88 子供達の夢
何度となく巡る季節。
春の訪れ。
高等部に進級した子供達。
子供とは、あっという間に育つものだ。
それだけ、私も歳を取った訳だけど。
学校卒業までに、ある程度の夢を描いておけと言ってあったからか
卒業前から、自分の方向性は決まった様だ。
リクは、ベルナルドを尊敬していて
ベルナルドの様になりたいと言う。
カイは、ウィルの様になりたいと言う。
それは、ノワール家を継ぎたいという事だ。
クウは、ハンデルンの街が大好きだから
領地運営をしながら街の民達と街を守りたいと言う。
その話を聞いて私とウィルは、夢を描いてくれる喜びと、その為に出来る事を考えた。
まず、カイを私達の養子に迎える事。
クウは、表向きベルナルドが領主を務める
ハンデルン男爵家、表向きベルナルドの養子に迎える。
そして、リクは平民のまま2人の弟を支えながら
私達が影を引退するまで支えたいと言うのだ。
それで、いいのかと私は悩んでしまう。
そして、考えさせて欲しいとリクに時間を貰った。
「ねぇ、ウィル。
あの子は、番犬を本当に理解してるのかしら?
当初は、番犬にしようと思って拾った子だけど
自分達の子供のように育てたのよ?
本当に汚い部分を見せてない。
ベルナルドに憧れてるのは知ってたけど
どぉ〜したものかしら?」
困り顔でウィルに問えば
「確かに、僕達の子供の様に育てた。
でも、幼い頃の記憶はあると思うんだ。
5歳だよ、迎え入れたのは。
それまでの生活が良かったとは思えない。
初めて会った日のリクを覚えてる?
生意気そうな顔で僕達を睨んでた。
大人なんて信用してない顔だ。
あの子はあの子なりに、幼いながらに
世の中の闇に触れてきたんだと思う。
大きくなって薄れる記憶でも
心に刻まれたものは消えない気がするんだ。
僕達に懐きながら、ベルナルドに憧れてるのは
同じ匂いを嗅ぎとっての事かも知れない。
あの子は明るく活発で陽気に見えて一番
心に闇を抱えてるかも知れないね。
魂の記憶の中のサイラスの様に。
弱き者が泣くのが許せないだろうね。」
そうなのかとも思う。
しかし、自分の子供だと思うからか
同じ道を歩ませたくないとも思ってしまう。
ベルナルドだって、エリアーナと愛し合っても結婚もしない。子供も要らないと言う。
何も背負わせたくないと言う表れだ。
何も残したくないと思っている。
そんな生き方を望むなんてとも思ってしまうのだ。
「確かに子供は親の所有物じゃない。
子供には子供の人生があるわ。
親心って複雑ね。
良く分からない普通の幸せの定義に当てはめて
その普通の幸せを感じて生きて欲しいなんて思っちゃう。
駄目ね。
自分は好き放題、生きてるのに。
笑っちゃうわね。」
苦笑いになってしまう私にウィルは言う。
「分かるよ。
平穏な生活を送って欲しいって親心はね。
でも、子供達は大人になってく。
僕達みたいに、親の想いも無視して突っ走る。
勝手にね。
僕達の都合で引き取って、僕達の都合で
あの子の想う未来を奪うのは良くないね。
さて、リクの本気度を試そうじゃないか。
次の仕事を手伝わせるよ。
計画の時点で躊躇したら不合格だ。
それでいい?
僕は、あの子は躊躇しないと思うけどね。」
そう言って微笑んだ。
確かに、覚悟の問題なのかも知れない。
理想と現実は違う。
どれだけ覚悟を決められるかなのだ。
「分かったわ。
私も覚悟を決めるわ。
あの子の覚悟を受け止める覚悟を。
それと、養子縁組の時に名前を新たに変えましょう。
リク、カイ、クウなんて安易すぎたわ。
適当につけちゃった自分で言うのもアレだけど。
ちゃんと、名付けてあげましょう。
本人達の希望も聞いて。」
その言葉にウィルがケラケラ笑う。
「確かにね。
学校に入学する時にでも変えとくんだったね。
今更かって子供達に叱られそうだよ。」
そう言いながら笑い続けている。
高等部は、2年間だ。
その間に優秀で仕事に就ければ飛び級で卒業出来る。
クウは、学力も魔法の扱いも経営学も優秀だ。
直ぐにでも卒業して養子に出来る。
カイは、学力や魔法の扱い教育学、それぞれに優秀ではあるが本人は、ウィルの跡を継ぐ為にもっと学び、いつか理事長にと思ってる様だ。
その為、2年間の学びを経て教師からやりたい様だ。
そして、リクだ。
全てにおいて優秀ではある。
2年間の学びを魔法や魔術、魔道具などに当てても良い。
でも、ベルナルドに付いて学んだ方が良いのだろう。
全ては、本気度テスト次第だ。
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【リク視点】
その日、理事長室に呼び出された。
そして、そのまま家に転移で連れて行かれた。
父さんと、母さんが真面目な顔で俺を見据えている。
「なんの話ですか?
俺の、夢の話ですか?
俺の気持ちは変わりませんよ。」
そう言うと、父さんが話し始める。
「そうだろうな。
僕達が、何を言っても変わらないと思うよ。
だから、リクの本気度を見せて貰うよ。
オマエが、生きようと思う人生は
甘くは無いよ。
色んな可能性を捨てなきゃならない。
他の生き方なら、途中で軌道修正は出来るだろう。
でもな、一度でも手を汚せば後戻り出来ない。
分かるな?
ベルナルドに憧れてるのは知ってるが
アイツの様に、家庭も持たずに生きる覚悟はあるのか?
確かに、僕達と言う家族は居るが
その内、愛する女が出来て守りたい者が出来た時に後悔しないか?
僕の様に、愛する女が同じ運命を背負ってくれるとは限らないぞ。
それに、ベルナルドとエリアーナの様に
結婚しない選択をして更に一緒に居てくれるとは限らない。
エリアーナは、ベルナルドの想いを受けて自分は手を汚す仕事はしないまでも
ベルナルドの全て含めて背負う覚悟をしてる。
愛する女に、それを強いる覚悟が必要だよ。
その事を考えてから、テストを受けるか考えろ。
猶予は、二日だ。」
俺は試されてるらしい。
即答で答えたい所だけど…。
「まだ、愛する女が出来るかさえ分からない。
考えた事も無かった。
今の時点で、女なんか興味はない。
俺を捨てた女が酷すぎて、女は嫌いだ。
ごめん…。母さんは別だよ。
俺、先の事は分からない。
いつか本気で惚れる女が現れたとして
そしたら、やっぱり母さんやエリアーナさんの様な女がいい。
一緒に背負ってくれる女。
あの女みたいな奴は嫌だ。
男に愛される事ばかり望んで、捨てられたら殺す様な女なんか嫌だ。
あの女、俺まで殺そうとしやがった。
言って無かったけど…
俺は、自分の実の母親を殺した。
ガキだったから、首を絞められて逃げようと必死で魔力を暴走させた。
やっちまった後、哀しくも後悔もなかった。
ざまぁみろって思った。
あの女を最初から母親なんて思った事もねぇ〜
あの女が殺した男が、俺の本当の父親かさえ分からない。
ガキだったけど、記憶は鮮明に覚えてる。
必死で生きてた時にベルナルドさんに拾われた。
父さんと母さんに会わせられた時は
俺は売られるのかと思ったよ。
奴隷かなとかな。
普通の子供として育ててくれて有難うな。
感謝してる。本当に。
でも、俺さ
ガキの頃の記憶が鮮明過ぎて普通の幸せとか生きられる自信ないんだわ。
忘れらんないんだ。
本心で笑って平和を楽しむ自信ない。
代わりに、兄弟の様に育ったカイとクウの平和な人生を応援したいよ。
それじゃダメか?
覚悟、足らねぇか?」
俺の話を聞いてた父さんと母さんが何かを悟るように顔を合わせて目で会話してる。
そして、父さんが言う。
「オマエが、他の子より心に闇を抱えてるかも知れないとは思ってた。
別に過去を聞く気もなかったし、今を大事に生きて欲しい気持ちでオマエ達に何も聞かずに育ててきた。
ベルナルドにも、何も聞かなかった孤児院から連れてきたと思ってたしな。
それにベルナルドは、あの頃は他人に興味なかったからな。
オマエ達の事もベルナルドの感で選んだと思う。
引き取って最初に聞いてやれば少しは心の傷を引きずらずに済んだのかも知れないね。
僕達の至らなさだよ。ごめんね。
こっちの都合で引き取って勝手に自分の子供みたいに育てた。
僕達の自己満足だな。
感謝される義理も無い。
有難うは、こっちのセリフだ。
これからは、オマエを一人の男として見る。
オマエの様な子供が居なくなる様な世界にしたいな。
でだ。
どうする?
直ぐに卒業してベルナルドに付くか?
二日後の仕事は、オマエも参加しろ。
覚悟は決まってるんだろ?」
今度は、即答で答える。
自信を持って
「直ぐに卒業して、ベルナルドさんの下に付く。
完璧に仕事はこなす。
父さん、母さん。
これからも、二人の子供で良いよな?」
そう言うと二人とも「もちろん」と微笑んだ。
俺は、本当の親からの愛は受けてない。
けど、この二人から沢山の愛を貰った。
そして、これからも。
この二人と出会えたから、ガキの頃の俺と同じ様な奴が居なくなれば良いなんて思える様になった。
出会ってなかったら、世界を恨んで壊して自分さえ壊してたと思う。
そして、拾ってくれたベルナルドさんに感謝だ。




