94 主従関係の終わり
その日、屋敷にベルナルドとジェイを始めとする使用人達をサロンへ集めた。
そしてウィルが皆に告げる。
「本日を持って番犬は解散だ。
僕も影を辞めて平民として街に紛れる。
情報屋の元締めに転身だ。
王との繋がりは断つ。
これからは、国の為ではなく個人的な情報屋として生きていく。
依頼主との繋がりに変わる。
番犬としての人生しか考えられないと言うなら
主従関係としてではなく仕事のパートナーとして肩を並べて情報屋になれ。
報酬は歩合制だ。基本単独で時に助け合うでもいい。
このまま、ノワール家の使用人として生きるのも選択肢の一つだ。死ぬまでノワール家が面倒を見る。
他の選択肢を考えられる者は、それで構わない自由に選べ。
何か、口利きやコネが居るなら言えよ。
それに、これからも家族だとは思ってるから困ったら声を掛けてくれ助けになる。
それと、ジェイ。
お前は、これからを考えられるぞ。
ノワール家に残ってエルバートを支えるのも良いし、学校の校長や職員にもなれる。
それとも、僕達と一緒に来るか?
急な話だ。
少し考えてくれ。
もう、番犬の仕事は無い。ゆっくり考えて欲しい。
僕達が街に出るのは店が出来てからだ。
まず、空き店舗か土地を探す所からだからな。」
皆、黙り込んでいた。
いきなりで頭が混乱してるのかも知れない。
最初に話し出したのはベルナルドだった。
「ウィリアムが決めた事だ。
とやかくは言わない。俺は番犬として育てられたからな切られる覚悟は昔から出来てる。
けど、ウィリアムは切り捨てはしないんだな。
俺は、オマエに着いてくよ。
ウィリアムを主だと決めてから俺はオマエに着いてくと決めてる。
情報屋なんて、俺の為にあるような仕事だろ?
偽りの貴族も使用人も柄じゃない。
何の店だ。依頼主だって探してこれるぞ。
オマエに俺は必要だろ。
お坊ちゃんが、いきなり平民なんて笑えるよ
俺も歳を取ったが、まだまだ動けるぞ。」
そんなベルナルドの言葉にウィルは嬉しそうだ。
他の使用人達は、少し考えるとの事だった。
エリアーナは、勿論ベルナルドと一緒だ。
そしてジェイは
「なぁ〜。
俺も父さんと母さんと一緒に行っていいか?
貴族なんて肩書きはいらねぇ。
今まで、贅沢に暮らしてきたけど、やっぱり俺は平民だよ。
せっかく、ノワールの名をくれたのにゴメンな。
俺には夜の街の方が合ってる気がするよ。」
そう言って笑った。
勿論、歓迎するよと答えた私達は
ベルナルドとエリアーナも混ぜて夜の街のどの辺に店を構えるか何の店にするかなどを話し合った。
また、新たな人生の様で楽しかった。
ある程度、構想が出来た所でベルナルドが俺に任せろと出て行った。
主従関係は、もう無しだと言ったのに率先して仕事をしてしまうのだ。
あれは、一生直らないかも知れない。
年上という事もあるんだろうけど。
エリアーナが少し不安な顔をして聞いてくる。
「あの〜、マリー様。
他の人達が、この屋敷を出て行くと言ったら使用人が居なくなりますよ。
大丈夫なんですか?」
そんなエリに私は
「ちょっとエリ。様は、もう要らないわよ。
マリーで良いわよ。これからは対等よ。
それと、多分だけど使用人の殆どが残る気がするわ。
残らない者も居るかもだけど、その時はエルバートが探すわよ。
使用人の教育を受けてる子供も学校には居るのよ。いくらでもスカウト出来るわ。
心配してくれて、ありがとねエリ。
所で、ベルナルドとは、どうなってるの?
結婚とか拒んでたから今まで聞かなかったけど。」
ベルナルドが居ない隙を狙って疑問を投げてみた。
「ちょっと、いきなりですか?
ベルさんは、凄く優しくしてくれます。
愛情も、ちゃんと貰ってますよ。
ただ、夫とか父親ってものが分からないみたいで。
私も前世の記憶で両親の本当の愛を感じる事さえしなかったんで…。
なんか分かるんですよ。
こんな人間に、まともな家族を作れるのか?みたいな。
愛し愛されるの初心者同士なんです私達。
どんな愛情があって、どう受け取るのか?
手探りなんです。
だから、このままで良いんですよ。
形なんて何でも良いんです。
ただ側に居られる幸せだけで満足なんです。
マリーが、子供を産まないって決めたのと一緒です。
二人の時間が一番なんですよ。」
そう言って微笑んだ。
めちゃくちゃ惚気てる気もするけど。
転生して、誰かを本気で愛する事を覚えたエリアーナは輝いて見えた。
それから数日経った頃から、使用人達は残る事を決めた。
誰一人、欠ける事なく。
息子達を見守りたいと言っていた。
ずっと家族の様に過ごしてきたからこそノワール家にも息子達にも愛着があるようだ。
それは、ハンデルン家でも同じだった。
ベルナルドが揃えた番犬達。
領地の管理などもしてたからかハンデルンの街に留まりたい様だ。
各地に散らばる番犬達は、手を汚す事をしてない者達だ。
街に溶け込み、普通の仕事をしたり普通に家族を作ったりして情報収集や情報操作が主な仕事だった。
普通の仕事の斡旋や、生活の基盤を援助したりしていたが今では、自分達で生活を成り立たせている者が多い。
情報屋の仕事は、したい時だけで良いと自由に選べるようにした。
普段は、普通に暮らし。稼ぎたくなったら仕事を回すと言うような感じだ。
ウィルの遣り方で、番犬は多くはない。
お父様のように駒を多く作る事をウィルはしなかったからだ。
大きな反発もなく番犬達の今後は決まった。
誰一人、大きく旅立って行く者は居なかったのだ。
ウィルは、番犬として飼った責任は果たすと、生活に困ったら援助すると約束していた。
きっと、平民に身を落としたのも接触しやすい様にとの配慮だろう。
表向きは、平民になるが元々は王家の人間だ、
財産はあるのだ。ただの平民より豊かなのだ。
これからは、慎ましく暮らすと言って息子達に財産を分けようとしたが息子達に断られていた。
ベルナルドの仕事は、いつだって早い。
元々、あった空き店舗を改装して店を完成させた。
昔、潰した組織の店の残骸だ。
私達にはお似合いだろう。
居住空間もあり地下室もある。
夜の街の隅っこに構えた店の名は【エデン】。
ちょっと怪しい雰囲気漂うオシャレな酒場。
酒場と言うよりクラブみたいな感じだ。
情報屋が集まる居場所でもある。
店内はキャンドルの魔法具で照らされ薄暗く、それでいて妖しい空間。
赤と黒がメインのインテリア。
カウンター席とテーブル席に分かれたホール。
インテリアは、金を掛けた。
ゴシック調の家具で揃えられた店は高級感さえある。
けれど、値段は安い設定だ。
ハンデルンから酒や食材を大量に購入する代わりに安く仕入れているからだ。
この店に、私とウィル。ベルナルドとエリアーナ。そしてジェイが暮らして行く事になる。
ウィルは、エルバートに理事長と当主を譲り貴族の称号を捨てる。
暫くの間は、兄にエルバートを支える様に頼んだ。
エルバートとリアムは、私達の影の仕事もあり結婚を躊躇してた様だが、ようやく婚約者を見つける気になったらしい。
これで、私とウィルは一平民。ラストネームがない、ただのローズマリーとウィリアムだ。
そして名乗るのはローズとウィル。
ベルナルドもベルと名乗りエリアーナはエリーと名乗った。
使用人の居ない生活の始まりだ。




