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天才様に人の気持ちはわからない!? ※本人に悪気はありません。  作者: 七月なのか


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プロローグ①

 私はシェリル。

 今は、ただのシェリル。

 チャームポイントはカチューシャで、好きな色は新緑の緑。それと思い出の青。


 ほんのわずかな無邪気な子供時代を除けば、カイルと出会うまでの間ほとんどの時間は最悪だった。


『あなたを少しだけでも守ってくれますように』

 そう祈るように言ってティアラのように恭しく頭にのせられたカチューシャは、私のお守り。そして別れの象徴。

 そこからは最悪。特に孤児院に入れられてからは、最悪中の最悪だった。

 孤児院のお勤めの時間は、子供を食い物としか思っていない大人たちと過ごす時間だった。心が砕けてしまいそうで、体がばらばらになりそうだった。


 私が11歳までいた孤児院は、子供が十五人程度の小さな孤児院だったが、資金は潤沢だった。

 孤児院は孤児たちの新しい養育者を見つけるための活動を活発に行っているし、養育者が見つかりやすいように教育も与えられる。本も潤沢にある。子供たちの健康が損なわれないよう、施設は清潔に保たれ、食事も適切に与えられる、運動の時間もある。病気がないか定期的な検診もある。

 子供たちには十分な衣服も与えられていたし、子供を養育するには十全であると言ってもいいのかもしれない。

 子供たちには個室が与えられ、広い寝具もある。気になった子供と養育者候補が一緒に過ごすこともある。引き取ったあとに齟齬がないためだそうだ。

 外からの侵入者が入れないように鍵がかけられ、高い壁に囲まれて外から侵入できないようになっている。中から好奇心に負けて外に出て、迷子にならないように――子供たちを守るためなのだそうだ。


 孤児院長いわく、きちんと教育が施されているか、きちんと健康であるか、きちんとマナーが理解できているか、きちんと話を聞くことができるか、逆らわないか。

 この孤児院へ訪れる養育者候補の方々は身分が高い方も多いので教育が大切で、基本的なことを養育者の方々に見てもらうため、だそうだ。


 孤児院長や職員は、時にお気に入りの孤児を自室に呼んで一緒に添い寝をすることもある。ちゃんと健康なのかを知りたいからだそうだ。


 ここは愛の溢れる天使の園で、穢れを知らない子供が養育者となる主人と出会う場所なんだそうだ。

 よりよい出会いのために、子供たちのためのお勤めが存在する。

 それはよりよい養育者との繋がりを作るために、すべて必要なことなのだそうだ。

 ご立派、ご立派。大変けっこう。大変結構嫌ですというのがシェリル自身の意見だが。


 王国奉仕制度、通称「時間奴隷」

 昔、ノワル王国には奴隷制度があって、時の王様が「奴隷なんてよくない!可哀そうじゃん!やめよう!」と先進的なことを言い出して撤廃した。

 しかし慈悲ぶかーいやさしーい王様は、元奴隷たちや貧乏人が金がなく苦しむのはよくないと思った。でもなあ、お金をばらまいてもな、あったらあっただけ使ってしまうような人が多すぎた。だから王様は考えたのだ。魚を与えるのではなく釣り方を教えよというわけだ。しかし学校に通う機会を与えられたこともないような元奴隷たちに何ができるかというと・・・、できることをできるだけ働いて賃金を得る。

自分のできる労働を時間で買ってもらおう! 本人の希望する内容なら、ひどいことにはならないよ、と制度を作った。

 労働者と雇い主は、双方の同意のもと契約魔術を結ぶ。

 本来「時間奴隷」の制度は、自分の時間を買ってもらい、自分ですることを決められる制度だ。


 ――子供以外は。


 子供は保護者の意のまま。

 私の場合は、孤児院の大人たちが決めた内容で買われていく。

 その時間は契約魔術で縛られて、抵抗も拒絶もできない。

 子供は大人の望むままに扱われる。

 揺さぶられ、追い詰められ、心まで削られていく、おぞましい時間。

 シェリルは、この孤児院に連れてこられてから孤児院の他の子供たちと同じように、こうやって自身が浪費されていくのだと絶望した。


 孤児たちの引き取り手の候補者たちとのお勤めと称した交流は様々だけど、一番一般的なものはお食事会。

 この場合だと、子供たちはお手伝いと称され、給仕をすることが求められる。

 震えながら特別な衣服を着せられた子供たちは、慎重に教えられたとおり給仕に徹する。

 ミスをすれば候補者たちや先生に再教育と称して叱責されたり、つねられたり、打たれたり、厳しく罰せられたりするからだ。

 まあミスをしなくても、お気に入りを見つけてしまった場合そうなる場合もあるし、上手にできれば撫でられて、膝に乗せられることもある。

 もちろんお察しの通り上手くできても、教わった通りのことが出来ても、候補者の方々の気まぐれ次第でいかようにも。つまり成功しても失敗しても地獄みたいなものだ。


 シェリルはたいへん賢かったので、教わった通りのことをすぐに行い、ほとんど失敗することはなかった。

 しかし、失敗をしないで完璧にやり遂げても褒められても何もいいことはないとすぐにわかってからは、食事会から逃げ回り、孤児院中どこにでも隠れてみた。

 しかし必ず見つけ出されて、こんなことしたくないのに……いい子になりましょうね、と目を弓なりにした孤児院長に優しげな声で叱責されてからは、心を殺して食事会に出ていた。

 こういう手合いは、無視が一番ましだと悟った。

 何をされても反応しないシェリルは、孤児院の中では大変不人気だった。


 中でも醜悪なお勤めは、バニーハント。

 子供はウサギに扮して、庭で候補者たちとの追いかけっこを強要される。

 捕まったら何をされるかわからない恐怖でいっぱいだし、捕まえた人間の意向に沿うよう、あらかじめ契約魔術を結ばれてから塀の中に放たれる。



 ここはそう、醜悪な天使の園なのだ。


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