランプがないから暗いね」
淡く光る苔に光源を頼る洞窟内は夕暮れ時のように薄暗い。ミロは木や魔物の脂肪で作った松明を地面に突き刺し、森の一部で採取を始めた。
「第一階層とは採れるものが全然違うみたい」
「そうなのカ?じゃあ第二階層も違うのかナ?」
「かもね。明日は第二階層中心にまわろうか」
「そだナ!」
ところどころ点在する森の一部を見つけては、自ら騎獣になったミロが採取を行い、魔物が出たらプトラを召喚して戦ってもらう。荷台の中は<安全運搬:衛生管理>のおかげで自動的に綺麗になるので、魔物の血抜きは中に放置しておくだけでいい。その上<安全運搬:状態保全>もあるので、野草も魔物の肉も鮮度が落ちにくく、時間のかかるダンジョン攻略には打ってつけである。
時折見つかる<地図>にしかない空間は隠し部屋で、中には宝箱が置かれていた。
時々引き当てる毒ガスや擬態した魔物の攻撃を<安全運搬:絶対防御>に無効化してもらいながら、ミロは宝石や装飾品、魔道具を獲得していく。
採取をして、魔物と戦闘して、隠し部屋を発見。小腹が空いたら魔物の肉を焼いてプトラと分け合う。ミロ達はダンジョン攻略の醍醐味を大いに味わった。
八メートル四方にまで拡がった荷台が取得物でいっぱいになった頃、その成果は例の声となって頭に響いた。




