ビンタ
これなら、行ける。
「むぅ……」
一方、ブルーマークは動揺を隠せずにいた。
電撃が効かないことに焦り、一旦スライマスターを下がらせている。
「ことごとくこちらの予想を上回ってきますね……。下位の国と侮っていた自分が恨めしいです。こうなれば、秘蔵のルーンを……」
「させるか!」
タカラはスロットにパテのチューブを放り込んだ。
「こ、これは前回の……」
レキの手に、抱き枕サイズのチューブが出現した。
表面のカラーリングは前回より明るいが、その他は全く同じである。
「それを放つんだ!」
「は、はいっ!」
レキはキャップを外し、次々と撃ち放った。
黄色いゲル状の塊が飛び出し、スライマスターに向かう。
「くっ! 輝け! 光のルーン!」
咄嗟にブルーマークはスライマスターに指示を出す。
白に包まれる世界で、誰にも見えないだろうが、タカラは笑った。
対するブルーマークも笑っていた。
光っている間に、落ち着きを取り戻していたのだ。
レキにはスライマスターに有効な攻撃手段がない。
ゲル状の何かを飛ばしてきているが、耐熱耐衝撃加工のなされたスライマスターには何をしても無駄だ。
そして、妙な手袋で防御しているのなら、他の部分に攻撃すれば良い、そう考えたのだろう。
彼の脳裏には、光の中でスライマスターに取り込まれたレキの姿があったに違いない。
ゆえに、笑っていたのだ。
だが光が収まった瞬間、その笑みが凍り付いた。
「は……?」
黄色い。
スライマスターが、黄色い何かで塗りたくられている。
そして、動かない。
目の前にはレキが立っているが、スライマスターが動かないのだ。
「動けっ、動くんだスライマスター!」
しかし、スライマスターはニカワで固められたように微動だにしない。黄色いものが地面に張り付けているようだ。
「ど、どういうことですか?」
レキ本人が特に何が起きているかわからず、タカラの方を振り向いた。
「光硬化パテ。その名の通り、光で固まるパテさ」
それはパテの中でも特殊な部類に入るパテだ。
普通のパテが空気に触れて固まるのと違い、光を受けて固まるのだ。
なお、タカラはこれを原型制作時、パーツの縁の保護などに使っている。
「そんなものが……」
ブルーマークは、その場に膝から崩れ落ちた。
「何から何まで僕の予想の上を行ったようですね……」
ブルーマークはずり落ちた眼鏡を指で押し上げ、
「僕の……完敗です」
絞り出すように言った。
「うむ。フビト国神体行動不能により、タカラ・レキ組の勝利である!」
そのヨミーの宣言と同時に、
「見事じゃああっ……ぶくぶく……」
姫が泡を吹いて倒れた。
それをまたエポナが気つけし、それから二人で騒ぎだした。周りでつられたぴよぷーのぴょろりーぴょろりー鳴いていた。
ただ、ヤミタだけが険しい目つきでタカラの方を見ていた。
そのタカラは、レキの元へ近づいて行った。
「よ、よう」
まだどこか気不味いため、ぎこちない動きでタカラはレキに声をかけた。
だが、彼女は俯いたまま喋らない。
「ど、どうした? また嬉しくて泣いてるとか?」
タカラがその顔を覗き込もうとした瞬間――
ぱちぃいん!
「あだっ!?」
タカラの頬が思い切りはたかれた。




