部活動記録023〈7〉
「謎って言うのは?」
「その紙のことに決まってるじゃないですか」
笑みをこぼし、耳に髪の毛をかけながらこちらを向く。
「きっとあなたの頭であれば一生かかっても解けないと思いますから、手助けをして差し上げよう、と」
全てを見透かしているように見えた。
「悪いが、その必要は無い。七つの大罪に関係してあることだろ?」
小さく五月雨が拍手をした。
「3割ほど正解です」
「3割だと?」
五月雨は一歩、また一歩と寄りひとつの本を出した。
「これを読んでいま一度七つの大罪について学んでください。答えは全てそこに載ってますから」
そう言い残し部室をあとにして行った。
ピシャリと閉じられた扉からは黒いオーラがこぼれ出していた。
本を開くと七つの大罪についての文献と、様々な逸話、歴史などが載っていた。
読み進めていくとやはり知っている内容がとほとんどであった。
半分までは。
半分を過ぎると過去に七つの大罪はあと2つあったこと、それぞれの大罪には言葉からはわからない意味が書かれていた。
『嫉妬』には不幸を喜ぶ。
『色欲』には感情を強くさせる。
『強欲』には富を欲しがる。
『怠惰』には絶望にする。
『傲慢』には愛されない。
『憤怒』には人を傷付ける。
『暴食』には忘れられる。
と、なぜ大罪とされているのかがわかりやすく書いてあった。
五月雨が言っていた「答え」とはこのことだろう。
だが、そこからが繋がっていかない。
前、僕には『傲慢』の文字があった。
そして今は『嫉妬』『色欲』『強欲』『怠惰』『憤怒』の5つがあった。
残るは『暴食』。
「能力に関係があるのか?」
『フレア』は相手の心情を読み取ることが出来る。
それが愛させないことにつながるとは思えなかった。
「じゃあうつりやコロン達には?」
コロンの『ルート』は噂を広げる。
当てはまりそうなのは『怠惰』か『憤怒』。
うつりの『チェンジ』は相手と自分の感情を入れ替える。
里中の『炸裂』はあいての感情を増幅させる。
『色欲』がピンポイントで当てはまる。
どれにもあてはまっていない。
「ダメだ。全くわからない」
頭を抱えうなだれた。
目を閉じ、深く考えた。
今までの中に見落としてるポイントがあるはず。
脳内が先程までの会話、本の中の内容。
全てがフラッシュバックし、思い出そうにも情報量が多すぎる。
こめかみが痛くなっていく。
指で強く押し、また考えた。
どのくらいの時間が経ったかわからないがいつの間にか日が登っていた。
「正解まであと一歩と言ったところですね」
扉を開けたのは五月雨だった。
「頼む、答えを教えてくれ」
もうダメだと思い、深く頭を下げた。
「正解は教えません。あくまでヒントを与えるだけですから。」
そして1つのアルバムを出した。
「あなたは一体どんな道を進んだんですか?他の人達もどんな道を進んできたんでしょうね?」
開くと僕の写真だけでなく、コロンたちの写真もあった。
写真の下にはメモがあり、その時に起こったことが事細かに書いてあった。
読み進めていくうちにわかった。
「大事なのは『どうなるのか』だけだったのか。
『ダスト』がどんな能力なのかとか富や不幸とか関係なく、その後ろの喜ぶ、だったり、強くさせるの方が最も大事だったのか。」
つまり、僕の『傲慢』は今まで歩んできた愛されてきてない人生があるから『傲慢』が当てはまる。
「正解まで到達出来たようですね」
そういうと1つの鍵を見せた。
「この鍵を受け取ると人を助ける代わりにあなたが死にます。受け取らない場合は捕えられてる人達が死んでしまうでしょう。あなたはどちらを選びますか?」
半分も聞いてなかっただろう。
助かるとわかれば飛んで行く。
あの時にはもう戻らないようにそう決めた。
形状を見た限り、この近くの教室だろう。
一つ一つの教室を回った。
ガチャ。
その音は影のタイムスリップする前の教室、2-1から聞こえた。
勢いよく開けるとガムテープで口を塞がれ、ロープでぐるぐる巻きにされているみんながいた。
すぐに解こうとし、ロープに手をかけた。
その時光が大きく首を横に降った。
目で後ろを指しているようで、そこを除くと爆弾が甲高い機械音を鳴らしらが、『05:14』と表記してあった。
14の文字は13、12、11・・・と、数を減らして行った。
慎重にロープを解き、その場から逃げた。
全員が学校から逃げた時に爆弾が爆発した。
激しい爆音とともに窓ガラスが割れ、黒い雲が登っている。
消防車のサイレンが近づいてきた。
「とりあえずここから離れましょ。ね、先輩?」
コロンに腕を掴まれその場から離れた。
五月雨の姿も遠くの方で確認できた。
また遠くの方から爆音が聞こえてきた。
その夜、1時間の間に爆発事件が4件も起こった。
警察も動き始め、やがて僕達にも事情聴取を聞かれるだろう。
『ダスト』の認知度は恐ろしく低く、理解のあるものなどこの国にはまずい無いだろう。
きっとバカ正直に話せば相手にスらさせないだろう。
そんなことになるなら
「みんなで逃げるよ」
みんなは賛同してくれた。
とにかくこの街から離れるため、バラバラで行動した。
「最後に大きい嘘を着いちゃったなー。光には悪いな」
僕が向かったのは隣町ではなく、いつしかの高架下だった。
「やっと来たんだね『傲慢』君。」
「お前が『憤怒』なんだな?」
そこには青柳充の姿があった。
彼の放つオーラはとてつもなく大きく、漆黒だった。
「僕は君を傷付けるためにここに居るんだよ。最高だろ?」
高笑いしながらこちらを見下している。
「なんでお前が、何の為に?」
大声で問いただした。
「なんで?」
目付きが鋭くなり、首をかしげた。
目の奥にあるはずの輝きが全く見えなかった。
「あの日、影に忘れられた日から君を恨んでいたんだ。そして高校に入り、影を見た時に運命だと思った。だから僕の手で天誅を下すよ」
グンと近づき襟を掴み壁に押し付けられた。
「死にたかったんでしょ?この場所で」
ポケットから僕が持っていたものと同じ、あのナイフが出てきた。
充は本気だ。
本気で僕を殺そうとしている。
足に力が入らない。
涙が溢れていて視界にモザイクがかかる。
抵抗する気力すら出てこなかった。
首元に冷たい金属が当てられる。
首を何かが伝う。
涙ではない、別の液体だ。
「やっぱり君は弱いんだ。じゃあね、偽騰影」
首元のナイフを引き、標準を心臓に向けた。
「待ちなさい!」
声の方を向くと光がいた。
居ないはずの光がいた。
持っていたラクロスのボールをラケットで巧みに扱いナイフめがけて飛んできた。
見事ナイフに当たり、地面に落とす。
どこからともなく優太さんが現れ僕を引っ張り出した。
「せっかく死ねたのに、なんで逃げるの?」
オーラは狂気で満ち溢れていた。
「そうだよ偽騰影君。」
神谷がやって来た。
「なぜ神谷、お前もここに居るんだ!」
神谷と充は同時に笑いだした。
「やっと6人目の『ダスト』が見つかったからね。」
充の肩を叩き、充が1歩踏み出した。
「よろしく、『撃退』の青柳充です。」
ついにでてきた最悪の『ダスト』
「なんでお前なんだよ…」
僕は呆然とし、その場に跪いた。
「君が憎くて憎くてたまらなかったんだよぉ!」
『ダスト』は辛い人生を送った人間に与えられるのが前提条件だった。
充にとってそのことが何よりも辛かった。
だから『撃退』が与えられた。
「復讐にはピッタリだ。しんでもらうよ、影?」
瞬く間に近づき、優太さんを押しのけた。
そして僕の首を掴んだ。
「さよなら。え」
名前を言おうとした時、強い光が視界を遮った。
充も思わず手を離した。
そして僕と充の間に割り込んできた。
「やっと私にも来たんだね。」
目の前には光がいた。
オーラには『リセット』とあった。
「ま、まさか7人目の『ダスト』がっ!」
あとから駆けつけた里中、コロン、うつり、宮野先生。
その場に7人の『ダスト』が揃った。
恵みの雨と言ったところか、静けさをなくすように雨は絶え間なく降っている。
僕の涙を誤魔化す。
さぁ、ついに始まった。
起こってはならない『聖戦』が。




