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93 聖霊の計らい


それぞれの本音を話し終えた時、ウィルが女神に話し掛けた。


「ところで、アルティア。

ここ数年、平民から生まれる子供の魔力量が底上げされてるんだが。

今まで、魔力量は遺伝的要素が大きく作用したように思ってたんだが…アルティアの計らいか?」


そんなウィルの質問に女神がニコっと笑い


「そうね。

精霊の祝福を万遍なく与えてるわ。

私と精霊王の計らいかしらね。


大地に溢れる精霊達のエネルギーを活性化しただけなのよ。

これから、自然を大事になさい。

精霊達の輝きを保つのも疎かにして精霊達を消すのも人間次第ね。


精霊の輝きのエネルギーが魔力の素よ。

疎かにすれば、いつか魔法は衰退する。


精霊の祝福が多いほど、魔力量を多く保有出来る子供が生まれやすくなるわ。


人間は価値を作り、その作り出した価値に振り回される。劣等感を覚え生きる価値さえないと思ってしまう。

魔力量は、この国の最たるものね。

たまには、守護神らしく何か恩恵を与えなくてはね。」


それを聞いたウィルは


「そうでしたか。

確かに、魔力が少な過ぎる者が虐げられる。

魔法を使わずに力を発揮出来る事もあると言うのに。


有難う御座います。

これからの人間次第ですけどね。」


次にサイラスが口を開く。


「アルティア。

そんな事をしてたのか?

何も言わないもんな。

でも、底上げは有難い。これからは、精霊が喜ぶような国も考慮しなければな。」


それを聞いた女神は微笑む。

そして、女神は私に視線を向ける。


「精霊王も一枚噛んでるのよ。

たまに、私と一緒に貴方の動向を見てるのよ。

そして、貴方達を見ていて、いつかの女がローズマリーだと分かってしまった。


あの頃の精霊王は、全てを楽しんでたわ。

それに人の生き死にも然程、気にもしてない。

興味の対象である女が、どう生きてくのかの興味しか無かった様に思うの。


精霊王は輝きで人を見てると言ったわね。

人は、それぞれに輝きの色みたいなエネルギーを持ってる。


同じ魂でも、その輝きや色は違う。

自分という意識を、その時の名に投影して初めて色を持つとも言えるかも知れない。


精霊王の興味は、人の輝きや色で判断してるのだと思っていたのだけど。

違うみたいなの。精霊王にしか分からない何か別の輝きみたいなものなのかしらね?


精霊王、本人でさえ分からない嗅覚みたいなものなのかも。初めて、それを失う怖さを覚えてしまったのね。

それが、貴方への執着になった。


けれどね、精霊王も聖霊よ。

貴方の答えを聞く時を待ってる。

多分、全てを理解してる。そして自分がどうするかも既に決めてると思うわ。


貴方が悔いなく生き切ってくれるようにと思ってるみたい。

ウィリアムと共に生きる貴方へのプレゼントかしらね?

精霊王らしく、精霊達を導いてたわよ。


この話をするのは、私のお節介よ。」


そう言ってウィンクする女神。


「ガロに、ありがとうって伝えて下さい。

それと、悔いなく生きるって。」


そして、此方を見てるウィルに微笑んだ。

精霊王の事で心をざわつかせる事がないように。



それから、私達は

遥か遠い過去の自分達にサヨナラを告げた。


今の私達はウィリアムでありサイラスでありローズマリーだ。


今の自分達の夢を描く。

今ここの世界で、今だけしかない時の中で

私達は生きていく悔いが残らぬ様に。




その後、私とウィルは、またあの丘に戻った。

夕日を見ながらベンチで肩を寄せ合う。


「ねぇ〜、これからの事は

もう考えてたりするんでしょ?」


私が問えばウィルは


「そうだね。

けど、もう勝手に決めないよ。


ローズ、相談だ。

僕の考えを聞いて、ローズの考えも聞かせて。


僕は、家を息子達に譲って街に出たい。

思い切って平民になろうかと思うんだ。

影も番犬も形を変えて情報屋になる。

その、中心になる店でも作ろうと思ってる。

元貧民街の夜の街だ。


番犬達の殆どが普通の平民に戻れるとは思えない。勿論、希望は聞くよ。


小さな店をローズと二人で切り盛りするのも楽しそうだ。

どうかな?」


確かに、私達は手を汚してきた。

普通の生活に戻るのも何か違和感しかない。


「そうね〜。

それも良いかもね。


家の使用人をしてた者は、そのままって選択肢もあるし、国のあちこちに居る番犬は既に情報屋みたいなものだしね。

今更、自由だよ〜なんて言っても戸惑うわよね。


主従関係は、終わって個人で動くようになるけど手助けしてあげなきゃね。

それが主だった者の責任よね。


店は、どうするの?

なんの店にする訳?

バーみたいな怪しい店かしら?」


そう言って笑うとウィルがニヤりと笑って


「怪しいそうな店がいいよね。

普通の店だと貴族たちが来ちゃうだろ?

相手にするのは面倒だ。


情報交換や依頼なんかの為の店だ。

酒場なんかは良いかもね。

それか、怪しい魔道具屋かな?

その辺は追々、考えよう。


まずは、アイツ等の意見を聞こう。

特に、ベルナルドは何て言うかな?

あと、ジェイもだ。」



選択肢は無限と言うけど、なかなか考えられないものだと思う。


狭い世界で生きてる者こそ、選択肢を考えるのも容易ではないのだ。


提示してあげる方が優しさかも知れないのだ。


「そうね。皆んなに聞かなきゃだけど。

ある程度、選択肢を先に考えてあげないと。


急に首輪を外された犬は自由だ〜なんて喜ばないわよ。きっと。


私達が死ぬまで面倒見る責任はあるもの。

お父様達のように切り捨てなんかダメよ。」


ウィルが急に顔色を変えた。


「ローズ、君は気付いてたの?」


そう言って肩を掴んでくる。


「そんなにビックリしないで。

影だったのよ、お父様は。

それに、あの心が死んでる様なベルナルドを知ってるのよ。

お父様が番犬を駒の様に見てたのは想像出来るわよ。

いつだったかも、番犬を切り捨てたのを知ってる。

それが、お父様の遣り方で、お母様も容認してた。

お母様は、いつだったか言ってたわ。

惚れた男が決めた事を遂行すると覚悟して一緒に居るってね。


大丈夫よ。

両親が決めた生き方だったんだもの。

けど、私は真似たくないけどね。」


と、微笑んで見せると

ウィルは、私を抱き寄せながら


「もっと、早く君の心の中をちゃんと聞くべきだった。

いつだって、君の気持ちを勝手に推測してしまってた。


君には、ずっと背負わせてしまってたね。

僕が勝手に背負ってきて、君も一緒に背負ってくれる。

ずっと甘えてた僕を許してね。

これからも甘えてしまうと思う。

だから、君もちゃんと甘えて欲しい。


今だって、平民になんてなりたくないとか言って良いんだよ。」


ウィルは分かってない。

いつだって、私は嫌だと思った事なんてない。


「平民の方が良いわよ。貴族なんて堅苦しい。

女でも自由に、はしたないなんて言われず駆け回れるのよ。

広い草原を馬で駆けたり、酒場で皆んなで盛り上がったり楽しそうな事がいっぱいだわ。

綺麗なドレスで着飾るなんて窮屈よ。


それにね。

今までだって、嫌だった事なんて一度もない。

私はウィルに依存してるの。

ウィルと一緒に、共に歩めるなら全てが楽しいし幸せだわ。


ダメ男でも良いの。

甘えられるのも好きよ。

ウィルの全てが大好きよ。


残りの人生も、共に歩こう。」


そう言って、ウィルの腰に巻き付けた腕に力を込める。

幾つになっても、冷めない気持ち。


依存でもなんでも良い。

だって、私はウィルを求めてる。





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