真実
響というべき存在、というより素戔嗚尊はゆっくりと自身の宮を見上げている。
『真実を伝える』
突然告げられるその一言にどう対応していいかわからなかった。
そもそも今この光景が一真たちの頭を混乱させている原因だろう。
突然現れたかと思えば、さっさと話を進め、今に至る。
本当に素戔嗚なのか?という不安が生まれてくるが、窓から吹き込んだ風が過ぎ去った後だ。響の体からほとばしり始めたのは素戔嗚の神力だった。
そして、素戔嗚が伝えるという真実とは・・・・・
「加具土よ・・・・剣を貸せ・・・・」
「?」
一つ一つの言葉に響の外見からは似合わない凄味が滲み出ている気がする。そんなことを思いながら一真は手に自身の神力を集中する。
すると夜鳥の時と同じように炎に包まれながら一振りの剣がそこに現れた。
それを素戔嗚に投げる形で手渡すと一言ウム、といい受け取った。
鯉口を切り、ゆっくりとその剣を素戔嗚を引き抜く。暗闇の中でも輪郭がはっきりとわかるほどの白さを持つ剣。一真の持つもう一振りの黒金の鈍く光る刀とは対照的だ。
いったい何に使うのか。それはわからないが真実を知るには彼の協力が必要だ。彼が留まっていられる時間もどれくらいあるか分からない。いちいち口論をして時間切れ。真実はわかりませんでしたじゃたまったものではない。
しかしそんな一真の考えを吹き飛ばすことを素戔嗚は行う。その白金の剣で響の左手の脈を切り裂いたのだ。
「な!!・・・・」
三人はその右手に視線が釘づけになる。痛々しいとかそんなことを思わせることも、その行動はさせなかったのだ。
響の動脈から水道のように水が流れ出ている。
素戔嗚尊という響の生まれ変わる前の存在により今の素戔嗚、つまり響はギリギリのところで生命活動を送ることが出来ている。
それにもかかわらず、自ら出血多量により命を絶とうとする行為に、一真は先程の考えが一気に消える。
「おい!!!どういうことだ!!!」
その怒りに反応してか、一真の周りから火の粉が散る。
怒りの態度に対し、素戔嗚は耳に響いたのか少し嫌な顔をしながら、
「わめくな。これもすぐに止まる。」
すぐに止まるといいつつも、その左手からはドクドクと鮮血が勢いよく溢れ出しているのだ。
しかしそこで一真はあることに気付く。流れ出ている血が、まるで道に沿っているかのように流れているのだ。途中何本も枝分かれをするが、それ以外の場所は全く流れ出ている血によって埋め尽くされていない。
全てが血管のように綺麗に血の道を作っているのだ。
「これは・・・・」
一真の頭にふと浮かんでくる。
「わが宮よ。我が血によりその姿を表にさらせ」
そう素戔嗚が呟くと、ゆっくりと地面に血が吸い込まれていく。すると地面の砂や敷き詰められた小石、そして石道が内側に引きづり込まれていく。
そしてそれが収まり現れたのは人ひとり分が入れるくらいの幅の穴だ。
そこには階段がある。
「ま、まさかこんな仕掛けがしてあったとは・・・・」
今までこの神社で生きてきた栄吉。齢70歳前になる栄吉でもその存在を知らなかったのか。しかも秘密の扉があるとか、そんな未確定な情報すら知ってはいなかったようだ。
「封印を解くための、血だったってわけね・・・」
苦笑いを浮かべながら、一真はその結界レベルの高さに感心する。
自らの血を使って行うタイプの神術。それが素戔嗚の行為の理由だった。
一真も規模こそ違うもののよく自らの血を使った神術を使っている。一真自身も大量に自身の血をつかった神術を使うが、そんなのはめったにない。
そもそも、血の量=ランクの高さになる。この量での封印となればそれこそ強力だ。
しかし確実にそれが見つからないというわけではない。例えば、天の岩宿を祭る神社。そのご神体にあたる岩宿は天手力男神が遠くえ投げ飛ばし封印したものだ。しかし今ではその岩は見つかり神社となっている。
そのように必ずしも見つからないというわけでもない。
さらに古より素戔嗚系の神社は高天原の監視下にあることが多い。この神社にも素戔嗚の姉にして日本の神の最高位である天照大御神を祭る神社がある。
その監視下にあるにもかかわらず、今の今までその存在を人にも神にも知ることはできなかったのだ。
これが素戔嗚。これが三貴神。
伊弉諾の鼻から生まれた、もっとも尊い神といわれた三貴神の一人の力ということだ。
付いてこい。素戔嗚はそっけない態度で告げると、剣を一真に投げ返し一人階段を下りていく。
ゴクリと生唾をのむ。
好奇心に近いものからくる緊張だ。この下に隠された真実があるのだ。それを思うと心の準備をせずにはいられない。
ゆっくりと一真は隠された神社の地下への階段の一歩を踏み出す。するとその瞬間何かが体に流れる混むのを感じた。
例えるなら車に落ちた落雷だ。ここには壁にも階段にも神力が流れている。その神力が、車に落ちた落雷がその表面を通って地面に流れるように、一真の体を流れて進んだのだ。
初めての経験だ。しかし分かったことがある。やはりというべきかこの部屋はいかなる探知からも逃れるために素戔嗚の神力で守られている。その証拠が神力の流れだ。
それはまるで血管に血を送り出す心臓の永久機関バージョンだ。なんといっても素戔嗚がこの世にいない間もこの神力は流れ続けていたということなのだから。
「なかなか良い出来だろ?加具土よ・・・・」
その一真の表情を読み取ってか、素戔嗚はニヤリと笑っている。それと同時に神の毛を一本、引き抜くとフウとその髪の毛を吹き飛ばす。
すると壁の周りの松明に火がともり始める。
「・・・・・正直驚いている。この部屋を隠すための結界・・・・・同じく神をも完璧に欺くこの結界は相当な工夫があると思えるな。」
「フン・・・・まぁ気が向いたら教えてやろう、それより栄吉と香澄とやら足元に気お付けろよ、うっかりすると俺の神力にあたって足を怪我することもあり得るからな」
「は、はい・・」
後ろを振り返ると香澄と栄吉がゆっくりと降りてきている。
なるほど、この部屋の神力に敵意のようなものは感じられない。
しかし香澄たちは一真と違って神力に触れる機会が少ないために違和感を感じぜずにはいられないのだろう。
「着いたぞ・・・」
あれから5分。酸欠などの被害も起こることはなく、ついに階段は終わった。
素戔嗚がパンと両手をたたく。すると両端の松明が奥へ向かってともりだす。
「これは・・・・」
栄吉がそのあらわになった場所の雰囲気に呑まれているようだ。
そこは円状の大き部屋だ。真実があるといわれた部屋、しかしその場には何もない。
何もないがその壁には何枚かの絵が描かれている。
「この壁画は・・・・」
香澄が興味深げにその壁画に近づく。壁画は全部で四枚。その全てが色鮮やかに描かれている。
「これ・・・・まるで物語みたい。左の壁画から右に向けて物語が進んでいるみたい」
確かに壁画を見比べてみるとそれはまるで物語のように少しずつだが、絵の内容が変わっている。
「・・・・まるで高松古墳やキトラ古墳の様だ」
栄吉がボソリと呟いた。
高松古墳そしてキトラ古墳というのは奈良に存在する古墳だ。特徴的なのはその内部に描かれた絵だろう。空気に触れなかった為、はるかな時を超え現代にその色彩を残している古墳。内部に絵が描かれているという点でもとても重要な歴史的文化財だ。
「でもこれは・・・・」
一真はその物語のような絵を見ながら、言葉を詰まらせる。
何と言いていいのか、一真の率直の感想としては、気持ちが悪いだ。
確かに、この壁画は二つの古墳の壁画のように鮮やかな色彩見るものを魅了してしまいそうな雰囲気を持つ。
が、しかしその絵事態はその色彩の魅力を塗りつぶすほどの異様さを放っていた。
物語主人公は一人の男の行動だった。
「お前らも大方の予想はついていると思うが、この壁画にはある重大な真実が記されている。」
一枚目び描かれているのはその男によって首を切られた生物。
「これは俺が表の歴史から抹消した真実。」
二枚目男が剣を掲げている絵
「しかし完全には消すことが出来なかった出来事」
そして三枚目にはその生物から何かが漏れ出している絵
「八岐大蛇との戦いの、真実だ」
そして最後の絵に描かれていたのは八本の鳥居で囲まれ大縄を巻きつけられている大岩の絵だ。
特に、その絵は異彩を放っているように思える。
これがなんなのかはわからないが、この一連の事件の重要なターニングポイントの一つであるのは間違いなっそうだ。
「お前たちも不思議に思っていたはずだ。大和の歴史書と出雲の歴史書ではその内容に不自然な違いがあることに」
確かにその通りだ。香澄にも説明したように出雲の風土記には記紀神話の書物に記された出雲の物語の有名度にもかかわらず記載されていないものが多くある。
「確かに・・・・八岐大蛇の神話、大国主の神話は一切出雲の風土記には記載されてはいないですな。そもそも風土記というものはその地の神話を収めたものであり知名度的にはとても低いものもある。しかし一方で出雲神話を語るうえで無視することが出来ない神話はほぼ大和側の書物にしか書かれていないという状況は疑問を感じれずにはいられないところですな・・・」
しかしその説明をしたところで素戔嗚はニヤリと自慢するかのような笑みを浮かべる。響の顔であるのにその表情はとてつもなくマッチしているように思える。
「それはそうだ。出雲の歴史にそのことを一切記載されていないのは、俺がそうするように大国主に命令したからだ。」
「・・・・・は?それは・・・・一体」
何とも突然のことに栄吉の顔は内容をしっかりと理解していない表情が見て取れる。
「・・・・内容自体が・・・・とてつもなく危険・・・・だったからか?」
一方で一真はその問いを予想していたのか、あわてることもなくさらに深く問い詰めにかかってくる。
「ほう・・・さすがは加具土命・・・・・大方の理解はできているようだな。その通りだ。八岐大蛇との戦いは決して俺の英雄談というものではない。もしその内容が表に出れば出雲どころか芦原中津国を含め、黄泉、高天原をも巻き込む大被害が発生していたはずだ。」
地上と黄泉、そして神が住む高天原。それらの世界を巻き込む出来事が起きる。それは端的に行ってしまえば日本という国が終わりを告げることに等しいことだ。
「え・・・・ちょっと待って・・・その内容って?」
しかしそこは問題ではない。その言葉のインパクトで消えそうになるが、実際今現在、それが起きてはいないのだ。
問題は素戔嗚が言った、『その内容が表に出れば』その一言に尽きている。
「お前らの知っている大蛇の話は大雑把ではあたっているがすべてが真実ではない。」
素戔嗚はそう釘をさすと改めてなその真実を語り始める。
「俺が大国主に出雲の歴史書に記載するなと伝えたのは、イラつくことに奴がわしの娘、スセリ姫を連れ出した時だ。その時に、もし出雲の歴史を記載するときには大蛇の事は書くなと告げていた。結局、奴はその通りに大蛇の事、含めその他の事も記載はしなかったが誤算も誤算だ」
皮肉るような笑みを浮かべて素戔嗚は語る。
「我が姉は自身の子供たちにその八岐大蛇の歴史書を記載させよった。・・・・まぁ・・・・天叢雲剣を献上した時にそのことは知れとるし、自分たちの神器の発生くらいはっきりさせたかったんだろう。」
「つまりそれが・・・・出雲の風土記に記載されてないわけであり、私たちが知っているのは大和版、つまり天津神の大蛇神話だと・・・・」
その通りだ。と素戔嗚は端的に答える。
「そしてこれが大蛇神話の真実にして、俺が記載させなかった理由でもある。」
親指を立て、素戔嗚は後ろにある四枚の絵を指さす。
「大蛇というのな、ただの悪鬼ではない。おさらいだが普通ならば悪鬼はその身に多くの負の念を集め、そこから人を食らい自身の負の感情の純度を上げていくわけだ。悲しみなら悲しみ、怒りなら怒り、嫉妬なら嫉妬というように自身の負の感情を一つに絞り力を上げる」
それは一真も栄吉も承知の事だった。
何年も悪鬼とは戦っているのだ。そんなのは計算を行うために数字を覚えるようなものである。
「しかし大蛇は違う。体に混ざり合った負の感情を取り込み、八つ頭それぞれには純粋な負の感情が宿っている。一体で多角の悪鬼として働くわけだ。強さは単純に八倍。そして奴自体でその何十倍の強さだ。まさに負の塊よ。」
自嘲気味に話すその言葉どおり、それは真実なのだろう。
一真も信じたくはないが、よくもまぁそんな化け物を倒せたものだと思う。
いうなれば大蛇という存在は覚えた数字は使えるが、使えたとしてもその数字では足し算引き算も掛け算も割り算もできない存在ということだ。
数字なのに数字として機能しないのだ。
「しかし・・・あんたはその化け物を倒したんだろ」
そう。それは真実だ。出なければ素戔嗚の神話は伝わらないし、天叢雲剣もありはしないのだ。
「一応な・・・」
「一応・・・か・・・・」
「俺は確かに奴を倒した・・・・しかし奴はその体から大量の負の感情を吐き出し、その地を負の感情で満たし始めたのだ。それこそ津波のようにな。そしてそのまま行けば確実に大蛇は復活する。・・・・・どれほどの月日かわからんがな」
つまりそれが三枚目の壁画だろ。大蛇の首から機関車の煙のようなものがあふれ出ている。
「ゆえに俺は、大蛇の死体を封印することにした。それぞれの鳥居で首を抑え、胴体を岩でふさいだ。」
素戔嗚は四枚目に目線を向けながら、目線を鋭くにらむ。
「なるほどな・・・・・つまりそれが」
「ああ・・・・大蛇の神話を隠した理由であり、今この真実を伝えた理由だ。」
「まさか・・・・・」
香澄の顔が青ざめて見える。
「封印されたということは、それを解くこともできる。ここは大蛇の封印と同じ方式で作ってある。さっきっも見ただろうが、俺の血で封印が解けたということは大蛇の封印も俺の血で解けるということだ」
「で、では夜鳥の目的は・・・・」
「その通りだ。大蛇の復活だ。」
「だろうな・・・あの場で夜鳥が血を使わなかったのも納得がいく。・・・・なんてこった・・・・これじゃ近近、黄泉も地上も高天原も破壊する最悪の悪鬼の復活というわけか・・・・クソッタレ」
とんだ検討違いを一真はしていたのだ。
夜鳥を知るものなら誰でも同じ勘違いをしたはずだ。
「時間はそうはないだろうな。あちらの結界はこちらより強力に占めてある分時間はかかるだろうがそれでもそう長くはないだろう」
それならば急がなければならない。簡単に言えば日本の終わりが目の前に向かっているのだ。
「しかし、夜鳥はもう封印の解除に入っているはずだ。・・・・どう止めたらいい・・・」
恐らく夜鳥はすでに響の血を大蛇の封印石に使っているはずだ。
今の最優先解決は大蛇の封印解除の阻止。もし夜鳥を倒しても封印が解けてしまったら意味がない。
パソコンのロックを外すように、一度キーを入力してしまえば独りでに解除までの時間を満たしてしまうはずだ。
「それなら問題はない。お前らが使う『ぱそこん』という物で例えたら、条件が満たされる前に、取りやめをしてしまえばいい。」
トントンと素戔嗚は頭を人差し指で突っつく。
どこからパソコンなどという単語が出てきたのかと思ったが、どうやら響の記憶から今の世の事が多少なりともわかるようだ。
「つまり、封印石から血を引き抜け。方法は封印石に手を当て、俺の神力を感じ取れ。それをお前の神力でつかむように引けば、血が抜けるはずだ。」
「・・・・なるほど」
しっかりとこのような事態も考えていた素戔嗚スラスラと問題を解決していく。
あとは夜鳥を倒し、封印解除を取りやめさせるだけだ。
しかしここで問題が一つ発生する。
「場所は・・・・どこだ・・・・・というよりは・・・・夜鳥は場所を知っているのか・・・・」
「確かにその通りだ。ここの封印は誰にも知られていなかった。ならさらに強力な結界ならなお見つけれないだろう。だが栄吉よ・・・・夜鳥の行動は明らかに準備を終えている雰囲気だったのだろう?つまり・・・・場所はすでにわれている可能性が高い・・・・方法はわからんがな」
「確かにそうよね・・・・・それに私たちが場所を知るのも問題ないと思う。」
「??何でじゃ?」
「なんでって・・・・目の前に封印した本人がいるじゃない・・・」
「いいことに気付くじゃないか」
その言葉にまたしても響の形をし素戔嗚はニヤリと笑う。
「もちろん、このまま大蛇の復活を見逃すわけにはいかん」
そういうと素戔嗚は四枚目の壁画に手を当てる。
「大蛇の封印石の場所は変わってはいない。しかし俺は現代の地形を知らんからな・・・・お前らに・・・・その場所を・・・・伝えるとしよう。」
ガクンと突然と響の膝が崩れる。
「おい!!?」
一体どうしたのか、今まで何ともなかった素戔嗚が宿る響の体からは異常な汗が出ている。
「だい・・・・じょうぶだ・・・・現代の俺が・・・・目覚めつつある・・・・だけだ」
「待て・・・・響が・・・生き返るのか?」
「今回は御霊を鎮めたこの地に・・・・反応して俺の魂が・・・・目覚めた為に・・・・・現代の俺の命は尽きてもその回復が・・・・できた・・・・・しかし今回だけだ・・・・恐らく次はない・・・・・受け取れ・・・・」
素戔嗚の手から青白い光が一真に向かう。
「気お付けろ・・・・加具土・・・・お前の敵はその身に自身の負の念・・・・・そして大蛇の負の念の影響で強力になっているはずだ」
「・・・・分かった・・・」
響の体が壁にもたれかかる。
動揺していた香澄だが、すぐさま響に駆け寄ると、
「脈が、流れてる・・・・・生きてる・・・・生きてるよ!!一君!!」
「そうか・・・・・響はまだ死んでいないのか・・・・」
こんな状況なのに心の中に一滴の安心感が生まれた。その滴はいとも簡単に張りつめた一真の張りつめた糸を緩ませる。
「香澄、栄吉さん・・・・響をお願いします・・・・・あと・・・・信用できる出雲の神を基本的に中心にして国津神に・・・・それと天津神にはやはり連絡準備で願いします」
「行くのか?」
「ええ・・・・時間もありません」
一真は拳を強く握る。
自身の疲れが抜けきっているのを実感する。
「抜け目がないね・・・・・あの神は・・・・」
小さく笑みを浮かべる。
どうやら素戔嗚は場所と一緒に体力の回復もしてくれたようだ。
響が死んでいないことは心の底からうれしいことだ。しかし今はまず、目先の事を何とかしなければならない。出なければ響が生き返った意味もなく世界は終わりに向かうだろう。
場所はわかった。その光を掴んだ瞬間すぐに明確な場所が浮かんだのだ。過去と現代の土地の修正もすぐに分かった。
世界の命運をかけた戦いに一真は改めて兜の紐をしめなおす。今動けるのは自分一人だけなのだから。
「一君・・・・」
「・・・・なんだよ?」
そんな中、香澄の一言が一真の集中を止める。その為か一真の口調も少しピリ辛だ。
「死なないでね。ご飯もお風呂も・・・・準備しておくから・・・・」
「・・・・・ああ・・・・ありがとうな」
何を気負っているのか。一真は小さな笑みを口元に浮かべる。
自分一人ではない。今ここにる誰もが、出来ることをしていてくれているのだ。栄吉も響も香澄も。場所は違えど、一人一人の助けがあるからこそ、一真は戦えるのだ。
経験したことがなければ理解が出来ない。その言葉が明確に浮かんでくる。
確かにその通りだ。でも人は経験してないことを何かで補う形で理解しようとするのだ。
香澄が一真が戦えるように生活を支えたり、栄吉がさまざまなところで動いてくれたりするか、経験していなくても気持ちを理解することに限りなく近づくのだ。
どんな時でも、だれもが一緒にいてくれて支えてくれるのだ。
その香澄の一言で、そんな簡単そうで難しいことに今、改めて気づくことが出来たのだ。
「飯・・・・期待しとくよ」
「まかせといてよ!!」
ニコリと香澄は笑顔を浮かべる。それがたまらなく一真にとっては嬉しかった。
「いってらっしゃい・・・・一君」
「いってきます」
そういうと一真はその神速で一気に目標地点を目指す。




