金属音
「動きを封じようとしてくる輩の対策は出来ている。まぁ、せいぜい鎖の類だろうと思ったがこんな薬品を使ってくるとは思わなかったが。どちらにせよ外装を爆薬でパージし、吹き飛ばすようにしてある。ああ、無論その下のボディがその程度のことでは壊れないように加工しているからな、安心するがいい」
「やけに饒舌だな。……先ほどまでのは演技だということか?」
ヤミタの問いに、またバインドはいやらしい笑みを浮かべた。
「ふふふん。意外は意外だったが、想定の範囲内だ。そちらこそそれは時間稼ぎか?」
「く……」
ヤミタはちらりと視線をレキに向ける。
そこでは爆破に巻き込まれてぼろぼろになったレキが、よろよろと立ちあがろうとしていた。
「図星だったようだな。だが無駄だ」
「逃げろレキっ!」
タカラは叫んでいた。
レキはそれを聞くより前に、いや、立ち上がると同時に既に走り出していた。
そう、缶二つとガラス切り、三つのスロットを使いきって通じなかった今、勝ち目はない。
そのケースも事前に考え、打ち合わせしていた。
だから、機敏に行動ができていたのだ。
「無駄だと何度言えばわかる? その神体のウリはスピードと見たが……さて、外装をパージしたフリーダのスピードと比べてはどうかな?」
にたあ、これまでになく邪悪な笑みをバインドは浮かべる。
まるでそれが合図だったかのように、土煙を切り裂いてフリーダが飛び出した。
凄まじいスピードだ。
あまりの速度に、タカラの目には銀色の輝きが奔ったようにしか見えない。
それがフリーダだと気付いた瞬間には、タカラの背を激痛が襲っていた。
「ぐあっ!」
「きゃあっ!」
レキは背中を剣で切られ、吹っ飛んでいた。
「ち、刃に先ほどのレジンとやらが付着していたか。さもなければ真っ二つだったろうがな」
もともと日本刀のように鋭い「斬る」剣ではなく、西洋の叩き「切る」剣である。
それにレジンキャストがべっとり付着してしまっていては、切れ味はないに等しい。
だが、それでも鉄パイプで殴られるようなものだ。
レキの背中は切り傷というよりもむしろ、一直線に砕け、ヒビが入っていた。深さは3センチほどで、決して浅くない。
もし同じ場所に同じ攻撃を受ければへし折れてしまうだろう。
「く……」
レキは起きあがると同時に走り出した。
それも自己判断だ。
神体は極力マイスターの指示を受けて動くことになっているが、窮地においては必ずしもその必要はない。
現にタカラは痛みのあまり倒れ込み、指示を出せる状態ではないのだ。
武士でもあるまいし、現代日本人に背中を切られた激痛に耐えて指示を出せというのは酷な話であろう。
とにかくレキは走っていた。
相手の方が速いことくらいわかっている。
それでも逃げるほかなかった。
「無駄だとマイ・マイスターがおっしゃったはずだ」
ほとんど進まないうちに、フリーダが回り込んできた。
その手には、切れ味のない剣。
「もしあんなマネをしなければ楽に破壊されたものを。この剣ではなぶり殺しになってしまうな」
憐憫もなく愉悦もなく、ただ事実を伝えるようにフリーダは呟き、剣を振った。
「きゃっ!」
「がっ!」
剣は咄嗟にガードしたレキの右の二の腕を砕いた。
折れこそしないが、亀裂が深くもう動かない。
と、今度はその反対の腕に剣がぶつけられた。
「ぐっ!」
「ぐああっ!」
もはやタカラは痛みにのたうち回るほかない。
「きゃあっ!」
更に足をかけられ、レキは転んでしまった。
「ふん……」
その様を、まるで飽きたおもちゃでも見るかのように、冷めた視線でバインドは見下ろしていた。
「フリーダ、もう楽にしてやれ。見苦しい」
「イエス。マイ・マイスター」
フリーダが、大きく振りかぶる。
逃げようにも相手の方が速すぎて、起きあがって逃げるという二動作をする余裕などあるまい。
「くっ、くそおっ!」
タカラの叫びも虚しく響くだけだ。
スライムなどの一部例外を除き、神体は胴体か頭を砕かれれば機能停止する。
故にフリーダは頭を目がけ、思い切り振り下した!
「……っ!」
タカラも、そしてレキも反射的に目を閉じた。
そこに、
ぎがっ!
金属同士がぶつかる音が響いた(、、、、、、、、、、、、、、)。




