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現代神様  作者: 有富有馬
9/23

出雲の神話、大和の神話

響の暴走。夜鳥との交戦。



あれから1日がたつ。一真の傷はすでに癒えており、肉体的にはなんの問題ない。 



 神としての一真からすればあれくらいの傷はすぐに回復してしまう。しかし少し眠れないでいた。



そのためか動くという点においては万全ではない。おかけで体力の回復も中途半端だ。というより寝たいが寝れないという状況が地味に体力を使うということをここに来て初めて気づくことができた。

 


しかし今一番の問題は響の方だ。



 

あの夜、響は気を失ったから一向に目覚めなかった。



一真の睡眠不足もこれが理由だ。

夜鳥もあの程度の傷ならすぐに回復してくる。いつ襲ってくるか分からない敵に一真としてはとてもじゃないが気を抜くことなどできなかった。



さらには深まる謎もちらほらと見えてきた。



 

さまざまなことが一真の精神を削っていく。しかし完全に守りの状況の一真にとって泣き言を言っていられるような状況ではない。



周りを頼ることも今の一真としては難しいことでもあったからだ。



 「やっぱり天津神には伝えられんな。かといって出雲の国津神も信じていいものか・・・・・・」


 

小さなため息が一真の口から漏れる。



一区切りに神といってもその種類は分けられてくる。



 大きくは高天原に住む天津神。そして芦原中津国(あしはらのなかつくに)に住む国津神。

大きく分ければこの二つだがそこからさらに細かく分けられてくる。

 


現段階からしてどちらにも応援を頼める状況ではなかった。



頼めばそれは素戔嗚の生まれ変わりである響のことを伝えることに他ならないからだ。



 「うっ・・・・」


 

 コクリと少し一真の頭が落ちかける。


 

「いかんいかん」



眠い目をゴシゴシとこすり一真は気合いを入れ直す。そんな中、コトンと目の前にティーカップがおかれる。

 中身はブラックのコーヒーだった。



視線をあげるとそこには香澄がいた。少し目の下にくまが見えるのが印象的に見えた。



 「少し・・・寝たら?」



 「とか言いつつコーヒーで眠気を冷ましにかかるのはどうかとおもうぞ」


 

そんな揚げ足を取りながら一真はコーヒーを一口飲んだ。それを聞いた香澄は若干安心したように笑みを浮かべてため息をつく。


 

「それだけ減らず口が叩けるならコーヒーは要らないですねー」


 

おかれたコーヒを香澄はヒョイと取り上げた。



 「ておい・・・・」


 

冗談よと一言告げると香澄はティーカップをおき戻す。

 


「でも一くん・・・本当に大丈夫なの?」


 

「まぁ・・・踏ん張るさ」

 


首や指、腰のスジを一真はゴキゴキとならす。



「いつまでかは分からないが、長引けば取り敢えず大社に駆け込むさ。あそこの祭神は大国主だし何世紀か前は素戔嗚が祭神だった。結界レベルでもこことは比較にならんだろ」




「??だったらつれていけばいいじやない・・・・すぐにでも」

 


不思議そうに香澄は言った。



 「大社は観光客が多いからな。簡単にはいけないよ。一般人を巻き込む可能性があるし、今の段階で響の正体を知られるのは得策じゃない。」



 「子孫の神にでも?」



 「子孫にでもだ。今は生まれ変わりという状況だからどう転がるか分からん。それに遷宮も重なっているからな・・・・あくまでも最終手段だ」

 


「一真の言う通りだ」



 不意に香澄の後ろから一真に同意する声が聞こえる。



 「栄吉さん」



 それは栄吉の声だった。一真と同じようにその顔には疲れが見える。



 「少し休んだらどうです?」



お前が言うな、と一真の気遣いに栄吉は呆れたように呟いた。

 


「お前こそ少し休め、いくら悪鬼が襲ってくるのが分からないといっても体調が悪くてはどうしようもできんぞ。」

 


「栄吉さん。知らないんですか?人間緊急時には火事場の馬鹿力ってのが出るんですよ。火の神だけにね」

 


「そんなもんに頼れるか。まったく・・・・」


 

口元に少しの笑みが伺える。一真の調子に少しは安心が持てたのだろう。


 

「響はどうだ・・・・」

 


「相も変わらずですよ。ただの気絶じゃない。不気味なほどに呼吸も心音も体温もすべてが一定でまったく狂わない・・・・まるで工場の機械みたいだ」

 


「いくら気を失っているといってもここまでのことはおかしいからね・・・・」



香澄が補足するように呟く。



あれだけの暴走があったにも関わらず響の体調には一切の変化がない。どれもこれもが人間の生命活動の基準値に近い値で止まっているのだ。

 


普通なら健康。しかし今の状況では異常と言うしかなかった。いうならば健康な不健康者とでも言うべきか。

 


「神力を使うことは少なからず体の調子を変化させる。コントロールも関係なくあれだけの力を、しかも突っ立っている状態でも流失していたのにも関わらずだからな」



それからと、一真は言葉を続ける。



 「何か分かりましたか?」


 

問いかけられた栄吉は残念そうに首を小さく横に降る。



 「書庫を探してみたが素戔嗚に関する記述は基本的なことしかなくてな・・・・・・」



 「まぁ・・・・・・高天原を調べてみてもおんなじ結果でしょうね」



 「そもそも素戔嗚という神の存在事態がしっかりとされていないところがあるからな」



 「??どういうこと?」


 

祖父の言葉に子首をかしげながら香澄は疑問を投げ掛ける。



それもそうだろ。自分の家の神社は素戔嗚を祭っているのに、その宮司がそんなこと言うのだから。



そんな香澄の疑問にたいして問いを出したのは一真だった。



 「出雲風土記と古事記がその顕著な例もか知れないな・・・素戔嗚尊の分岐点とも言える八岐大蛇退治。しかしそれは古事記には記載されているが風土記には乗っていないんだ」

 


「だからなんなんなの?」


 

「出雲と大和・・・・人間の世界で神の世界に該当するその二つで記憶の抹消・・・・または嘘が盛り込まれているのかもしれない。そうなってくるとどの資料も信憑性は低くなってくる。・・・・というかそこまで神一人一人まで詳しく書いてあるのは少ないし響の暴走も前例がないといっもいいかもしれない」



 「もちろんそれは素戔嗚のだけではないがな。素戔嗚、さらには大国主命を含める出雲系の神は記紀神話においても重要な立ち位置に存在する。しかしその地であるはずの出雲の風土記には『国引き神話』などは乗っていても『因幡の白兎』『国譲り』そして『八岐大蛇』などの全国的にも有名な神話は乗っていない。・・・・・にも関わらず、それらの神話はこの地に強く根づいている」



 つまりと一真は言葉をつなげる。



 「日本神話の二大巨頭といってもいい出雲と大和の歴史書は単純に矛盾・・・・・というか食い違いに近いものが存在している。」



 「もちろんそれに関係する本質的な資料もない。あっても学者の憶測の域をでらんだろ。まさしく神のみぞ知る世界というべきかの」



 「まぁそれも俺みたいに転生の神では知ることはできないでしょうがね」



 香澄の顔に疑問点が浮かぶ。 



 「ん~~なんか話が少しズレた気もするけどとりあえずは資料からの解決は望めないということなの?」



 「ああ、天津神ならばほぼ問題ないだろうが、出雲系の神には通用しないことがおおいだろうな」



 つまり、手詰まり。



 現段階で響の回復を促すのは難しいということだ。 



 一真はそう頭で結論づけると、大きくため息をつき頭の中を振り返る。

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