89 成人を機に新たな旅立ち
この国の成人は15歳だ。
昔からそうだ。
何代か前の国王が魔法学園を立ち上げ成人した者で魔力量が多い者を対象に学びの場を設けたが、平民達は子供を早くから働かせるのが普通だったから成人の年齢が早かったままなのかもしれない。
子供達も高等部に進級したと言う事は、成人なのだ。
これを機に、それぞれの希望を叶える為に改名し養子縁組をする事とした。
ノワール公爵家の嫡男にカイ改、エルバード・ノワール。
高等部で2年間の学びを経てから教師としてウィルの力になる事から始める。
二男にリク改、ジェード・ノワール。
平民としてでは無く、私達の子供として養子縁組をお願いした。
表向きは、学校の職員としてウィルの補佐の様な立ち位置をして貰う。
そして、ハンデルン男爵の爵位をサイラスにお願いして伯爵に昇格して貰った。
領地経営の功績とか何とか理由を付けて。
ハンデルン伯爵家の嫡男としてクウ改、リアム・ハンデルン。
一人だけノワール家から出るので、名はウィリアムからとってリアムにした。
本人の希望でもある。
ベルナルドと養子縁組をして、ある程度の歳になるまで実質の領地経営をしてるベルナルドの部下に仕事を叩き込んで貰い、早々に当主になって貰う予定だ。
ベルナルドは、早く解放して欲しいらしい。
手続きの書類にサインして、さっさとサイラスの印を押させる。
ジェードとリアムは、学校の卒業手続きも済ませた。
これで、子供達の新たな旅立ちだ。
親として見守るのは同じだが、巣立ちでもある。
リアムはベルナルドが、ほぼ使ってない屋敷に住む事になる。
改装したいなら好きにして良いと言ってある。
エルバードは、寮暮らしのままだ。
けれど、理事長室にはちょくちょく来るので顔を合わせる事は多い。
そしてジェードは、寮を出て家に帰ってくる。
部屋は好きに改装しても良いと言ったが学校に行く前の部屋のままで良いと言う。
気に入ってるようだ。
リアムがハンデルンに行く前日に家で、ささやかな成人おめでとうパーティーを開催した。
家族だけの、パーティーだ。
「エルバード、ジェード、リアム。
それぞれの、これからを祝して乾杯〜♪」
そんな掛け声で始まったパーティー。
エルバードがワインの味が無理だったのか吐き出してしまう。
それを見て皆んなで笑ってしまう。
ジェードが
「エルバード、オマエは酒も飲めないのかよ。
ワインくらい飲める様にならないと公爵家嫡男の名が廃るぞ。
酒は男の嗜みだぞ。」
そう言って揶揄う。
「ちょっと、見た目がブドウジュースみたいで飲んだからビックリしただけだ!
煩いなっ!オマエな手続き上は俺が兄でジェードが弟なんだからなっ!忘れんなよ。
前から自分が兄貴みたいにしてたけど、逆だからな!」
そう言い返すエルバード。
それを見てたリアムはケラケラ笑ってる。
5歳から一緒に過ごした三人は、本当の兄弟のようだ。
それを、私とウィル、それに使用人たち番犬が微笑ましく見つめる。
そしてベルナルドが
「オマエ達、成人したのにガキだな。
リアム、一人だけ俺の子供になっちまって
ウィリアムとローズマリー恋しくて泣くなよ。
最初は、俺もちょくちょくハンデルンに行ってやるけど俺はウィリアムとローズマリーみたいに甘くしてやんねーぞ」
そう言われたリアムは答える。
「別にベルナルドさんが甘やかしてくれるなんて思って無いしね。
表向きだから、俺の父さんと母さんは変わらないよ。
ベルナルドさんは父親じゃないからねっ!」
と、プイッと捲れる。
可愛くて、思わず抱き締めてしまう。
「リアム〜。
そうよ。私達が、貴方の親よ。
ベルナルドは、ただの家族よね〜。」
そしてウィルも言う。
「何、急に父親ズラしてる。
ベルナルドも父親になりたくなったのか?」
と笑い出す。
「違う。何言ってんだ。子供なんているかよ。
煩わしい!」
ベルナルドは、そう言うが
家族として今では、心を砕くようになった。
家族とは何だと言っていた昔のベルナルドは居ない。
ただ、その分の感情が邪魔をするのだろう
今までの経験があるからこそ、子供を作りたがらない。
自分が親になってはいけないと思っている。
そして、エリアーナを愛しながら、いつでも他の男と結婚しても良いとまで言っている。
形を残したくないみたいだ。
エリアーナは、それを含めて受け入れている。
ベルナルドの側に居ることだけを望んだようだ。
二人にしか分からない関係なのだろう。
私もウィルも最初は結婚を勧めてハンデルンの領地で領主として妻を貰う形で、普通の幸せもあると言っていたのだが、それを望まなかった。
二人が決める事だからと、私とウィルは途中から言うのを辞めた。
それから、飲んで食べて騒いで。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
そして、子供達と私とウィルだけが残った。
他の者達が気を遣ったからだ。
リアムが話し始めた。
「父さん、母さん。
今まで、ありがとう。
俺、この家に来る前のことは正直あんま覚えてなくて。
ぼーっとしてたし、考えるのもめんどくさかったし。
何となく生きてた感じだったんだ。
俺は恵まれてる。親は誰だか分かんないし気付いたら孤児院に居たし、あんまり不便もなくて。
でも、この家に来て色んな事を教わった。
勉強も鍛錬も遊びも、めちゃくちゃ楽しかった。
毎日が新鮮で、毎日が幸せだった。
拾ってくれて本当に有難うございました。
ハンデルンは、任せて。
もっと豊かにする。
で、ノワール家の財政を益々カバーするね。」
そう言ってくれる。
私とウィルは、ちょっと感動しちゃってる。
するとエルバードが
「ズルいぞ。
俺だって、父さんと母さんに感謝してる。
リアムだけ、一人でハンデルンに行くし
確かにノワール家の財政が豊かなのはハンデルンのお陰だ。
でも、俺だって
父さんと母さんに恩返しするぞ。
俺は、この家に来るちょっと前まで親に育てられてた。
けど、父親が死んで母親に捨てられた。
育てる金が無かったんだと思うよ、今思えばね。
哀しみしか無かった。
けど、この家に来て父さんと母さんが愛してくれたから直ぐに哀しみが消えた。
単純だよな俺。
愛してくれるなら誰でも良かったのかもしれない。
けど、捨てられた子供を愛してくれるなんて早々居ない。
父さんと母さんは普通じゃない。
本当に有難いよね。
だから、教師から少しずつ父さんの仕事を楽させてあげたいよ。
俺ね、番犬の仕事はしたくないんだ。
街で、母親に会いたくないから。
もし、母親が食う為に悪事に手を染めてたら…。
俺は、母親を手に掛けられない。
自分がやらなくても知ったら哀しい。
だから、ジェードが俺達の分まで背負うんだろ?
ごめんな。」
この前のジェードの告白もそうだが、家に来る前の子供達の事を、初めて知る。
「馬鹿だな。エルバードは。
確かに、初めは俺達は番犬として拾われたんだと思うよ。
けど、分かるだろ?
普通に育てられただろ俺達。
初めの内から父さんと母さんが、本当の子供みたいに愛してくれたろ?
俺は自ら望んだんだ。
オマエ達の代わりにやるんじゃない。
オマエ達と違って、俺の過去は血生臭いんだ。
普通の幸せを生きれる自信がないんだよ俺は。
だから、謝るのは無し!
負目とか感じんなよ。
背負わされたなんて思ってないし。
俺の望みなんだよ。
俺みたいな子供を、この世から無くしたいんだ。
それだけだよ。」
そう言うジェードにエルバードが黙り込んだ。
そしてウィルが三人に話し掛ける。
「オマエ達の気持ちは嬉しいよ。
けどな、僕とローズはね、少しだけ自分達の自己満足でウチに来る前の心のケアを怠った気がしてるんだ。
すまなかったね。
あの頃の僕たちは若かったのもあるし
貧民街の現状や、そこに住む人達の気持ちも本当の意味で理解してなかった。
僕達は、恵まれ過ぎた環境で育って想像しか出来なかった。
とても綺麗事での想像だ。
番犬として影として失格だよ。
それで、親ズラしてさ。
それを感謝されるのは、本当に嬉しいけど。
感謝してるのは僕達の方だよ。
ありがとう。
俺達も、希望に満ちた子供を駒として使おうとしてたんだ。
最低なんだ。
罵られても良いくらいだよ。
馬鹿な王族がっ。馬鹿な貴族がってね。
オマエ達には、その権利がある。
その代わり、僕達は死ぬまでオマエ達の面倒を見るよ。
これからも、何かあったら相談して欲しい。
気を使わずに、良いように利用しなさい。
喜んで、利用されるから。」
そう言って、頭を下げた。
私も、一緒に頭を下げる。
三人は、「辞めてよ。」と言って抱き付いてくる。
暫く、肩を寄せ合って触れ合った。
「さっ。
なんか、湿っぽくなっちゃったね。
明日からリアムがハンデルンに行くのよ。
笑って送り出さなきゃ。
楽しい話をしましょ。
お酒が足りないのかしら?
ハンデルンの林檎酒でも飲む?
甘酸っぱくて美味しいわよ。
今、持ってくるわね。」
そう言って取りに行く私。
するとウィルが後から着いてきて
「ローズ。
あの子達で、本当に良かったね。
そして、普通に育てて良かった。
あの時、駒として番犬として育てる選択をしなくて本当に良かった。
あの時、選択を間違ってたら後悔したよね僕たち。
ありがとう。ローズ。
君のお陰だよ。」
それは違う、ウィルのお陰だ。
「何を言ってるの?
ウィルが、僕の遣り方でって番犬を家族って言ったのよ。
ウィルのお陰だよ。
私は、何も言ってないわ。」
そう言うと
「ありがとう。
君が、あの子達を自分の子供にするって言ったのに。
僕が、子供を望まなかったから。」
そう言いながら、お酒を持って戻ろうとすると子供達が
「まだ〜?またイチャイチャしてるんでしょ?
早く〜、戻ってきてよ。
俺達が寝てからイチャイチャしてよね〜。」
そんな事を言って叫んでる。
ウィルと顔を合わせて笑ってしまう。
そしてウィルが
「イチャイチャして何が悪いっ。
オマエ達は、少しは気を使えよ〜っ。
ローズを独り占め出来るのは僕だけだぞ〜。」
とか言ってる。
呆れてると、軽く唇にキスされて手を引っ張られる。
「さっ行こう。」
三人の元へ歩き出す。
「父さんの母さんに対する愛情っぷりはヤバいよな。」
そんな事を言いながら笑う三人。
血の繋がりは無い親子。
けれど、絆で繋がれる家族だ。
ずっと大切にしたい。




