浅知恵
「な、何だあれは!?」
バインドも大声を上げていた。
無理もない。
フリーダの全身が、白い液体でどろどろになっていたからだ。
先程まで無色透明の水だったはずである。
しかし今では見事なほどに真っ白になっていた。
だが、それは問題ではない。
「う……、く……」
フリーダはぷるぷると震えた。
だが、それだけだ。
「どうしたフリーダ! さっさと奴らを始末しないか!」
本当は走り出そうとしているのだろう。
だが、体が動かないのだ。
白いものは、液体ではない。
もうそれは凝固して、固体となっていた。
液体の状態で鎧の隙間隙間にまで入り込み、固体と化して癒着したのだ。
おまけにそれは地面で水たまりのようになり、まるで足を縫い付けるようにべったり張り付いていた。
「己に恥をかかせる気かフリーダ!」
「く……」
フリーダは固まっていない片眉を、苦しそうに歪める。
それからぷるぷると震えるが、やはり動けない。
「やめといたほうがいいぜ。それはな、レジンキャストっていうんだ」
「レジン……キャストだと?」
「特殊な二種類の液体を混合させることによって硬化する樹脂で、張り付く力は尋常じゃない。そりゃもう、床にこぼしたりした日には大惨事でね」
タカラは何かを思い出して眉を顰めた。
具体的には、床にこぼして、そんなこともあろうかと敷いていた新聞紙ごと床に張り付け固めてしまった過去を思い出していた。その時、新聞紙はまるでプラスチックのようにがちがちに固まっていたという。
レジンキャスト自体は金属に比べれば強度は低い。
だが、張り付く力は並の接着剤などとは比べ物にならないほど強力なのである。
「じゃ、行くよ。レキ! 今から武器を送る!」
「はい! マイ・マイスター!」
タカラはダイヤのガラス切りを投入した。
鉄の棒の先にちょっとダイヤがついているだけのものだ。
だが、ダイヤなら何でも切れるだろうというイメージさえあれば問題ない。
この世界でも、ダイヤは非常に硬い鉱石だという認識があることは、事前にエポナに確認していた。
「よーし! 行きますよー!」
今度はレキが走り出した。
そして、ガラス切りを構え――
「……!?」
ぞくっ、
タカラの背筋に、悪寒が走った。
「レキ……」
止まれ、そう言おうとした。
だが、加速のついたレキにはもう無理だ。
そのガラス切りが振り下ろされようとした瞬間、
「はあああああああああっ!」
フリーダが叫んだ。
びきびきびきっ、フリーダの全身のレジンに微細なヒビが入っていく。
「今度は貴様が間に合わなかったようだな。……もっとも、間に合ったところでどうにもならないだろうが」
「はあっ!」
フリーダの鎧が四方八方に吹き飛んだ。
その勢いでレジンが剥がれ散る。
それどころか、
「きゃあああああっ!」
「ぐあっ!」
破片でレキまで吹っ飛ばされた。
痛覚を共有しているタカラも痛みで呻く。
だがその痛みに歪んだ顔が、すぐに驚愕の色に塗りつぶされる。
「う、ウソだろ……」
土煙が舞い上がり、視界は悪いが、それでもどちらかが有利かくらい誰にでもわかる。
「なかなか面白いアイデアだったよ。雑魚だと侮ったことは謝ろう。だが、所詮は浅知恵だ」
にやりとバインドは笑う。




