第5章:御前会議(ディヴァン)のアストロフィジシスト — ファーストコンタクト
I. 天蓋の境界にて:恐怖と好奇心
アンタルヤ、カライン台地 — 2026年4月7日、午前3時45分
カライン洞窟の出口から現れたヤヴズとギョイチェにとって、世界はもはや知っている場所ではなかった。数分前まで洞窟の湿った壁の間で地質層を調査していた彼らの前には、いまや巨大で霧に包まれ、微かに紫色の光で波打つ透明な壁が立ちはだかっていた。そして、その壁の向こう側には……「不可能」が存在していた。
「ヤヴズ、これは幻覚よ……」ギョイチェは囁いた。懐中電灯の光をドームの表面に向けると、光は数千のプリズムに分かれて反射した。「カラインの丘の上に街がある。でも、これはアンタルヤじゃない。これは……ビザンツとオスマンの建築だわ。見て、松明が燃えてる!」
ヤヴズは天体物理学者としての冷静さを保ち、ポケットから放射線測定器とデジタル周波数スキャナーを取り出した。デバイスの画面は、見たこともないグラフで埋め尽くされていた。「これはホログラムじゃない、ギョイチェ。重力異常が起きている。この街はここに『置かれた』んだ。地下の磁気リブラインが、このドームに吸い上げられている。これは『時空の裂け目(時空断層)』だ。」
その時、ドームの内側から一つの影が現れた。銀細工の甲冑を纏い、光り輝くランタンを手にした巨躯の男が歩み寄ってくる。ボアッチだ。彼はドーム内の「空気の封印」のおかげで外を見ることができたが、外の音を聞くことはできなかった。ボアッチは剣の柄に手をかけ、ドーム内の機構に触れた。すると、二つの時間を隔てていた薄い膜が、人間二人が通れるほどに「弛緩」した。
II. 虜囚か、招待か?
ボアッチが一歩、外へ踏み出した。15世紀特有の鋭く、狩人のような眼差しがヤヴズとギョイチェを射抜いた。ヤヴズは、目の前の男が単なるエキストラではないことを、その放つ威圧的で危険なエネルギーから即座に理解した。
「貴様ら、何者の類だ?」ボアッチが問うた。その声は現代トルコ語よりも太く、鼻に抜けるような威厳に満ちた響きを持っていた。「その装束は異教徒のものか。手に持つその光る鏡は、いかなる魔術師の玩具だ?」
ヤヴズはゆっくりと両手を挙げた。科学者として、相手の言語が古風なオスマン・トルコ語であると察するのに時間はかからなかった。「私たちは敵ではありません。」ヤヴズは言葉を選びながら答えた。「私たちはこの地の末裔です。あなた方の時代から遥か未来、天上の学問を追う探究者です。あなた方の主君……メフメト2世陛下が……私たちを待っておられるはずです。」
ボアッチは動きを止めた。「陛下の御名を口にするとは不届きな。……だが、よかろう。主君も『後世より来たる者』の言葉を解くのを心待ちにしておられる。歩け。もし策謀の気配を感じれば、そのガラスの板とやらは貴様らを救いはせぬぞ。」
III. 王宮への道におけるパラドックス
ドームの中に入った瞬間、ヤヴズとギョイチェの肺が焼けるような感覚に襲われた。内部の空気はあまりに清浄で、あまりに「無菌」に近いほど酸素濃度が高かった。現代世界の汚染に慣れた彼らの身体は、一時的なショック状態に陥った。周囲には、15世紀のイスタンブールがその生命力のままに存在していた。イェニチェリ(常備歩兵)が松明を掲げて巡回し、馬のいななきが石畳の通りに反響していた。
「ヤヴズ、見て。」ギョイチェが道端のプラタナスの木を指差した。「この樹……この種がこの地域で自生するのは不可能なはず。でも、ここではまるで千年前から根を張っているみたい。転送は都市だけでなく、エコシステム(生態系)丸ごと運んできたんだわ。」
王宮の中庭に辿り着くと、そこにはファティ・スルタン・メフメトが待っていた。スルタンは、巨大な机の上に広げられたシュメールの粘土板と、自らが描いた星図の間に立っていた。ヤヴズとギョイチェは、歴史上最大の天才の一人を前にしていることを悟り、科学的合理主義は深い敬意へと昇華された。
IV. 学術的交換:量子と「クン・フェイェクン(在れ、さらば在らん)」
ファティは顔を上げた。その視線はまずヤヴズの持つタブレットに、次にギョイチェの背負うハイテク装備に注がれた。
「ようこそ、時の孤児たちよ。」ファティが言った。その声は君主というよりは、研究責任者のような好奇心に満ちていた。「ボアッチ、彼らに水を与えよ。彼らが通ってきた道は、我々が通り抜けたあの暗黒の空隙よりも険しかったようだ。」
ファティはヤヴズに向き直り、問うた。「教えてくれ、若者よ。お前の持つその板の中で躍る数字は、私がこのシュメールの粘土板で『流転(Akış)』と呼んでいるものを測定しているのか? 我々は過ちを犯したのか、それともこの邂逅は数千年前にこの石に刻まれていた必然なのか?」
ヤヴズは震える手でタブレットを開き、地域の磁場データを提示した。「陛下、あなたは過ちなど犯していません。あなたは現代科学が『量子跳躍』と呼ぶ事象を成し遂げたのです。シュメールの座標とあなたの意志が結合した時、亜原子粒子が『事象の地平線』を創り出しました。私たちの時代ではそれを『科学』と呼び、あなたの時代ではそれを『奇跡』と呼びます。」
ファティは微かに微笑んだ。「名は変われど、真理は不変だ。我々はそれを『クン・フェイェクン(在れ、さらば在らん)』という神秘の、人間による顕現と呼んだ。だが、見よ……」スルタンは窓の外、アンタルヤの光を指し示した。「外のあの騒音……あの鉄の鳥や光り輝く塔……。彼らは我々を見つけたのだな?」
V. レッドアラート:現代世界の応答
その時、ヤヴズのタブレットに通知が飛び込んだ。ドーム内の干渉にもかかわらず、軍事衛星からの信号が一瞬だけ同期したのだ。
「陛下、」ヤヴズは戦慄しながら言った。「今、アンタルヤの軍事基地(旅団および空港)がレッドアラートを発令しました。彼らのレーダーに巨大な『未確認質量』が捕捉されました。数分以内に、空に本物の『鉄の鳥(F-16戦闘機)』が現れるでしょう。あなたのドームは彼らを阻むかもしれませんが、外の世界はこれを『侵略』と見なします。」
ファティはボアッチを振り向いた。「ボアッチ、城壁の砲を用意せよ。だが、撃つな。我々は戦うためではなく、時間を屈服させるためにここへ来たのだ。ヤヴズ、お前とあの娘……お前たちが我らの『言葉』となれ。外の者たちに伝えよ。イスタンブールはここにあり、それは決して失われてはならぬ至宝であると。」




