⑥ サイドJ ヒデオ その4 遅れてきた勇者
「みんな、向こうについたら動かないでくれ。たぶんスタート地点は同じ場所だ」
パーティーメンバーの位置がわかるといえ、離れすぎては、助けにいけない。
出来れば、先に転送された魔法少女も動かないでいて欲しい。
『出席番号 38番 カナさん』
「ヒデオさん、待っています」
車椅子のカオリが先に送られる。
くそっ、俺が先なら良かったのに。
どうか無事でいて欲しい。
しかし、不思議な感覚がある。
俺は高校生のはずなのに、人を救う仕事をしていたような、そんな記憶がたまに蘇る。
消防士の格好をした大人になった自分の記憶の映像。
未来の映像なのか。
何故、こんなものを見るのか。
『出席番号 39番 ヒデオ君』
名前が呼ばれると急に目の前が真っ暗になる。
浮遊感とともに身体が液体になって流されていくような感覚。
気がつけばそこは広大な草原だった。
周りを見渡すがカオリの姿は見当たらない。
まずい。同じスタート地点でもかなり広いのでバラバラになってしまったようだ。
携帯を取り出してパーティーの位置を確認する。
携帯に写し出されたマップでは北北西に二キロの位置にカオリのマークが点灯していた。
急がないといけない。
カオリは車椅子な上、後から他のメンバー達が十一人もやって来る。
上空を見上げると巨大なドラゴンが何匹も飛翔している。
カオリの方に向かって走る。
その時、前方で大きな光と共にとてつもない爆発音が鳴り響いた。
草原から煙が立ち上がる。
ドラゴンが炎を吐いたのか。
かなり距離はあるのに、近くで雷が落ちたように大音量が身体を震わせた。
火。草原が火の海に染まる。
いきなり、頭に映像が蘇る。
炎に包まれる世界。
消防服を着た俺。
逃げ惑う人々。
一人でも多く助けたい。
だが目の前で次々と死んでいく。
絶望感が全身を襲う。
世界の終わり、そんな記憶が頭に浮かぶ。
「違うっ」
記憶を振り払うように叫ぶ。
そんなことは体験していない。
俺はまだ高校生だ。
これはきっと、ゲームの主催者が見せる幻か何かだ。
自分に言い聞かせて走る。
助ける。助ける。助ける。
自らを奮い立たせるよう歌を歌う。
遅れて来た勇者達。
あの時も歌っていた。
いや、あの時など存在しない。
「あああああああっ」
叫びながら草原を走る。
胸まで伸びた草を掻き分けながら走る。
ただひたすら走る。
マップを確認するとカオリまでの距離はあと僅かだった。
草原の中、草陰にある車椅子を発見する。
「カオリっ」
叫んで近づくが返事はない。
そこには車椅子だけが無人でポツンと置いてあった。
「どこにっ」
カオリは草陰に隠れているのか。
携帯のマップを確認する。
自分がいる位置とカオリの位置が重なっている。
だが、姿は見えない。
ぼとん、と上から何かが落ちてきた。
車椅子の上に着地する。
丸い塊。
手に取ってみる。
カオリの頭だった。
驚いたような、泣き出しそうな、そんな顔のまま固まっていた。
カオリの頭を持ったまま上空を見上げる。
半分は機械に覆われたドラゴンが首のないカオリの死体を咥えていた。
ああ、やっぱり、遅れ過ぎた。
何もかも遅かったのだ。
マップを見る。
後から来た人達を助けなくてはならない。
カオリのマークは灰色に変わり、死亡と表示される。
各所に送られている十一人。
一人でも、一人でも多く助けなければ。
「無理よ。もう人の力では止められないわ」
また、記憶が蘇る。
誰だ?
白い、真っ白な少女が笑っている。
「始まったのよ。そして、終わるわ」
機械が世界を覆い尽くす。
阿鼻叫喚。
俺はどこで間違えたのか。
アイツを止められたのは俺だけだったのではないか。
「デウス・エクス・マキナ。物語の内容が錯綜して、もつれた糸のように解決困難な局面に陥った時、絶対的な力を持つ神が現れ、混乱した状況に一石を投じて解決に導き、物語を収束させる」
白い少女が鼻歌を歌う。
パッヘルバルのカノンか?
壊滅的な音痴なので正解かどうか分からない。
かき消そうと俺はアニメソングを歌う。
「世界の物語は今日終わるのよ。そして我が新しい世界を創造する」
「一人でも一人でも多く救うっ」
叫ぶ。だが、白い少女は首を振る。
「残念ね。誰ももう救えない。貴方が最後の一人だから」
「嘘だっ、嘘だっ、嘘だっ、嘘だぁあああああっ」
プツン、と映像が途切れる。
「嘘だ。今のはただの作り物の、記憶、だ」
頭が痛い。
うずくまる。
「イィイィイイィイィイィイィっ」
上空の機械化ドラゴンが吠えると同時に、首の無いカオリの死体が落ちてくる。
車椅子に激突し、絡まるように破壊される。
携帯を確認する。
やって来たパーティーメンバーのマークが次々と灰色に変わっていく。
草原の一部が真っ黒に染まっていた。
全ての関節が逆に曲がったまま、ケラケラ笑いながら四つん這いで疾走する女が見えた。
首がグルグル回っている。
機械化ドラゴンが悲鳴を挙げながら墜落している。
上に全身機械の何かが乗って奇妙な雄叫びを挙げている。
ああ、もう終わりなんだな。
絶望の中、実感する。
俺はこの絶望感を知っている。
目の前にカオリを殺した機械化ドラゴンが降り立つ。
剣を握る気力もない。
歌を歌うことも出来ない。
俺は遅れてしまった。
もう、誰も救えないのだ。
アイツはここにいるのだろうか。
もし、いるのなら一言だけ言いたかった。
俺が最初に助けなければいけなかったのはお前だったと。
機械化ドラゴンの牙が眼前に迫り目を閉じる。
遅れてきた勇者は誰も救えないまま終わりを迎える。




