92 分たれた道それぞれの歩みへ
サイラスの所に行き女神を呼び出し城の地下にある空間に移動した。
この空間は異次元だ。
女神の領域と言っても良いのかも知れない。
いつかの日の様にテーブルとソファーが現れて、そこに座る。
すると女神が
「ワインでも飲む?ここの空間ではイメージしたら出てくるわよ。
ただ、味を感じても実際に飲んでる訳でもないから酔わないけど。
まぁ〜、形だけね。感覚は飲んでるのと変わらないしね。」
そう言って、ワインを出した。
「女神アルティア、サイラスの瞳は何処まで視えてる。僕とは違うんだろ?」
ウィルが確認してる。
何処から話すか決めかねているのだろう。
「サイラスが、どこまで魂の記憶を知ってるか?って話かしら?
断片的なんじゃないかしら?
見え方は、それぞれね。」
そう女神が答える。
「魂の記憶が、どうしたんだ?
俺の瞳は、映像が見えたりかな、人の本音とかは本当の表情が見えるとかかな?
上手く説明出来ないけどな。
開眼した時に、女神と精霊王との契約の時の映像とか見えた。
スゴい勢いで流れて行ったから、なんとなくで判断した感じで、後悔とかの感覚を感じたって位だよ。」
断片的とは、解釈違いがおきそうだ。
「分かった。
じゃあ、僕が思い出した記憶からものを言うよ。
俺とサイラス、ローズは、理想郷を夢見てた。
地上の楽園だ。
誰もが幸せな弱き者がいない世界。
これは、サイラスの夢だな。
俺とローズの夢は三人が何にも邪魔されず幸せに暮らせる世界だった。
サイラスは他者も気にかける優しい子だった。
サイラスの夢を叶える事で俺達の夢も叶う。そう思ってサイラスの夢を叶える手伝いをした。
しかし、自分達だけ幸せで居られる世界は簡単だった。
でも他者も含めたサイラスの夢は途方も無かった。
俺とローズは、二人で何度も話し合った。
どうしたら、そんな国が出来るんだってね。
俺とローズは、女神をトップにする国を目指して計画を立てた。
明確な善と悪を定義して、悪は神に裁かれると植え付ける事にしたんだ。
俺はローズにも内緒で自分が悪の象徴になろうとした。
けど、ローズは賢くて俺の考えを読んでた。
先回りして俺の役割りを奪った。
俺に自分を殺せと、女神と契約した俺が楽園を創るんだってね。
俺は拒んだ、一緒に死のうと思ったのに叶わなかった。
だから、俺はローズが望んだ楽園を創った。
女神と契約する国王が神となる国。
神が定めた善悪を守らせて平和を保った。
サイラスの過ちは、ローズの死を無駄にした事と
自分が王で無い国を認めなかった事だよ。
そして俺の過ちは自己満足の愛し方しか出来なかった事だ。
ローズが賢いのを知ってた、察してしまうと分かってたはずなのに、甘えたんだな。
そしてサイラスに、理想郷を自分で創れなんて言ってしまった。
オマエの理想の国を創るのには犠牲になる者が必ず出てくるとも教えないままに。
結局、ローズを失った俺は何でも良くなったんだ。
楽園を創れたら何でも良かった。
本当はサッサと死にたかったからな。
ローズがそこまでしたのはサイラスの為だよ。
なのに、オマエは否定した。
妹を犠牲にした国なんて嫌だとな。
地上の楽園を夢みて、全てを失ったよ。
国が欲しかった訳じゃ無いのにな。
それが、思い出した魂の記憶だ。
記憶を思い出した俺は、絶望したんだ。
なぜ、妹の犠牲で創り上げた国が崩されてるんだってね。
何の為の犠牲だったんだって怒りが湧いた。
戸惑ったよ。魂の記憶に引き摺られた。
葛藤したし、今の俺と魂の俺と、どっちがどっちか分からなくなったよ。
けど今の俺は、ただローズと一緒に楽しく笑って暮らせれば良いだけなんだ。
それと、影と番犬を終わらせたい。
今でも、サイラスが描く理想郷にしたいと言うなら、自分でやれ。
自分の理想は自分で叶えろ。
自己満の愛は辞める。
オマエを置き去りにして勝手に背負うのを辞めるよ。」
真面目な顔でサイラスに話したウィルを真剣に見つめてたサイラスは
「魂の記憶の話は分かったよ。
俺は、一気に流れていく映像をボーっと眺めてただけだからな。
ちゃんとは分かって無かった。
ただ、感情みたいなものは感じた。
遥か昔々の俺も、甘えてたよな2人に。
いつも綺麗事ばっか言ってた気がする。
その癖、劣等感があった。兄と妹より、俺は劣ってた。
デカい夢を語る事で誤魔化してたのかな?
想像だけどな。
今の俺もそうだけど、置いてけぼりなのが気に入らなかったんだ。
勝手に背負って俺を置いて行くんだ。
追っかけても追いつかない気になって諦めた。
結局は甘えるんだ。
確かに、俺が描いて創る国だ。
兄貴達には関係ない。
兄貴が、王になりたくないって言った日から俺が覚悟すりゃ良かったんだ。
父上に影なんて要らない、兄貴の助けも要らないってな。
俺は、本当に情けないよ。
一人で国を背負うって言えなかった。
王として理想の国にしたいなんて夢を見てるのに他力本願だ。
あの頃、兄貴が解放される事を本気で望んでたんだ俺。
なのに俺は甘えて巻き込んだ。
頼りなかったもんな俺は。
俺も俺で考えてるよ。
これからの在り方を。
けどな、兄貴達には言わないよ。
また、勝手に手伝われても嫌だしな。
影も番犬も今日から辞めろ。
もう背負わなくていい。
俺の為に犠牲になるなよ。
ただ、家族としては今まで通りでいてくれよ。
たまには愚痴とか聞いてくれるだろ?」
サイラスはサイラスで思う所が、ずっとあったのだろう。
そしてウィルが言った。
「これからの在り方はいいが、俺から言える事は恵まれてる環境から下を見ても本当の弱者の気持ちも悪に染まる人の気持ちも分からないよ。
価値観が違い過ぎるんだ。
人は十人十色だ。サイラスの平和や幸せの定義が全てではない。
オマエの夢は途方もない事なんだ。
犠牲になる者が出ないなんて無いのかも知れない。
けど、諦めてしまったら、そこで終わりだ。
完成しなくても終わらせない為に夢を描き続けろ。
オマエ一人が全てを築き上げられるなんて傲慢だと理解しろ。
オマエが間違えたら民が教えてくれる。
暴動や暗殺と言う形でな。
オマエが思う悪を消しても、新たな悪は生まれてしまうんだ。
消しても無駄だとは言わない。
消したきゃ消せばいい。でも自らの手でやれ。
誰かに押し付けるな。
それが、オマエの覚悟に繋がる。
遣り切れ。オマエがやりたい様にな。
民にも色んな奴がいる、自ら切り拓ける者。
道を示され無ければ進めない者。何もかも他人に依存する者。
まとめようと思うな。
正解なんてないんだ。
理想を描けるだけオマエは凄いんだ。
現状に甘んじない気持ちが大切だ。
それと、俺が生きてる内は情報操作とか情報集めくらいなら手伝うよ。家族としてな。
闇に紛れてる組織も存在するけど、あっちも色々だ。必要悪みないな奴等が、本当にヤバい悪を片付けてくれると思うよ。
あっちは、あっちの世界がある。
闇のルールみたいなものかな?
貧民出身の、自ら勝ち取って作った組織は掟があるからね。
オマエが知らない所で、オマエの役に立ってると思うよ。
何でもかんでも潰すなよ。
全体を良くしても下層は存在してしまう。
下層の中で居場所を作ってやってる奴等がいる事は覚えておけよ。逃げ場は必要なんだ。
輝きが眩し過ぎて活動できない夜行動物みたいにね。
サイラス、たまには変装でもして街を見て回れ。
世の中は広いぞ。高い位置から見てては分からない事だらけだ。
書類ばっか見て貴族の相手しかしてないと見失うぞ。」
そう言うウィルにサイラスは
「分かった。
もっと若い頃に言って欲しかったよ。まったく。
まだまだ引退はできないな。
俺さ、息子に聞こうと思ってる。
本当に王なんかになりたいかってね。
嫌だと言うなら、王家も貴族も解体する。
形を変えようと思ってる。
俺が出来る選択だ。
死ぬまでに、やれるとこまでやるよ。
今まで、ありがとな兄貴。そしてローズマリーも。
そして、これからも家族として宜しくな。」
三人で微笑み合った。
すると、女神が言う。
「貴方達の物語は、本当に終わりそうね。
もしも、サイラスが王家を解体するなら女神アルティアの存在も終わりかしらね。
私の存在がなくなる訳ではないけどね。
この姿と名が無くなるだけよ。
大いなる神の計らいなのかも知れないわね。
長く執着したものね。」
そう言って哀しげな表情になった女神だが直ぐに笑顔になり
「けど、良かったわ。
みんな、過去と決別出来そうね。
本当の新しい人生の始まりが出来そうね来世は。」
3人で苦笑いになる。
前世も来世も、今は何でもいいよって感じだ。
聖霊たる神は、いつも高い視点でものを見る。
大きな流れを見ている。
けれど、ある時から小さな点に執着したのだろう。
それが、女神アルティアだ。
女神は、いつか姿を消すのだろう。
それは今ではない。




