30-5
その日の夜。
陸島達が食事を終えた頃、学生一同は会議室に集まっていた。そこには布塚と龍弦もいた。
「皆、おるな?」
龍弦の説明の始まりで鴉田が口を開く。
「ええ。いきなり集まってほしいってなんです?まさか殺し合いをやれと?」
「そんなわけないじゃろ!?」
殺し合いという思わぬ言葉に陸島と鴉田以外がずっこけ、布塚は吹き出した。
「乗った。全員武器を取れ」
陸島は十手を手に取る。
「じょーとーですよ!!やみあがりなめんなー!!」
「待て待て待てーい!!」
流山が躍起になり、雰囲気がカオスに染まろうとする中で龍弦が慌てながら静止する。
「違うわ!!布塚さんがここを離れるから挨拶をしておこうという話じゃ!」
「なんだ違うのか。そう言えよじじい」
「いや今のワシのせいじゃないからな!?」
気を取り直してもう一度。
「ええとじゃな……少し早いかもしれんが、布塚さんがここを離れることになった。仕事でな」
「はい」
布塚は立ち上がって学生の方を見る。
「短い間でしたけど皆さんの近くで仕事できたのは幸いでした。ここ最近は組織の魔女との戦いが激しくなる一方で不安な事も多々あります」
普段のやんわりとした態度とは違って真剣な姿勢で布塚は語る。
「でも皆さんならきっとどんな壁も乗り越えられますよ。大丈夫です。もしピンチになったら呼んでください。いつでも駆けつけますから」
「ええ。こちらこそ、お世話になりましたわ」
燦央院が深く頭を下げる。
「トパーズ・グラスのリーダーとして皆さんのこれから、応援してますよ!おじいさんもお元気で」
「うむ。いつでも来てくれ」
「勿論です。生きてまたあのかつ丼を食べに来ます!」
「ハッハッハ。そうしてくれ。卵と味噌汁もつけておこう」
「それをやるなら牛丼じゃないですか?」
鴉田の突っ込みに龍弦は『そうじゃったっけ?』と返す。
布塚は笑った。そして陸島の方を見る。
「それじゃあね陸島君。何かわかったら連絡するわ。例の仮面の魔術師とか、貴方のお母様とかね」
「ええ。でも基本は自分の事を優先していただいて結構です」
「そう遠慮なさらずに。あ、そういえば……」
布塚ははっとなって陸島の方を見る。
「陸島君、豊野儀さんに会ったって本当?」
「あ?」
瞬間、コンロの火が付いたように陸島は切れた。
怒る様子に一同はぎょっとし、布塚は焦る。
「そ、そんなに怒る!?」
「ええ」
二人の合間に相原が割って入り、布塚に説明する。
「ええとその……豊野儀さんとは色々ありまして」
「あらそうなの?てっきり協力してもらってるのかと」
「あの女?死んでも断る」
「な、なにがあったの……?」
「というかどっから聞いたんですそれ?」
拳を握り、怒りを保ったまま陸島は布塚に聞く。
「三田川さんよ。島にいた頃に会ったって聞いたけど……」
「ああ。そういうことですか。で、そいつがどうかしたんです?」
年上相手に陸島は圧をかけつつ、質問を投げる。
「いやまあさっきも言ったけど、協力とかしてもらってるのかなと。陸島君、実力で人を見てることろあるからさ。豊野儀さん、同世代の魔女の中じゃ最強よ?」
「……あれでか」
「本当よ。飛ぶわ燃やすわでもうほんと凄くて――」
布塚が興奮気味に説明するが、陸島の眉間に増えるしわを見てそれ以上は何も言わなくなった。
(無理もないよ。あの態度は陸島君相手じゃどうにも相性悪いよ)
鼠川は陸島と豊野儀が一緒にいた時の光景を思い出していた。
(だが陸島よ。ちょっとあれはどうかと思うがね)
同じく蛇島もその場に降り、豊野儀のからかいが度が過ぎたとはいえ、殴ったのはどうかと怪訝そうに思い返していた。
(トランジスタグラマーの彼女か……いいよね)
鴉田は豊野儀のスタイルを一人ほめていた。
何してんですかねこいつ。
「ま、まあそれは置いといてな」
龍弦が慌てながら話を戻す。
「布塚さん。短い間でしたが、ありがとうございました」
「あ、はい。こちらも部下に色々と支援していただいて助かりました」
その後、一同は外に出て布塚の乗る車を見送ることに。
「そうだ陸島君」
車に乗った布塚は陸島一人を呼び、彼を近づけさせる。
「なんです?」
そして彼女は小声で会話を始める。
「耳タコかもしれないけど相原さんには優しくね」
「ええ。そうですね。こちらもお忙しい布塚さんに連絡する時は三田川さん経由でお伝えしますよ」
「それだけはやめて!」
懇願する布塚を陸島は薄ら笑いで見ていた。
――何を話していたんだろう……?
一行はそれが気になった。
そして車は走り出し、橘樹邸を後にした。
「さて、これからじゃが……」
龍弦は手を叩き、一行の視線を自身に向ける。
「君たちはまだ見習いの魔術師と言う立場におる。だから基本的には社会人、あるいはクランに所属する魔女の協力なしに任務を受けさせる気はない」
ここでいうクランの魔女と言うのは例としてトパーズ・グラスに所属する布塚やエメラルド・ナイフに所属する根岸、金島も該当する。
「そこでじゃ。先ほど連絡して一人の魔女をこちらに連れてきて貰うことにした」
おもむろに龍弦は燦央院の方を見る。
「……あ、ひょっとして」
「うむ。吉川さんじゃよ」
吉川みどり。
燦央院家に仕えるメイドの一人であり、同時に魔女でもある。
「え?吉川さんそんなに強いんですか?」
鴉田が聞くと、蛇島と燦央院が彼の方を向いた。
「当然ですわ。まだ未熟だった私に魔術のイロハを教えていたのですから」
「うむ。僕も色々とお世話になった」
「ほほう。あっちの意味でか?」
「お前なあ……」
アホな鴉田の問いに蛇島は呆れる。
なお、この後鴉田は外崎がしばきました。
「彼女じゃが今日の深夜に来るそうじゃ。本来なら今くらいの時間に来るようじゃがどうやら仕事が入ったらしく、それをある程度進めると言っててな」
「ええ。私もそう聞いてますわ」
龍弦と燦央院が話す横で陸島は吉川と言うメイドについて思い返していた。
(ああ、以前俺に情報をくれた人か)
「おや?陸島もしかして戦おうと思ってる?」
ぼろぼろの鴉田が陸島に問う。
「戦う……か。ありだなそりゃ」
吉川と戦う。
その考えに燦央院が慌てて突っ込む。
「陸島。悪いことは言わないからやめておきなさい。吉川は温厚そうに見えて結構怖いんですのよ?!」
「なんだ?陸島、燦央院さんもああ言ってるんだ。未来から来た殺人ロボットとかナントカの猟犬とか時間止めるとかの類か?」
そう言ったのは陸島ではなく鴉田。
「……一部被ってないか?それ」
蛇島は気づく。
それは置いておきまして。
「へえ」
陸島はニヤリと笑った。
――あ、だめなやつだこれ
周囲は察した。
「とにかく!やめておきなさいってことですわ!」
「ああはいはい。お前より強いというのはわかったよ」
ひねくれた口調で陸島は賛同した。
その様子に龍弦が拳骨を入れる。
「あだっ!なにしやがる!?」
「お前はその捻くれ具合をどうにかんせんか!!」
ぎゃあぎゃあと喚きながらも夜は更けていく。
吉川が到着したのはそれからしばらく後だった。




