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ガレキ  作者: がっかり亭
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珍妙な仮面

 サラセニスの森。

 ここは、ヤキャバの国との国境近くにある広い森。

 その広さに対し、あまりうまみのない森とも言われている。

 というのも、山菜や木材の質はあまりよくなく、代わりに毒きのこや食虫植物などが多いからだ。

 それはさておき、もちろんここにもスタンドが設置されている。

 どの国でも、スタンドは複数箇所に設置されているのが普通だ。

 一〇〇ヶ所以上に設置されている国もあるぐらいで、LVリバーはそう多い方ではないが、それでも七ヶ所存在する。

 なぜスタンドが一ヶ所ではないかと言えば、フィールドが多いほど戦闘のパターンが多くなり、駆け引きが高度になるからだ。

 特に相手国があまりなじみのない地形などは当然ホームの方が有利である。

 だが、そのアウェーであるバインドは余裕しゃくしゃくの表情であった。

 既に、戦闘準備は整っている。

 フリーダはこの間のダークスーツではなく、白の下地に銀の模様が施された鎧を纏っている。その姿は、まるで北欧の神話にある戦乙女のようだ。

 一方、タカラとレキの準備も整っている。

 と言っても、これといって特別なことはしていない。

 レキの姿もいつも通りの部分鎧装備である。

 その傍には、ヤミタがいた。

 今回は激戦が予想されたため、姫たちは留守番である。

 だが、ヤミタだけはどうしてもついていくと言い張ったのだった。ただ、巻き込まれた時のために鎧は着込んで来ていた。

なお、巨大食虫植物に食われながら登場したヨミーのくだりは長いので割愛する。

「逃げずに来た事はほめてやろう」

「ぬかせ」

「うむ。それでは始めるである。……バトルフィールド、スタンバイ!」

 いい加減ウケていないのに気づいたのか、わりかし普通にヨミーがそう言うと、ドーム状に光が広がった。

 範囲はおよそ一キロ。

 現在はその中心、つまり逃亡する場合はおよそ五〇〇メートル逃げる必要があるわけである。

 このスタンドが置かれている場所は、日本の森林公園の道のような、道はきちんとしているがその左右は森、といった形になっている。

 そのためフィールドの大半は森である。

 ヨミーは、そのフィールドが形成されたのを確認し、大きく手を交差させ、

「バトル……」

 そこまで言うと、思い切り息を吸い込んだ。

 そして、

「スタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……はぁはぁ……トゥ!」

 森じゅうの鳥たちが飛び立つほどの大声で戦闘開始を宣言した。

 どうやら、先ほど普通に言ったのは、この叫びのインパクトを強調するためだったようだ。

明らかに酸素のペース配分を間違えて途中で息切れしていたが。

 とにかく戦闘が始まった。

「フリーダ、遊んでやれ」

「イエス。マイ・マイスター」

 感情を現さず、フリーダが剣を構え、飛び出す。

「なっ……!?」

 速い。

 そのスピードは、タカラの予想を超えていた。

 おそらく、レキとほぼ互角。

 金属を全く使っていないレキと、金属鎧を着込んでこのスピードのフリーダ。

 それだけでも実力差は明らかだ。

 だから、タカラの動きは素早かった。

「レキっ! 今から追加武装を送る!」

「はいっ!」

 タカラがスロットに放り込んだのは、缶だった。

 大きめのペンキ缶に似たそれは、等倍されまるでドラム缶のようなサイズになってレキの前に出現した。

「盾のつもりか? 無駄だ。切り裂けフリーダ」

「イエス」

 フリーダはそれを一刀のもとに両断した。

 瞬間、大量の液体がぶちまけられ、フリーダにも降りかかった。

「うっ……」

 無色透明だが、水ではない。

「なんだこれは? 酸なら無駄だぞ。ヒヒイロニウム製の鎧にそんなものは効かん」

「レキ! もう一度送る!」

 バインドの嘲りを無視し、タカラは再びスロットに缶を投入した。

 レキの前に再びドラム缶もどきが現れ、

「ええいっ!」

 レキはそれを全力で投げつけた。

「無駄だとバインド様がおっしゃったはず」

 フリーダは、剣を一閃させた。

「バカめ! いくら雑魚でもそう何度も無意味な手を使うかっ!」

 バインドが咄嗟に叫んだが、もう遅い。

 再び無色透明の液体がフリーダの体に降り注いでいた。

「フリーダ、異常はないか」

「イエス。なんの問題も……う……」

 フリーダはやや眉を(ひそ)めた。

「どうしたフリーダ! 状況を説明しろ!」

「熱いです。あの水が混ざったところが熱を持っています」

「なんだと!?」

 ブルーマークの時と同じく熱感覚は共有されていない上に煙が出るわけでもなく、バインドにはわからなかったのだが、混ざった液体は濁り出し、熱を放ちはじめていた。

「ですが耐えられないほどではありません」

「なら、さっさと仕留め……」

「待った」

 バインドに向けて、タカラが手を開く。

「あんまり大口開けないほうがいいぜ」

「何だと? ……いや、なんだ貴様その珍妙な仮面は」

 バインドがいぶかしんだのも無理はない。

 タカラは、マスクをしていた。

 それも、風邪の時のマスクなどではなく、突き出た防塵防毒マスクである。

 もちろん、そんなものはこの世界には存在しない。

「有毒ガスが出てるからさ」

「何!?」

 慌ててバインドは口元を精緻な刺繍が施されたハンカチーフでふさぐ。

「まぁ、命にかかわるほどじゃないけどね。それに屋外だからすぐ散るさ」

「なんと姑息な手を使うのか。どちらにせよ神体たる私にそんなものは通用しない」

 フリーダは剣を構えなおし、レキの方へ向ける。

「勘違いするなって」

 ちっちっちっ、とタカラは指を振った。

「熱も有毒ガスも副次的なものに過ぎない。本命は、ほら、よく見てみなよ」

「は?」

「剣、振れる? というか、歩ける?」

「え……あ……っ!」

 無表情だったフリーダの顔が、引きつった。

 いや、引きつらされた(、、、、、、、)のだ。

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