87 ある日の兄弟
ある日の午後。
ウィルと二人で、学校の理事長室で雑務をこなしていた。
積み上げられた書類に目を通し許可の印を押す。
通すか通さないかを相談しながらなので時間が掛かる。
そんな時、いきなりサイラスが姿を現した。
いきなり現れたサイラスの気配にビクッとなる
「ちょっと、いきなりビックリするわっ!
それに、国王なんだから無闇矢鱈に転移してこないでよ。」
そう抗議しながら結界を張る。
防音は勿論の事、外から中が見えないようにする為だ。
「いいだろ別に。
国王だって、たまには息抜きしたい。」
開き直るサイラス。
呆れてしまう私。
「で、ただの息抜きなのか?
こっちも書類の山だ。仕事は増やすなよ。」
そうウィルが冷たく遇らう。
するとサイラスは急に甘え出した。
「冷たくするなよ〜。
俺を甘やかしてくれるって前は言ってただろ?
最近、冷たくないか?
毎日、俺だって国王として頑張ってるよ。
でも、堅苦しいし精神的に疲れる。
ずっと仮面付けてるのも楽じゃない。
たまには、息抜きもしたいだろ。
それに、アリーや子供達の前では
流石に甘えられない。
大事にすればするほど、甘えられない。
俺を甘やかしてくれるのは
兄貴と義姉貴しか居ないだろ〜?」
仕方ないから、紅茶を入れてあげる。
「まったく。
死ぬまで、僕たちに甘える気か?
アリアナにくらい甘えろよ。
子供達の前では仕方ないが、妻には甘えたらどうだ。
オマエは、愛する女に弱みは見せられないのか?
結婚して何年経つんだ。
家族なんだから曝け出せ。
甘やかしてやるとは言ったが、頻度が高過ぎる。
僕たちも暇じゃないんだよ。
オマエの為に教育改革したんだぞ。
規模がデカくて大変なんだ。」
山の様な書類を裁いててイライラしてたのだろう。
今日のウィルは機嫌が悪い。
「サイラス。
今日は、タイミング悪いわね。
ウィルは、ご機嫌斜めよ。
お兄様の日頃の鬱憤が仕事になって現れたからね。
嫌がらせなのよ。
本当、お兄様も子供よね〜。
でも、サイラスもアリアナに甘えたらいいじゃない。
女は甘えられるのも嫌いじゃないわ。
逆に、いつもカッコ付けてるのに、たまに甘えて来たらギャプ萌えなんじゃない?」
そう言うとサイラスが
「ギャプ萌えってなんだ?」
あっ通じなかったか。
「いつもと違う一面が見れて惚れ直すって事かな。
可愛い〜ってキュンキュンしちゃうみたいな。」
説明すると、
「恥ずかしい。
なんだ、可愛いって。
俺は、いつまでもカッコ良くありたいの。
二人とは違うのっ。
良いじゃないか。
カッコイイ夫と父で居たいと思っても。
子供達には、憧れられたいし。」
私が、はいはい。と流すと
「ちゃんと聞けよ。」
と怒るサイラス。
呆れるウィルが
「本当、オマエは形に拘るな。
中身がスカスカだ。
馬鹿で可愛いよ。
サイラスが可愛過ぎて泣けてくる。
僕とローズは捌け口か。
所で、ココに来るって言ってあるのか?」
そうだ。そこが肝心だ。
「言って来た。
流石、ノアだよな。
俺を理解してる。
ちゃんと仮面付けて国王の仕事してるから兄貴の所に行くのは、仕事を終わらせればすんなり許してくれるよ。
息抜きも大事だって。」
なるほど、私たちに機嫌を取らせた方が効率が良いと思っているのだろう。
確かに、流石ノアだ。
「アイツ。計算高いな。
さて。
甘やかさないとコッチの仕事も終わらない。」
そう言ってウィルがソファーの方までやって来て
サイラスに抱き付き頭を撫で始めた。
とても雑に。
それでも嬉しそうに愚痴り始めるサイラス
「聞いてよ。
俺が、腹の探り合いとかオベッカは要らないって言ってんのにアイツら遠回しな言い方ばっかだし
あからさまな媚びばっか。
貴族達って何でああなんだ。
本当、疲れる。
兄貴は、良くその瞳で完璧に付き合えたな。
俺は、この瞳のせいで疲れるぞ。
それとも、精度が違うのか?」
星屑の瞳の事か。
私には分からない。
女神の恩恵だ。
「僕は女神の恩恵を直に受けてない。
それに、聞き流してたしな。
敢えて視ないし。
コントロールの問題じゃないか?」
そう言うウィルにサイラスが
じっとウィルと私を視る。
そして
「おかしいんだ。
兄貴達の事は、何にも視えてこない。
使えないよな。
コントロールねぇ〜。
敢えて視ないって何だよ。
意味が分からない。」
そう言うサイラスにウィルが笑う。
「あははは。
オマエが僕達の心を覗くなんて
数万年早い。
コントロールは慣れじゃないか?
後は、オマエは人の気持ちを考え過ぎる。
だから、僕達以外に甘えられない。
無意識に、誰かの求める自分を演じてるからだ。
自己中心的に装ってる癖に、実は違うもんな。
誰よりも他人に愛されたいんだ。
サイラスは欲張りだ。
他に愚痴は?」
ウィルの言葉に考え込むサイラス。
そして
「そうなのかもな。
欲張りな自覚はある。
じゃ〜、コントロールは諦めろってことか?
そうなると、やっぱり
兄貴達が俺を甘やかしてくれないとな。
他に愚痴は〜…
特に無いかな?
二人で俺を抱き締めろ。
落ち着くから。」
サイラスは、愛に飢えてる。
と言うより欲張りなだけなのだろう。
口悪く突っかかる事しか出来なかったサイラスは今は居ない。
全力で、素直に甘えてくる様になった。
私達には照れもせずに。
「「まったく」」
私とウィルは二人で呆れながらサイラスを両脇から抱き締める。
そして、ぎゅーぎゅーと抱き付き脇腹を両側から擽ぐる。
「辞めろ〜っ」と笑いながら叫ぶサイラス。
三人で笑い合う。
笑い過ぎて涙を流しながら笑う。
疲れ果てた頃、サイラスが言う。
「俺、幸せだわ。
兄貴と義姉貴が居て俺が居る。
こうやって馬鹿みたいに笑い合って
俺の我儘に付き合ってくれる。
有難うな。
2人共、愛してるよ。
これからも、宜しくな。
それに、視えないけど
分かってるよ。
俺の綺麗事に付き合ってくれてありがとな。
2人だけで無理しないでくれよ。
俺も手は下さないまでも背負うから…
俺のせいにしてくれ。
さて、帰るよ。
そろそろ戻らないとノアに嫌味を言われる。
また、来るな。」
そう言って紅茶を飲み干し消えて行った。
慌ただしい奴だ。
「はぁ〜、帰ったな。
急に来て急に帰るとはな。
アイツ、僕とローズの心を覗く為に来たのか?
勘づいてはいる様だな。
あの瞳で、アイツは何処まで魂の記憶を視たんだろうな?
僕との視え方とは違う気がするよ。
はぁ〜
僕も疲れた。
リュカの奴、嫌がらせにリュカが忙しくなる様な書類だけ印を押すか。
それとも、ローズが怒ってくれる?
もぉ〜、あの量は異常だよ。
最初から厳選して持って来て欲しいもんだ。
ローズ。もう少し休憩しよ。
せっかく結界張った訳だし
イチャイチャしよ〜。
ローズ不足だよ。
君の温もりを感じたい。」
そう言って抱き付いてくる。
「もう」と言いながらも受け入れる。
少しの間、唇を何度も重ねて絡み合う。
理事長室での秘め事は、何だかイケナイ事をしてる様で甘美だった。
結界を解除される気配を感じ慌てて服と髪を整える。
ウィルと何気ない顔で、紅茶を啜る。
すると、結界が砕けちり兄が入って来た。
「何やってた。」
怪訝な顔で聞いてくる。
紅茶のカップを指差して、私が言う
「ご覧の通り、サイラスが来てたのよ。
国王が居たらビックリしちゃうでしょ?
だから、防音と外から見えない様にしてたの。
さっき帰ったわ。
お兄様も紅茶でも飲む?」
すると、兄が
「2人とも、唇以外に紅が付いてるよ。」
思わず二人して慌てて口周辺をゴシゴシすると
「冗談だ。分かり易いな。
まったく、場所を考えろよ。
結界を解除出来るのは俺だけじゃない。
優秀な教師をオマエ達が選んだんだぞ。
少しは気を付けろ。
仕事を与え過ぎたかと反省して手伝いに来たが
やっぱり、オマエ達がやれ。
じゃ〜な。」
そう言って出て行こうとする兄にウィルが
「待て待て待て。
仕事は手伝えよ。
サイラスが来てたのは本当だ。
ちょっとキスしてただけだ。
休憩の合間に、ちょっとだけ。
息抜きだ。
リュカ、意地悪しないで手伝えよ。
手伝わないなら、休み取らせないぞ。」
それは困ると、結局は手伝う兄。
今日は、弟やら兄やら訪問が多い。
家族の関わりが良好なのは良いことだ。




