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ガレキ  作者: がっかり亭
30/46

No where =Now here

タカラのアトリエ。

 この三日間タカラはここから出ていない。

 食事は一日二回――一日三食は地球の先進国で近代生まれた習慣である。このアンダーゲイトでは二回が普通――エポナが届けてくれる。

 それ以外で人と会うこともなかった。

 ここに閉じこもり、何をしているかは本人しか知らない。

「……ダメだ。やっぱりこれはよくない。卑怯すぎる……」

 タカラは、プラスチックの塊のようなものを部屋の隅のゴミ箱に投げ捨てた。

「くそっ……じゃあどうする? どうすれば勝てるんだ!」

 がんっ、

 彼は思わず壁を叩いていた。

「ひゃっ!」

「え?」

 その音に驚いたらしい声がドアの向こうからした。

 タカラがドアを開けると、そこにはレキが立っていた。

「あ、あの……その、こんにちは」

 レキは気不味そうに笑顔を作り、手を振った。

「どうしたの?」

「それは……気になるじゃないですか。……あれからずっとこもりっきりなんですから……」

 両の人差し指を何度も合わせもじもじと言うレキを見て、タカラは訪問の意図を理解した。

「ごめんな」

「へ?」

「心配させて。でも大丈夫。そういうんじゃないんだ(、、、、、、、、、、、)」

 タカラはにこりと笑った。

 目の下にはクマがあり、頬もややこけているが、その笑みに偽りはない。

「あいつはまた来るって言ってた。だから、ずっと考えてたんだ。どうやったら勝てるのかって。……でも、ダメだった」

「タカラさん……」

「だから、大丈夫だって。おれの心は折れてない」

 どん、と自分の胸を叩く。

「相手は硬度の高い鎧と、素早さを同居させてる。これは反則だよ。どうにもならない。だから同じ土俵で戦っても、多分勝てない」

「だったら、どうすれば……」

「特化するしかない。こっちの強みは、速さ。極限まで軽量化すればあるいは……」

「なぁんだ。じゃあ、そうしましょうよ」

 笑って言うレキだが、タカラの表情は暗い。

「リスクが大きすぎる。それだと一撃でも受ければレキは粉々に破壊されてしまう! 痛みに耐える覚悟はある。でも……レキが粉々になるなんて……おれには見れないよ!」

 大きく開いたタカラの両手はふるふると震えていた。

「……くそっ、心は、折れてないはずなのに……っ」

「タカラさん」

 レキはすっ、とタカラに一歩近付き、その手を取った。

「大丈夫です。私は一人で戦うわけではありません。タカラさんがいるんです。だから大丈夫ですよ」

「何で、何でそんなにおれを信じられるんだ。……マイスターだから?」

「違います。あなたは、世界で、一番優しい人。一番情熱のある人」

 レキはタカラの頭を抱え、そのまま自分の胸元に抱きこんだ。

 自分で作っておいてなんだが、理性を失いかねないほど柔らかい。

「ちょ、な……」

「あんなに心を込めて神体を作れる人はいません。みんな、何か目的があって神体を作ります。富、名声、地位……人によって違います。……でも、ただ純粋に神体を作った人は、きっといません。そんな情熱をもった人はいません」

 とくん、とくん……

「聞こえますか。私の心臓の音」

「う、うん」

「普通、神体には心臓の音なんてありません。みんな、ただ強い兵器を作ろうとしいているから。あなたは違う。命を込めて私を作ってくれた。戦うためじゃない、生きた、血肉を備えたものをイメージしてくれた。世界でただ一人の『レキのためのレキ』を作ってくれた」

 レキは優しくタカラの頭を開放する。

「だから、負けるわけがないんです」

 私は、とレキは続ける。

「あなたのために、勝ちたい。国のためでも、精霊王様からの言いつけだからでもない。こんなに情熱をこめて、私を作ってくれた、あなたのために勝ちたいんです!」

「ははっ」

 タカラは思わず笑っていた。

「……おかしかったですか?」

「いいや。そうじゃない。……ははっ」

 そう。

 可笑しかったのは――


『おれは、絶対に優勝する! あいつを、優勝させる!』


「二人して同じこと考えてたなんてな……」

「え? 今なんと?」

「何でもないよ。……そうか。だったら……おれも覚悟を決めないとな」

 ぐっ、拳を握り込む。

「よし、そうと決まったらカスタマイズだ! やるよ、レキ!」

「はっ、はい!」


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